魔天からの使者
十兵衛が元服して間もなくの頃、城から屋敷への帰路に着いた時だ。
大八車が通りを駆けてきた。江戸の町中では珍しい事ではない。だが車引きは勢い盛んだ。江戸時代には大八車にぶつかって亡くなった者もいる。
あ、と十兵衛は気づいた。彼の隻眼は幼子が母親の手から離れて、道に飛び出してくるのが見えた。
十兵衛は反射的に飛び出した。その後はよく憶えていないが、彼はいつの間にか幼子を抱き上げ、道の端に寄っていた。
大八車が勢いよく走り去るのを見送り、十兵衛は幼子を降ろした。母親のみならず、周囲の人々が目を丸くして十兵衛を見つめていた。
彼は一瞬にして三間ほどの距離を詰めて幼子を抱き上げ、道の端に寄ったという。端から見れば、疾風のごときであったらしい。
「無の境地、無拍子なり」
父の宗矩は、十兵衛の話を聞いてそう言った。宗矩自身、覚えがある事だ。大阪の役の際、宗矩は秀忠の本陣にまで斬りこんできた鎧武者十数名を斬り捨てたが、本人もよく憶えていなかった。
「他者を守ろうという心に、天が力を貸してくれたのだ。武徳の祖神の導きに感謝せよ」
宗矩は誇らしい顔をしていた。息子の十兵衛が自分と同じ境地に達した事に満足したようだ。
十兵衛は二十歳になると隠密として全国を廻った。
十二年後に江戸に戻り、将軍家光のお側つきの御書院番(いわゆる親衛隊)となった。
だが真の務めは、ごく僅かな者しか知らなかった。
月下に駆ける者がある。
一人は、仲間とともに商家に押しこんだ浪人だ。
一人は、仲間を率いて浪人らを蹴散らした黒装束の男だ。
「おのれえ」
ついに観念したか、浪人は足を止めて振り返り、刀を抜いて八相に構えた。それを見て、追ってきた黒装束の男も足を止めた。
「お、お前に何がわかるのだ」
浪人は月下に吠えた。その言葉の意味が、黒装束の男にはよくわかる。
三代将軍家光によって、世には改易の嵐が吹き荒れた。家光の弟、大納言忠長ですらが改易され、切腹させられた。
だからこそか、いかなる大名も改易の命に従った。結果、全国にあふれた浪人は十六万人ともいう。治安は悪く、夜間の外出を禁じる藩すらあった。
天下太平と言われても、世は悪意と暴力に満ちていた。
「是非もなし」
黒装束の男は腰に小太刀を差していたが、それを鞘ごと抜いて放り捨てた。
そして覆面も取った。現れた隻眼の異相は、柳生十兵衛三厳である。
「お相手つかまつる」
十兵衛の全身から鋭い気が放たれた。刀を握った浪人すら怯ませる、闘志とでも呼ぶべきものだ。
十兵衛の隻眼は、刺すような強い光を発している。
「ぬう」
浪人は踏みこんだ。それより僅かに早く十兵衛は踏みこんでいた。
十兵衛は浪人の懐に踏みこみ、刀を握った両腕に抱きついた。
瞬時に体を回して、十兵衛は浪人を月下に舞わせた。
背中から大地に投げ落とされた浪人は、一声うめいて気絶した。
十兵衛が用いたのは、宗矩より伝授された無刀取りの技の一つだ。技の型は、後世の柔道における一本背負投によく似ていた。
「かなりの腕だな」
十兵衛は気絶した浪人を見下ろし、不敵な笑みを浮かべている。
彼は江戸城御庭番の者達と協力し、江戸を守る為に明日を捨てていた。家督は二人の弟に任せるつもりであった。
家光から嫌われている十兵衛と違い、左門と又十郎は信頼を得ている。柳生の家はまず安泰といったところだ。
「まだまだか」
十兵衛は夜空の月を見上げて、つぶやいた。
いつか垣間見た無の境地、武の深奥は果てしなく遠きに思われた。
刹那の間に勝機をつかむ、それが十兵衛の目指す境地である。
**
十兵衛は寺の御堂にこもり、無心に不動明王真言を唱えていた。
理由の一つは己が斬った者達への供養、そしてもう一つは江戸に潜む魔物を降伏するために、不動明王の力を借りんとしているのである。
「ノウマクサンマンダ、バザラダン、センダ、マカロシャダ……」
十兵衛は不動明王像を前に、真言を唱え続ける。彼の脳裏には幾多の死闘が思い返された。
今となっては命のやり取りに及んだ者達ですらが懐かしく思われた。
――あの一瞬こそ俺の全てであるかもしれぬ。
刃を抜いた対手と向き合い、命を懸けた一手を放たんとする瞬間……
十兵衛には、その一瞬の充実が、己が人生の全てであるかのように思われた。
生き延びたのは運が良かったか、または対手が自分より劣っていたからか。
そのような考えは奇しくも宮本武蔵とよく似ている。偶然だが十兵衛と武蔵は同じ左利きだ。武蔵は後世に残した絵画の鑑定から左利きである事がわかっている。
「――ウンタラタ、カンマン……」
十兵衛は真言を唱えるのを終えた。左の隻眼を開けば、不動尊の恐ろしげな顔が目に入る。
不動明王は大日如来と同じ存在であり、衆生を救うために敢えて憤怒の表情を浮かべているという。
今の十兵衛もまた厳かな顔つきであった。
彼は江戸を守る為に、人知れず夜の闇に身を投じている。
その戦いは何のためであるか、彼の贖罪に他ならぬ。
剣禅一如――
それが将軍家剣術指南役たる父宗矩の目指す境地だ。
だが十兵衛はそれを隠密行の最中に血で汚してしまった。
幕閣の者の陰湿な陰口、それが疎ましいというのもある。
――我、成ぜず。
隻眼を開いた十兵衛の顔に焦燥がこびりついている。
夜となった。
柳生家の屋敷の庭では、宗矩が真剣にて素振りを行っていた。
刃を横に薙ぎ、そして打ちこむ。
