第5話

 食事を済ませて、俺と米村さんは洋服を見に行くことにした。


「これとかいいんじゃない?」


 そう言って、指さしていたのは、グレーのロングコートだった。


「そうかな?」


「身長高いから絶対に似合うよ、試着してくれば?」


 米村さんに促され、俺はロングコートを持って試着室に行った。普段、ネットショップで買っているから試着室が新鮮に感じる。ジャンパーを脱ぎ、ロングコートを羽織った。


「着れた?」


 俺は、ロングコートを羽織ったまま、試着室のカーテンを開けた。


「すごい似合ってるじゃん」


「そうかな」


 俺は、米川さんに勧められてこのロングコートを買うことにした。値札を見ると、一万五千円と書いてある。俺は、初めて一万円越えの洋服を買う。少し、大人の階段を登った気分だ。俺は、レジに行き会計をした。手持ちが五千円しかなかったからデビットカードで支払った。


 会計を終えて、次に米村さんの服を探すことにした。


「米村さんは、どんな服探してるの?」


「カーディガンが欲しい」


 俺と米村さんは、カーディガンの置いてあるコーナーに行った。


「これとかいいんじゃない?」


 俺は、キャラメル色のカーディガンを指差した。


「うーん、これだと学校で着れないんだよね」


 俺は、大きな勘違いをしていた。米村さんは、学校に着ていくカーディガンを指している。てっきり、普段着るカーディガンを探していると思っていた。


「でも、鈴木くんが勧めてくれたから買っちゃおうかな」


「でも、学校できれないけど・・・」


「学校のは、別で買えばいいから」


 そう言って、キャラメル色のカーディガンを持ってレジに行った。


 その後、いろいろなお店を回った。回っている間に米村さんの好きな服やネイルを知ることができた。時計を見ると、三時半を回っていた。


「スタバ行かない?」


「いいよ」


 俺と米村さんは、一階にあるスタバに行くことになった。やっぱり、ギャルと言ったらスタバなのだろうか。


 スタバなんて、半年ぶりに来た。俺は、いつもキャラメルフラペチーノしか頼まないからどれが美味しいのかよくわからない。


「米村さんは、どれにする?」


「限定のやつかな」


「じゃあ、俺もそれにしようかな」


 限定のストロベリーモカにした。俺がモタモタしていると、米村さんが注文してくれた。受け取り口でストロベリーモカをもらい、空いている席を探した。


 席に座って、ストロベリーモカを飲んでいると


「インスタ教えてもらってもいいですか?」

と女の人が米村さんに声をかけてきた。


「いいですよー」


 米村さんは、女の人とインスタの交換をし始めた。この光景を見て、俺は米村さんと一緒にいていいのか考えてしまう。


「米村さんはすごいね」


「どこら辺がー?」


「知らない人とインスタ交換したりするところ」


「そーかなー、鈴木くんの方がすごいと思うよー」


「なんで?」


「だって、鍵を無くして困っている人を家にあげて泊めさせてくれるから」


「そんなの普通のことだよ」


「鈴木くんにとっては、当たり前かもしれないけど私にはできないかなー。すごいって思われることって本人からしたら普通のことなんだよー」


 俺は、その言葉が妙に刺さった。


「でも、鈴木くんが鍵を無くした時は泊めさせてあげるね」


 その発言に、俺はドキッとした。


「あっ、顔が赤くなってるー」


 そう言って、米村さんは微笑む。俺は、この笑顔をずっと見ていたいと思った。



 窓の外を見ると、もう夕焼けが見えていた。


「明日もあるから、そろそろ帰ろうか」


「そーだね」


 俺と米村さんは、駅に向かった。夕焼けが米村さんのことをどこか寂しそうに照らす。


「今日は、あっという間だったね」


「そうだね」


「鈴木くんとのデートが楽しかったからかな」


 俺は、その言葉を聞いて安心した。俺と一緒にいて退屈だと思われてなくて良かった。


「また、一緒にデートしようね」


「そ、そうだね」



 時々、米村さんは思わせぶりな態度をとってくる。俺は、その度にドキッとしている。そんなことを思っていると、駅に着いた。


 俺と米村さんは、電車に乗り最寄駅に向かう。たった一駅なのに、米村さんは眠ってしまった。俺は、その寝顔をずっと見ていたかったが起こさないと乗り過ごしてしまうので


「米村さん、もう着くよ」

と声をかけた。


「んー」


 目をこすりながら辺りを見渡している。


「私寝てた?」


「うん」


「起こしてくれてありがとー」


 俺と米村さんは、電車から降りて改札を出た。そしてアパートに向かって歩き始めた。


 アパートに着くと冬が近づいているからか、あたりはもう薄暗くなっていた。


「今日は楽しかったね」


「うん、誘ってくれてありがとう」


「どういてしまして」


 俺は、この余韻にずっと浸っていたいと思った。


「じゃあ、また明日ね」


 そう言って、米村さんは部屋に入った。俺も部屋に帰った。今日は、夢のような一日を過ごした。まさか、女子とデートする日が来ると思わなかった。明日から、米村さんとどう関わっていけばいいのだろうか。とりあえず、学校の準備をしよう。


 ふと俺は、数学の課題を終わらせていないことを思い出した。今日は、徹夜で課題を終わらせることになりそうだ。楽しいことの後に地獄が待っていた。いいことばかりありゃしないな。

 


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