第3話
俺は一睡もできないまま、翌朝を迎えた。米村さんを起こさないように、枕元にあるスマホを手に取る。時計を見ると、九時を回っていた。横にいる米村さんを見ると。気持ちよさように寝ている。枕が変わると寝れない俺は、少し羨ましい。
俺は、変に動いたら米村さんが起きてしまうと思ったから、うつ伏せのままスマホをいじっていた。スマホをいじっていると、バイト先の店長から「今日の午後入れる?」とメッセージがきたが丁重に断った。
すると、隣からゴソゴソと音が聞こえた。横を見ると、米村さんが目を擦っていた。
「米村さんおはよう」
「おはよー」
米村さんは、眠たそうな声で言った。
「寝れた?」
「うん、こんなに寝たの久しぶり」
そう言って、米村さんは大きく腕を伸ばした。
「そうなんだ」
俺は、ベットから出てリビングのソファーに座った。
しばらくすると、米村さんがリビングにきた。
「結構、いい時間になってたね」
「そうだね。米村さん、何か食べる?」
「私、朝食べれないんだよねー」
「そうなんだ。俺も朝は食べれない」
俺と米村さんに意外な共通点があった。
今朝は、少し寒いから紅茶を淹れよう。
「米村さん、紅茶飲む?」
「いいの?」
「いいよ」
俺は、お湯を沸かした。そして、ティーパックをコップに入れお湯を注ぐ。そんなに難しいことをしているわけではないが米村さんが飲むと思うと少し緊張する。
俺は紅茶の入ったコップをガラステーブルの上に置く。
「ありがとう」
「どういたしまして」
米村さんは、白く小さな手でコップを持ち紅茶を飲み始めた。
「鈴木くんって優しいんだね」
米村さんは、コップを両手で持ったままそう呟いた。
「そうかな」
普段、あまり優しいと言われないから少し照れくさい。
「そうだよ。普通、あんまり関わりのない人を家にあげないでしょ?」
確かに、普通なら家にあげさせないかもしれない。米川さんとは、同じクラスと言っても米川さんは一軍に属していて俺は二軍だ。そもそもの話、俺と米川さんが属している一年五組は、男女仲がとても悪いから米村さんと学校で関わることはない。
「困ってる人がいたら、手を差し伸べたくなるじゃん」
「やっぱり優しいね」
さっきも同じことを言われたが、やはり照れくさい。俺は、コップに入った紅茶を一気に飲み干す。そして、ベットがある部屋に行き、着替えた。
着替え終えて、リビングに行くと米村さんはコップを洗っていた。
「俺、洗っとくからいいよ」
「このくらいやらせて」
そう言って、コップを洗ってくれた。
「ありがとう」
そう言うと、米村さんは少し微笑んだ。
時刻は十時を回ろうとしていた。俺と米川さんは、不動産屋に行くことにした。不動産屋はアパートから徒歩五分ほどの駅前にある。今日も寒いから俺は、クローゼットからジャンパーを出して着た。米村さんは、昨日と同じ服を着ているが、膝が見えるくらい短いズボンにパーカーしか着ていない。
「米村さん、寒くない?」
「大丈夫だよー」
本当に大丈夫なのだろうか。俺なら凍死してしまいそうな服装だから不安だ。
「じゃあ、行こうか」
俺と米村さんは、アパートを出た。やはり外はとても寒い。北風は、街路樹を揺らしている。米村さんを見ると、パーカーの袖口に手を入れて寒そうにしてた。
「ちょっと寒いね」
米村さんは、震えた声でそういった。俺は立ち止まって、今着ているジャンパーを脱いだ。
「米村さん、着る?」
「え、いいの?でも、鈴木くんが寒いんじゃ・・・」
「俺は、大丈夫だから」
「ほ、ほんとにいいの?」
「いいよ」
「ありがとう」
米村さんにジャンパーを渡した。俺と米村さんは、身長差が二十センチくらいあるからだいぶサイズオーバーだ。
「すごくあったかい。鈴木くんに包まれてるみたい」
「よ、よかった」
米村さんの言葉に俺は、ドキッとしてしまった。米村さんが俺のジャンパーを着ている姿を見て彼氏が彼女に自分のコートなどを着せたがる心理がわかった気がする。俺と米村さんは、再び歩き始めた。
ただ普通に歩いているだけなのに、周りから視線を感じる。視線の方を見ると、みんな米村さんを見ていた。よく考えれば、海無し県にこんな美人ギャルがいるなんて思わないよな。そんなことを思っていると、
「鈴木くんはなんで一人暮らししてるの?」
と聞いてきた。
「俺の高校入学が決まったと同時に父親の転勤が決まって両親が青森に行っちゃったから」
「そーなんだ。寂しくないの?」
「そんなでもないかな」
「そーなの!?私すごく寂しいから毎日ママに電話してる」
「そうなんだ」
米村さんの意外な一面が見れた気がする。
そんな話をしていたら、不動産屋に着いた。俺と米村さんは、中に入って鍵をなくしたと伝えた。米村さんは、無事に鍵をもらうことができた。不動産屋の人に「次は無くさないように」と口酸っぱく言われていた。
不動産屋から出ると、
「この後って空いてる?」
と聞いてきた。
「空いてるけど」
「デートしよっか」
「えっ?」
突然のことに俺は、何を言われたのかよくわからない。
「だからデートだって」
「い、いいよ」
俺は、状況を理解できないまま返事をしてしまった。どうやら俺は、米川さんとデートをすることになったみたいだ。
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