刹那の間に閃いた紫電が、夜の闇を裂くかのようだ。
宗矩は刀を正眼に構え、瞑想に入った。夜の静寂の中に宗矩は、自身の進む道を探らんとした。
それは息子である十兵衛が不動明王真言を唱える様によく似ていた。
やはり親子だ。先祖から血と共に精神性も受け継がれていた。
――哀れなり、又右衛門。
宗矩は自身へ語りかけた。目を閉じた奥に、故郷である奈良の柳生の庄が思い浮かんできた。
――もはや帰れぬ。この身にあるのは、さすらいの旅路だけ。
宗矩と尾張の利厳とは、八歳しか違わぬ叔父と甥の間柄だ。
かつては共に野畑を耕し、狩りをし、そして石舟斎や柳生の高弟より兵法の指導を受けた。
だが、今や江戸と尾張の仲は大変よろしくない。これは当人同士よりも門下生同士の争いであった。
将軍家剣術指南役。
幕府大目付。
その肩書きだけで天下の大名を震え上がらせる宗矩だが、心は晴れぬ事ばかりに満たされる。
――不甲斐なし……
宗矩は両目を開き、瞬時に踏みこんだ。
袈裟に斬りこんだ一刀が夜闇を裂く。
それは心の闇を斬り払う宗矩の剣であったが、
――成せぬ……
宗矩は眉をしかめる。己の心に巣くう闇は、澱のごとく底に沈みこんでいる。
宗矩の故郷である柳生の庄は、自然豊かな土地であった。太閤秀吉が取り上げんとしたほどに、神がかり的な聖地であるとも言える。
その柳生の庄にある一刀石が、宗矩の心に閃いた。真っ二つに割れた大岩は、宗矩の父である石舟斎宗厳が斬ったという。
それが真実か否か、そんな事はどうでもよい。宗矩には、一刀石は挑むべき父の象徴である。
あの大岩を割る神業、それを身につけんと修行に励み、野山を駆け、剣を振るい、組討の技を学んだ日々が宗矩には愛しい。
が、昔日は今となっては幻想にも等しきものだ。父、石舟斎宗厳はすでに亡くなっている。
その死の翌年に産まれた十兵衛(幼名は七郎)が、宗矩には父の生まれ変わりのように思われた。
だからこそ厳しい指導をした。あるいは求めていたのは宗矩だったかもしれない。そして十兵衛に右目を失わせた……
深い憂いと共に宗矩は再び目を閉じ、瞑想に入った。
そして彼の背後の地面が蠢き、何かがゆっくりと地中から姿を現す。
妖しく蠢くそれは、百合の花のようであった。
しかも、ただの百合ではない。あり得ぬ速度で成長したそれは、瞬く間に子どもの背丈をも越え、人の形を為していくではないか。
人知を越えた現象であった。しかし宗矩は背後の異常に気づいていない。
「……むう」
宗矩が気配に気づいて振り返った時には、地中から生えた百合は人間のような姿へと変化していた。
「……魔性か」
宗矩は眉をしかめた。夜の闇に浮かび上がる、一糸まとわぬ女の姿。
白い髪に白い肌、瞳は深紅の光を放って輝いている。おぞましくも美しい魔性を前にして宗矩は振り返り、刀を右手に提げた。
新陰流の無形の位だ。
――何を悩む事がある。
女の魔性の声が、宗矩の心中へと響く。
――我らと結べば思いのまま。
女の魔性の言葉は、宗矩の心の底へと沈んでいく。
思いのままに生きる。
様々な制約に縛られた宗矩には、それこそが欲している生き方だ。
今や故郷の柳生の庄に帰る事もできぬ。父である石舟斎宗厳の高弟らは、幕府の重職に就いた宗矩を快く思っていない。
尾張の利厳は、石舟斎宗厳の長男の孫であり、柳生新陰流の正統でもある。
石舟斎の高弟も、尾張の柳生も、傍流の宗矩が柳生新陰流の正統を謳っているように思われて、それが不愉快なのだった。
「思いのままに、か」
宗矩の口元に苦い笑みが浮かぶ。それができれば、どれほど宗矩は満たされるだろうか。
そんな生き方をしているのは宗矩の嫡男、十兵衛三厳くらいではないだろうか。
十兵衛は幼い頃に兵法修行で右目を失い、深い悲しみの中で絶望したが、それゆえに、迷いを遠く離れて生きている。
――そうだ、我らと交わり魔界へと……
女の魔性は宗矩に歩み寄った。
それより僅かに早く、宗矩は踏みこんでいた。
閃いた銀光が闇夜を裂いた。
女の魔性は胴体を輪切りにされていた。
唖然とした表情で女は真っ二つになって地に倒れた。
「ほざけ魔性」
宗矩は忌々しげに、地に倒れた魔性の顔へ刀を突き立てた。
「貴様に何がわかる」
突き刺した刀を宗矩はひねる。彼の眼光は鋭く、全身から殺気が発散されていた。
宗矩は自身にもわからぬ憤りに支配されていた。それこそが長年の間に、彼の心の底に積もった澱にも似た鬱憤だ。
「欲望のままに生きる餓えた化物が」
宗矩は更に刀をひねった。が、すでに大地に魔性の姿はなかった。
美しい女の姿をした魔性の体は、すでに溶けて腐汁のごときだ。
宗矩は眉をしかめた。
「心のままに生きる……か」
宗矩は夜空を見上げた。いや、その眼ははるか彼方を見ていた。
陽光の差す深緑の中で、父や兄、更に甥(年齢差は八歳だったので、少し年の離れた弟のように思っていた)と共に兵法修行に励んだ柳生の庄を。
あの日々こそ宗矩にとって、最も充実していた時期であった。
父と兄という強大なものに挑戦する日々、それこそ男は本望ではないか。
だが、宗矩が柳生の庄を訪れる機会は、永遠に失われたに等しい。
――あやつはどうやって生きているのだ。
宗矩は考える。嫡子の十兵衛は、心の置き所を何処に置いているのかと。
翌日の昼、十兵衛は九段にある染物屋の風磨にいた。
江戸城から程近いこの染物屋は評判がよく、繁盛していた。
「ごちそうさん」
風磨から出てきたのは十兵衛だ。彼は腰に小太刀を差した着流し姿だった。髷も結わない十兵衛は町民らしく見えた。
「今日もただ飯にありつけた」
十兵衛はニヤニヤしながら通りを行く。染物屋の風磨は、実は江戸城の御庭番が世を忍ぶ仮の宿なのだ。十兵衛が訪れれば、食事くらいは出してくれる。
「今日もお江戸は日本晴れだな」
十兵衛は食後の散歩だが、見た目も中身も町民に成りきっていた。
いや、これが十兵衛の本性かもしれぬ。右目を失ってから長い間、十兵衛は感情が凍結したまま生きてきた。
それから二十数年、ようやく十兵衛は感情の働きを取り戻したのだ。
命懸けの死闘を経て生き延びた今の十兵衛は、明るく軽く、迷いを遠く離れて生きていた。
少なくとも昼の時分は――
「――お」
十兵衛は左の隻眼を細めた。馴染みの茶屋の店先で、数名の浪人と娘が言い合っている。
「はて」
十兵衛は首をひねる。娘は前掛けもしている。茶屋の店員は老婆だったはずだが。
「うっさいね、あんた達に出すようなものはないよ」
茶屋の娘は店員のようだが、相当に気が強いらしい。
「ほうほう」
十兵衛はのんきに見物していた。娘の立ち姿が絵になる。
ただの娘ではない。背筋はまっすぐに伸び、小柄ながらも腰に手を当て浪人の顔を見上げる様子には、わけもわからず感心した。
「ええい、この娘」
浪人が娘の胸ぐらつかもうと手を伸ばした。娘はその手を取ると、気合いと共に浪人を転がした。
「ほほう」
十兵衛は隻眼を見開いた。娘が使ったのは組討の術であろう。瞬時に浪人の手首をひねって、投げたのだ。
十兵衛が父から学んだ無刀取りに通ずるものがある。組討術は全国にあり、後年まで伝わったいわゆる柔術の諸流派は二百以上だったという。
「な、何をする小娘」
浪人は吠えた。さすがに刀柄に手をかける事はなかったが、娘の気迫には負けた。
「あんたらみたいな奴らにただ飯食わせる道理はないんだよ」
娘のまっすぐな眼差しに刺し貫かれた浪人達は、悔しそうに店から去っていった。十兵衛のみならず、足を止めて見物していた者達も痛快な気分にさせられた。
「いやはや、大した女傑だ」
十兵衛はニヤニヤしながら店先へ近づいた。いつもの通り、食後の茶と団子を堪能しようと思っての事だ。
「ん、何よ、あんたもなの」
娘の視線を浴びても十兵衛は涼しい顔をしていた。
「婆さんはどうしたかね」
「え、おばあちゃんの知り合いなの」
「あんらあ、いらっしゃあい」
その時、店の奥から茶屋の老婆が姿を見せた。手にした盆には、たくさんの団子を乗せた皿を乗せていた。
「おばあちゃん、あんな奴らにお団子あげようとしたの」
「お腹空いてるだろうと思ってねえ。前にも来たんだよ。今日は違う人だったね」
「ああ、そうか、それで」
十兵衛は合点がいった。おそらく茶屋の老婆は以前、浪人に団子を恵んだのだろう。
その噂を聞いた別の浪人がたかりに来たのだ。危ういなあ、と十兵衛は思った。団子だけでなく金目のものをせがまれたり、居座られたら大変な事になっていた。
実際、そのような事件は江戸で珍しくはない。この茶屋が浪人の標的にならなかったのは、老婆の持つ仁徳ゆえかもしれぬ。
「あんた食べなあ」
老婆が穏やかな笑みを十兵衛に向けてくる。十兵衛の顔は緊張からほぐれた。
「うむ、ではいただこう。金は俺が払ってやる」
十兵衛は店先の床几に腰かけた。老婆は盆を床几に乗せ、今度は茶の準備に店の奥に入っていく。
「あんた何者さ」
娘は十兵衛を凝視した。彼女から見れば隻眼の十兵衛は町民にも思えぬし、かといって浪人風情にも見えなかった。
「俺は七郎だ」
十兵衛は名を偽った。七郎とは十兵衛の幼名であり、世を忍ぶ仮の名だ。
「あたしは、おりん」
娘は名乗った。茶屋の老婆の顔見知りという事で、警戒を解いたのだろう。
「おりんか」
奇しくも十兵衛の母親と同じ名だ。
「そうか」
十兵衛は団子を頬張った。この茶屋の団子よりも美味い団子を出す店は、少なくない。
が、十兵衛は気に入っているのだ。江戸城から近いというのもあるが、何より茶屋の老婆の心意気が気に入っていた。
それよりも、と十兵衛は思う。おりんを横目で見てみれば、彼女は老婆を手伝っていた。
立ち姿が絵になるのは、体の芯がしっかりしているからであろうか。いわゆる体幹が鍛えられているのだ。
――どこぞで兵法を学んでいたのだな。
十兵衛はぼんやりと、そんな事を考える。彼は兵法の事になると夢中になる。
宮本武蔵いわく、常に兵法の道を離れず。
己の進む道から離れない事こそ、人生の肝要だ。
「どうぞ」
おりんが幾分ためらいがちに十兵衛の着いた床几の脇に茶を置いた。
「おお、すまん。いや、しかしなんだな、若い娘さんに茶をいただけると気分がいいな。器量もいいし」
「な、何を言って」
おりんは僅かに頬を朱に染めた。
「婆さん、いい看板娘だな。お孫さんか」
十兵衛はやってきた老婆に尋ねたが、機嫌悪そうにそっぽを向かれた。
「んん、どうしたんだ婆さん」
十兵衛はいぶかしんだ。これは彼が悪い。女心は天地宇宙と同様に広くて深いのだ。
茶屋の老婆は、十兵衛がおりんに話しかけている事に嫉妬を覚えていたのだ。
「き、今日も団子が美味いな」
十兵衛は本能的に――女心の深さが理解できているわけではなかった――世辞を言った。それで老婆も少しだけ機嫌を良くしたようだ。
「当たり前だよ、うちの団子は美味しいさ」
「うむ、婆さんも仁徳あふれた天女のような方であるからな」
「はいはい、わかったよ」
「ねえ、おばあちゃん。この人、何なの」
おりんはたまらず質問した。
「そうだねえ、よく来る客だけど…… 旗本の四男五男の冷飯食いじゃないかな」
老婆の言葉に十兵衛はむせた。まさか、そのように見られていたとは。
「そうなんだ」
「きっとそうだよ、暇そうだし。お客さんだから相手するけどねえ」
「うわあー、旗本迷惑男なんだー」
おりんと老婆は十兵衛の目の前でそんな話をする。たまらず十兵衛もひきつった笑みを浮かべた。
「あたしもそろそろお店閉めようかと思ったけど」
「そんなあ、おばあちゃん」
おりんはたまらず悲しい顔をした。十兵衛は後で知ったが、おりんは江戸郊外の庄屋の娘で、兄の結婚を機に、家を出た。兵法は祖父から学んだという。
「後を継いでくれる人でもいれば、その人に任せようかと思うけど」
「おばあちゃん、わたしはどうかな」
「ちゃんと亭主を持ったら、店を継いでもいいけど」
そこで老婆はちらりと十兵衛を見た。意味深な眼差しである。
「えー、やだよこんな弱そうな人」
おりんの言葉もまた意味深だ。十兵衛は苦い顔で茶を飲んだ。
「全く……」
十兵衛は苦々しい気持ちで新たな団子を口に運んだ。
傲れる気持ちはないのだが、弱いと言われて悔しいような、悲しいような――
これでも彼は謙虚は心がけているつもりだ。また生き死にの修羅場も経ていた。
が、それはおりんから見れば、蛮勇に等しきものかもしれない。
――そういえば父上もよく言っていたな、世に名人達人は掃いて捨てるほどいると。
十兵衛は宗矩の言葉を思い出して表情を引き締め、老婆と語り合うおりんを横目で眺めた。
おりんとてひょっとすれば、世に知られぬ名人達人より兵法を学んだのかもしれぬ。
十兵衛の知らぬ技に熟練しているかもしれない。それに茶屋の老婆を守るために、刀を腰に差した浪人と向き合ったのは称賛に値する。男の十兵衛ですら、刀を持った相手と対峙する時は緊張するというのに。
「な、何さ」
おりんの声に十兵衛は我に返った。彼女は薄く頬を朱に染めていた。
「ん、いや何でもない」
十兵衛は団子を食べ終え、茶を飲んだ。食事の後に団子を十数本も食べるとは、今も昔も甘いものは別腹なのだ。
「ごちそうになったな」
十兵衛は床几に代金を置いて立ち上がった。彼はいつも釣り銭は受け取らなかった。
「ばあさん、おりん、危うくなったら風摩に行けよ」
「染物屋かい、なんで」
「あいつらは俺の知り合いだ、浪人にからまれたら助けを求めろ」
「ねえ、あんたは何なのさ」
おりんは十兵衛に問う。彼女から見れば、十兵衛は弱そうだが、それでいてただ者ではなさそうだ。
「ただの七郎だ」
そう言って十兵衛は通りを行き交う人々の雑踏にまぎれた。
その日の夜だ。
昼間、茶屋に団子をせがんだ浪人は古寺の境内でうめいていた。
――腹が減った……
木の幹に己を預けて夜空を見上げる浪人は、名を伊三郎といった。
仕えていた藩主が突然死して藩は改易となり、伊三郎は浪人となった。
跡継ぎもなく養子縁組も許されなかったため、藩は瞬く間に改易され――
伊三郎もまた浪人となった。両親は既に他界し、親戚や兄弟姉妹もなかったので、伊三郎は天涯孤独の身の上になった。
江戸に行けば食えるだろうと思っていたが、考えが甘かった。江戸には浪人が集まってきていて、誰もが必死であった。
刀は早々と質屋で金に変え、数ヶ月は生き延びてきたが、それも限界だ。
――な、なぜ俺だけが……
伊三郎の目元に涙が光る。泣きはしなかった。泣いて心を洗えなかった。彼の心は憎悪によって暗黒に塗り潰されている……
そんな伊三郎のすぐ近くの地面が盛り上がり、土をかきわけ何かが伸びてきた。
その妖しい光景を伊三郎は夢心地で見つめていた。己が狂ったと思ったのだ。
やがて地から生えた妖花は人の形をなしていく。それは女の姿をしていた。
伊三郎の意識は朦朧としていた。
目の前の女は、とても現実のものとは思われない。
それにしても何たる美しき女の魔性。
白く透き通るような肌、長く白い髪、伊三郎を見つめる媚びを含んだ眼差し……
伊三郎でなくとも、心を囚われそうな魔性の美しさであった。
すでに色欲も失せていたはずの伊三郎は、この時、立ち上がって魔性へと近づいた。
「お、おおおあ……」
伊三郎自身も訳のわからぬ行動であった。彼は両手を広げた女の魔性へ歩み寄った。
“ふふふ……”
魔性の妖しい声もまた伊三郎の理性を吹き飛ばすに充分だった。彼は魔性に魅入られたのだ。
**
「十兵衛はどうした」
と三代将軍家光は宗矩に問う。
「は、あやつには特別な任を与えておりますゆえ」
家光の前に平伏した宗矩は畏まって言葉を紡いだ。
「そうか」
家光は気難しい顔をした。本心はわからぬながら、彼は十兵衛に会いたがっているのかもしれない。
――とても会わせられぬ。
宗矩は心中に考える。かつて家光は辻斬りの凶行に及んだ。しかも狙うのは女ばかりであった。
これは大奥の支配者、春日局が乳母だったからとも言われている。彼女の厳しすぎるしつけによって、家光は女を憎むようになったと。
今も家光は女を遠ざけていた。後世に衆道と伝えられる家光は、この時まだ世継ぎどころか、妻帯すらしていなかった。
――会わせられようはずがない。
以前の事を思い出せば、宗矩は生きた心地がせぬ。家光の辻斬りを止めたのは、十兵衛であった。
しかも春日局の依頼だったという。十兵衛と春日局、両者の間にどのような密約が交わされたかはわからない。
が、家光は辻斬りを止め、春日局は十兵衛に名刀の三池典太を賜った。宗矩は家光の癇癪を恐れ、十兵衛を密偵として世に放った。
家光の小姓には、十兵衛の弟の左門と又十郎を差し出した。
それから十数年、十兵衛は望んで江戸の治安を守るために身命を捧げている……
「十兵衛ならば、ひょっとすれば」
「何でありますか」
「いや、一人言よ」
家光は言った。宗矩もあえて問いはせぬ。
そして家光と宗矩は、江戸城の敷地内に設けられた道場にて剣の修行に励んだ。
昼近い頃合いに、十兵衛は馴染みのうどん屋へ足を運んだ。
「お、若旦那」
「いつものを頼む」
十兵衛が注文すると、うどん屋の主人である源は「へい」と威勢よく応え、うどんの準備を始めた。
「そろそろ寒くなってきやしたから、また浪人の凍死が増えますかね」
「そうだな……」
十兵衛は源がうどんを準備するのを、ぼんやりと眺めていた。
十兵衛の心中には様々な思いが渦を巻いた。頭の中は常に思惑が台風のごとく吹き荒れている。
江戸の平和、浪人の増加、おりんの事。
――ん、待て。なぜ、おりんが。
十兵衛も気づかぬ内に、出会って間もないおりんは彼の心の内に住んでいるようだ。
十兵衛はおりんの顔を振り払い、目を閉じた。隻眼の奥に修行の日々が思い返されてくる。
兵法とは平和の法――
父の言葉がよみがえってくる。人殺しの技である兵法、それが平和の法とは、いかなる事か。
父の説く活人剣と無の境地。
沢庵禅師の説く剣禅一如。
そしてまた、師事した小野忠明の説いた夢想剣。
十兵衛に暇はない。それら兵法の理に答えを出す、いや己のものとして魂に宿さねばならぬ。
それもまた父や先師から受け継いだ男の使命だ。
「……若旦那」
「なんだ、今は忙しい」
「うどんがのびちまいますぜ」
「……あ、うむ」
十兵衛は我に返り、卓上のうどんをすすった。
そしてむせた。
「あ、熱いな」
「そりゃあ当然で。もう夏じゃありやせんので、冷やしうどんじゃなくて熱々のうどんを出してやす」
「ほ、ほう、いやあ実に美味いな」
十兵衛はやせ我慢しながら熱いうどんをすすっていく。どこか滑稽だが彼は必死だ。
この時も脳裏には兵法の事が思い浮かぶ。
父や先師から受け継いだ精神と技、男は命を守るものだ。
あ、と十兵衛は気づいた。おりんの事が気になるのは、彼女が武を体現したからに他ならぬ。
強いというわけではない。おりんは決して弱くはないだろうが、この江戸に腕の立つ名人達人など、星の数ほどいる。
おりんが顕したのは、武の精神であった。
戈を止め、刃を防ぎ、そして守るべきもののために身命を捧ぐ。それが武の精神だ。
おりんは、自身と茶屋の老婆、更には浪人達までも救った。浪人らは刀までは抜かなかった。おりんの一喝によって、自身の行いの浅ましさを知ったからであろう。
見事だと言うしかない。だから十兵衛はおりんが気になるのだ。彼女を意識すると動悸が速まり、十兵衛はまたしてもうどんにむせた。
「若旦那どうしやした」
「お、おかわりをくれ」
十兵衛は窮地に陥りながらも、うどんのおかわりを要求した。
自暴自棄になったわけではない。今、十兵衛の魂は過去に雄飛していた。
命懸けで事に臨む、その時に到ってこそ十兵衛の魂は燃え上がるのだ。隠密行の最中で死地に赴いた事、一度や二度ではない。
眼前の浪人が刀を打ちこんでくるのを、己が一刀で薙ぎ払い、勢いを保ったまま刃をひるがえして対手へ打ちこむ……
刺客が槍で突いてくるのへ、無手で十兵衛は飛びこみ、組みつき、足を払って地に倒す……
勝機は一瞬であり、ただ一手に全てを懸ける。
あの一瞬こそ、十兵衛の全てであるかのように思われた。
一瞬の充実は永遠の感動であり、それによって十兵衛は今、迷いを遠く離れて生きられる……
「へい、お待ち」
「う、うむ」
十兵衛は二杯目のうどんに立ち向かった。店主の源の好意で、刻みネギがたっぷりと乗せられていた。
「いただくぞ」
十兵衛は熱々うどんを豪快にすすり始めた。彼の魂はうどんと同じく熱い。江戸の明日を守るために。
十兵衛は父宗矩から様々な指導を受けた。
たとえば畳一枚の上で何回、前回り受け身が取れるか。
たとえば右腕を胴体に固定し、左腕一本で組討の稽古をする……
それらの修行も現在のため。戦うための力を養う修行だったのだ。
「ごちそうさん」
十兵衛は熱々うどんを二杯平らげ、少々苦しげに代金を卓に置いた。満腹を超過していた。
「へい、まいど」
源は愛想いい顔を見せる。彼もまた、ただの屋台のうどん屋ではない。本職は江戸城御庭番の一人であり、うどん屋を営みながら浪人の動向を探るのを任としていた。
江戸の夜は暗い。
光源は月明かりだけだ。夜の闇は深かった。
「何も、こんな暗い夜に見回りなんかしなくていいんじゃないですかね」
商人風の小男は、提灯を手にして先を行く十兵衛にぼやいた。
「いや暗いからこそだ」
十兵衛は夜の町を見回す。普段は見慣れた武家屋敷の並ぶ通りが、今では如何なる魔天の世界かと思われた。
それほどに夜は昼とは違う深く暗い世界であった。
だからこそ人は夜の中に刺激を求めるのかもしれない。夜の闇は恐ろしいが、昼ばかりの世界もつまらない。
「それにしても、何か出そうな夜ですなあ」
政は身を震わせた。商人風の小男だが、彼もまた江戸城御庭番の一人だ。小柄ゆえに身軽で素早く、手裏剣術に熟練している。
――カア、カア
夜闇に響くカラスの鳴き声を聞いて十兵衛と政は一瞬、動きを止めた。
「な、なんでえカラスか、驚かせやがって」
「落ち着け、苛立っても仕方あるまい」
「しかしねえ、あっしは眠いんですよ若旦那。眠くないんですかい」
「俺は夜回りに備えて、たっぷり昼寝をしておいた」
「かあー、これだよ、うちの若旦那は」
政のぼやきを十兵衛は苦笑しながら聞き流した。身分の違いを考えると政の発言はいささかどころか、だいぶ失礼なものだが、十兵衛はそれを気にした風でもない。
彼から見れば、うどん屋の源も、浪人に人足仕事等を斡旋する政も、共に江戸の治安を守る同志だ。
――ぎゃああ……
その時、夜風に乗って叫び声のようなものが聞こえてきた。顔を見合わせた十兵衛と政は、互いにうなずいた。
「行くぞ」
十兵衛は駆け出した。小男の政は十兵衛に劣らぬ速さで駆け出した。
――俺はこの一瞬に生きているのか。
提灯を手にして駆け出した十兵衛は自問する。
彼にとっての人生とは何か。
父宗矩や、師事した小野忠明のような強大な存在に、全身全霊で挑む事こそ男の本懐だと十兵衛は信じている。
今もまた十兵衛は死地へ向かって疾走しながら、全身に気力体力が満ちていくのを感じていた。
挑戦者の気概だ。柳生十兵衛三厳は生涯現役、永遠の挑戦者であったのだ。
駆け出して十数秒、十兵衛と政の二人は血の匂いを嗅ぎ足を止めた。
「……むう」
十兵衛は口の中でつぶやきながら政に振り返った。
政もうなずき、懐へ手を差し入れて得物の棒手裏剣を取り出した。
十兵衛は左手に提灯を、右手は腰の小太刀の柄に伸ばしながら、慎重に歩を進めた。
歩を進めるごとに血の匂いは濃厚になり、異音が聞こえてきた。
――しゃぐ、しゃぐ
それは咀嚼音であった。肉を食いちぎり、飲みこむ音だろうか。
十兵衛ですらが怪奇に冷や汗をかいていた。十兵衛の後ろでは政が冷や汗に全身を濡らしていた。
異音が聞こえるのは角の向こうであった。十兵衛と政は意を決して近づいた。
角を曲がると同時に十兵衛は小太刀を抜いた。政も棒手裏剣を投擲の体勢に構えた。
十兵衛がかざした提灯のか細い光の先に見えたのは、二つの人影だ。
一つは地に倒れており、もう一つは側に屈んでいる。血の匂いは強くなった。
――しゃぐ、しゃぐ
再び咀嚼音を聞き、十兵衛も政も血の気が引いた。それは人食いの現場であったからだ。
十兵衛はか細い月明かりの下に、化物の姿を見た。浪人の真新しい骸を食らう餓えた化物。
それは魔性に魅入られた伊三郎の成れの果てだ。十兵衛は知らぬ、浪人の伊三郎が妖花の誘いで、魔性に転じた事を。
「ひい……」
多少は修羅場をくぐってきた政が、口元を血で真っ赤に染めた伊三郎のおぞましさにうめいた。
十兵衛は提灯を手放し、伊三郎に向かって駆け出した。
――斬る。
魔を降伏せんとする意思が、十兵衛を無心に動かした。
伊三郎の眼前まで踏みこんだ十兵衛は、小太刀を横薙ぎに一閃させた。
夜闇を斬り裂く必殺の刃は、虚しく空振りした。
「むう」
十兵衛は思わずうなった。魔性と化していた伊三郎の体は、十兵衛の背丈よりも高く跳躍し、左右に並んだ武家屋敷の塀に飛び乗った。
――ふはははは……
伊三郎は不気味な笑い声と共に、武家屋敷の屋根を伝って逃げ出した。
更に奇なる事といえば、伊三郎の両目が深紅の光を発していた事だ。あの不気味な赤光こそ、人ならざる者の証明に思われた。
「なんだ、あれは……」
十兵衛は伊三郎の逃げた方向へ目を向けたままだ。心臓が激しく高鳴り、全身に汗をびっしょりとかいていた。生死の境に踏みこんだ時は、いつもそうだ。
「地獄も満員かもしれませんなあ」
政も顔を蒼白にしてつぶやいた。
「なんだと」
「地獄が満員で、入れなくなった奴らが地上にあふれてきた…… そんな気がしやした」
「むう…… そうかもしれんな」
十兵衛は政の言葉にうなった。
人食いの化物は地獄に入れず、地上に舞い戻ってきた人間の成れの果て。
そう考えると、どこか辻褄があった。
「……こいつも経を聞かせて弔ってやらねばな。魔性に転じないように」
十兵衛は浪人の骸を見下ろした。ガリガリに痩せこけた体、その腹部は引き裂かれて真っ赤に染まっていた。
十兵衛は骸を運ぶための戸板を政に取りに行かせ、自身は一人、夜の闇の中に立ち尽くした。
人知を越えた巨大な災禍に巻きこまれていく予感があった。
翌日、十兵衛は屋敷で正装に整え、江戸城へ向かった。
これは本来の務めを果たすためではなかった。
月代も剃らぬ総髪の十兵衛は、江戸城の役職に就く者から見れば、相当に礼儀知らず、非常識であったろう。
しかし彼は戸惑うことなく、左の隻眼に鋼の意思を秘めて、江戸城の裏口から中に入った。
「おや、柳生の若旦那。今日は兵法指南でもするんですかい」
顔見知りの門番が十兵衛に声をかけてきた。十兵衛は宗矩の嫡男であり、将軍家光の兵法指南役としても見られていた。
今日は十兵衛も腰に名刀、三池典太の鞘を帯に差している。将軍家光への兵法指南のために登城した、と思われても無理はない。
「いや、父に会いに来たのだ」
十兵衛は江戸城の中へ入る。勝手知ったる江戸城の中を、十兵衛は父宗矩の執務室へ向かった。
「――十兵衛」
宗矩は部屋を訪れた十兵衛を見つめ、眉を僅かにしかめた。
「何しに来た」
「父上に御指南頂きたく候」
十兵衛は宗矩の前で平伏し、額を畳にこすりつけた。これは己を卑下しているのではなく、親子を越えた師弟の礼儀であった。
「父上は魔性を存じておりますか」
「――うむ」
宗矩は短く答えた。実は江戸城では怪異というものがしばしば起きていた。
また江戸城ではなく駿府では、御神君家康公の頃に、ぬっぺらほふなる妖怪じみたものが出現していた。
この時代では、未だに人間と妖魔の世界が繋がっていたのだ。
「先日、現れた魔性はわしが斬り捨てた」
「お教えください、父上。魔性を前に、小生は何をすればよいのか」
平伏したままの十兵衛は、昨夜の伊三郎を思い出した。夜の闇の中で両目を深紅に輝かせ、人を食らっていた化物。
その化物を前に、十兵衛の不動の精神も揺らいでいた。
「己は何をする者ぞ」
宗矩は厳かに言った。
「なんですと」
十兵衛は思わず面を上げた。宗矩の厳粛な眼光が、十兵衛の隻眼のみならず魂までも射抜いた。
「十兵衛、お前は何者だ」
再び発せられた宗矩の問い。そこで十兵衛は気づいた。己は何者であるか、何をすべきなのか。
「小生は兵法者」
十兵衛は身を起こし、宗矩に正座して相対した。
「未熟なれど兵法の道から離れんと日々精進しているつもりです」
「うむ」
宗矩の声が僅かに弾んでいる事に十兵衛は気づいたか否か。
「魔性が相手ならば…… それが人に害なす者であるならば、これを討ちまする」
十兵衛の答えに宗矩は満足したようであった。
「では行け十兵衛。わしは忙しい」
「父上、左門も又十郎も小生の自慢の弟…… 柳生家は安泰でありましょう」
「唐突に何の話だ」
「戦いで果てるなら本望、小生は祖父と先師の意を汲み、未来への捨て石となりましょう」
十兵衛に恐れも迷いもなかった。
魔性の伊三郎と遭遇した事で十兵衛の心は乱れていた。
が、宗矩の言によって十兵衛は自身の進む道を再認識した。
同時に祖父や先師への感謝が生じた。
兵法の道のみならず、人として、男として歩むべき道が見えたからである。
朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり。
孔子の言葉を十兵衛は自身の道に当てはめた。
魔性との戦いに身を投じて、力及ばず、負けて死すとも悔いはない。
「ふむ」
宗矩は口元に不敵な笑みを浮かべた。今の十兵衛は、宗矩の伝授した無刀取りに勝る何かを身につけている。それが宗矩には尊く、誇らしかった。
「行ってこい」
宗矩は言った。十兵衛は一礼して部屋を出た。
筆を持ち机に向かう宗矩の顔は、どこか浮かれているようである。
十兵衛は江戸城から馴染みの茶屋へと足を運んだ。
彼の心からは迷いも消えていた。
十兵衛の死の覚悟は鈍っていた。それは再び研ぎ澄まされ、更なる道を切り開いた。
鮮やかに、軽やかに。
十兵衛の生命力は輝きを増している。
あとは未来への捨て石として、魔性との闘争に臨むのみだ。
「婆さん、いつもの」
馴染みの茶屋を訪れて、十兵衛はいつものように床几に腰かけた。腰の愛刀、三池典太は鞘ごと脇に置いた。
「いらっしゃい……」
茶を運んできたおりんが目を丸くして十兵衛を見ていた。今日の十兵衛はいつもの着流しではなく、武士の正装である。
月代を剃ってはいないが、少なくとも町民風情には見えぬ。裃姿は着流しよりも似合っているかもしれない。
「あんらあ、どうしたの」
店の奥から、茶屋の老婆おまつが団子を運んできたが、十兵衛の裃姿に驚いていた。
「いや、まあ」
十兵衛は言葉を濁した。この姿で茶屋に寄るべきではなかった。迂闊だったと十兵衛は内心、舌打ちした。
「馬子にも衣装っていうけれど…… あんたも冷飯食いだけど、やっぱり武士だねえ」
「は、ははは……」
十兵衛は苦笑した。おまつにとって十兵衛は、やはり旗本の四男五男の冷飯食いであるらしかった。
同時に少し安心した。この茶屋は、十兵衛にとって憩いの場である事に変わりはなかった。
「ま、まあ、家は弟に任せてある」
「あら、あんた嫡男かい」
「あ、そ、それは」
十兵衛は口を滑らせたと思った。この茶屋では、彼は七郎で良いのだ。
冷飯食いの江戸旗本の四男か五男ーー
そう思われる方が気楽だ。ここにいるのは将軍家剣術指南役の嫡男、柳生十兵衛三厳などでは、決してないのだ。
「違うと思うわ、おばあちゃん。この人は女遊びで散財して家から勘当されたのよ、きっと」
おりんの言葉に、十兵衛は飲んでいた茶を豪快に吹いた。
「そうかい、女に騙されそうな雰囲気だけどね」
「あ、そっちかもしれない。どっちにしても勘当されて、弟さんが跡取りなのよ」
「はあ、冷飯食いも大変だねえ」
おまつとおりんの会話を聞きながら、十兵衛は震える手で団子を食べ終えた。
「やれやれだ……」
そう言って十兵衛は床几に代金を置いて立ち去った。
「まいどー、またのお越しをー」
おりんの言葉に十兵衛は振り返らず、手を軽く挙げて応えた。
「あらら、いじめちゃったかねえ」
「いい薬になるわよ、きっと」
「おりんもねえ、それじゃ逃げられちゃうよ」
「うん、そうだね。やり過ぎちゃったね。もう来なくなっちゃうかなあ……」
「また来るよ、あの男は。いざとなったら風磨さんのところで聞いてみよう」
おまつもおりんも十兵衛を話題にしている時は、楽しげであった。
天下泰平の時代になりつつあっても、世には倦怠も漂っている。
だからこそか、十兵衛のような男が人の注目を浴びるのは。
十兵衛は刀一つで屍山血河へと身を投げて、生きて帰ってきた男だ。
そんな十兵衛がおまつもおりんも気になると見える。
再び夜となった。
夜の闇に満ちた静寂の中で、伊三郎は今夜も浪人を襲った。
――たやすい、なんという貧弱さだ。
伊三郎は素手で浪人を叩き伏せ、その腹を裂いて臓物を食らい始めた。
自分が人ならざる魔性に転じた事よりも、高い力を身につけた事による歓喜と興奮が、伊三郎から人間性を奪っていた。
伊三郎は湯気を立てる臓物を貪り心身の餓えを満たしていく。
そこで、ふと気づく。右手の甲の肌が荒れている。
――なんだ、これは……
左手でさすると、右手の甲の肌がボロボロとはがれた。
その下からは新たな肌が――
人ならざるものの肌が現れているではないか。
――あ、あああ…………
伊三郎の興奮は冷めた。自分が人ならざるものに変化していく。
その事実に気づいた時、伊三郎の心は以前よりも深い暗黒に染まっていた。
翌日も十兵衛は江戸城を訪れた。
今日は着流し姿に、帯にまとめた稽古袴を背負っていた。
彼はなるべく人目につかぬように江戸城裏門から入り、そして御庭番(いわゆる忍びの者)らが兵法修行を行う道場へとやってきた。
「お、柳生の若旦那。今日は稽古は休みですぜ」
広い城内の庭で、御庭番の一人が植木に鋏を入れていた。聞けば、今日は稽古は休みだという。
江戸城御庭番は名のごとく、城内で様々な仕事にも従事していた。全国各地に隠密として出向いている者や、源や政のように江戸の治安を守る為に身命を賭す者もいる。
余談ながら彼ら御庭番は幕末まで続いており、黒船に忍びこんだ記録もあるらしい。
「それでいい」
十兵衛は不敵に笑って、道場の入口で一礼して中に入った。畳ではない、板の間の道場だ。
早々と着替えを終え、十兵衛は稽古袴姿になると道場の上座へ一礼した。
壁には二本の掛軸が下げられていた。一つには香取大明神、もう一つには鹿島大明神と書かれていた。
香取大明神とは武道の神である経津主大神であり、鹿島大明神とは剣の神である武甕槌大神の事だ。
共に国譲りを成し遂げた武徳の祖神だ。兵法に身を捧ぐ者ならば誰もが敬意を払う存在である。
一礼の後、十兵衛は軽く助走し、板の間で左右の前回り受け身を連続して行った。受け身の取り方一つで、命を拾うこともある。
更に一通り体を動かし、十兵衛は瞑想する。
かつて父の宗矩は言った。無刀取りの真髄があるとすれば、すでに宿っていると。
学び覚えた技の中から、自分に見合った最高のものを身につけていると。
一人一人、身につける得意技は違うだろう。兵法の奥義とは、その得意技一つで万の敵に挑む気概だと十兵衛は信じていた。
大きく息を吐き、十兵衛は己の心身に喝を入れた。
続いて道場の納戸から真剣を取り出した。鞘を帯に差し込み、道場の中央へ進み出る。
しばしの黙想を経て抜刀し、眼前の空間へ気合いと共に十兵衛は一刀を打ちこんだ。
――どうしたら、あの化物を倒せるか。
十兵衛の脳裏には魔性と化した伊三郎の姿が思い返された。
正直に言えば、十兵衛は魔性に怯んだ。はっきりと恐怖した。それが不甲斐ないゆえに、十兵衛は父の宗矩を訪ねたのだ。
十兵衛は道場の上座へと、刀を正眼に構えた。
香取大明神、鹿島大明神。
武徳の祖神に挑む気迫で、十兵衛は己が心とも向き合った。真の敵は己の心だ。
静寂が道場の中に満ちる。十兵衛の精神は天地宇宙と調和していく。
捨心の境地だ。
自身が体感した全てを越えた境地へと、十兵衛の魂は高まっていく。
幼い子を助けたあの一瞬を、十兵衛は忘れない。
あの一瞬こそ、永遠に至る感動なのだ。
あの時の十兵衛に私心はない。
十兵衛はその心境を「捨心」と表現している。
あの遥かなる一瞬へ至らねばならぬのだと思った時、十兵衛は同時におりんの事も思い出していた。
おりんは浪人達を前にして己の命を守り、茶屋の老婆おまつを守った。
そして浪人達の魂をも救った。彼らも刀を抜いて暴力に訴える事もできたろうが、それはしなかった。
ただただ、おりんの潔さに負けたのだ。十兵衛もふと笑みをこぼした。おりんの鮮やかさ、軽やかさに心惹かれる自分がいる。
――ふつ
十兵衛は無心に一刀を打ちこんでいた。捨心の境地で放たれた一閃は、鮮やかに空を切り裂いた。
「今夜、会えるか」
十兵衛はつぶやく。再び魔性と会う、そんな予感がする。
江戸に夕刻が迫った頃、おまつとおりんの茶屋も店じまいを始めた。
「夜は怖いからね、しっかり閉めとかないと」
おりんはあくびしながら茶屋の戸を閉め、つっかい棒をした。彼女は店主のおまつの好意に甘え、茶屋に住みこみで働いていた。
今夜は満月だった。
月明かりによって、かろうじて人の姿を判別できる。
夜の中に蠢くのは数名の浪人だ。夜の中で活動する内に、夜目が利くようになるのだろう。
「あの茶屋だ、団子を恵んでくれるというのは」
浪人の一人がつぶやいた。
「団子を恵んでくれるなら、金もしこたま持ってるに違いねえ」
「若い娘もいるらしいな」
「女なんかしばらく抱いてねえぞ」
三人の浪人は悪意に満ちた瞳を輝かせた。
彼らは、おりんに追い払われた浪人達とは違う。江戸のあちこちで押しこみ強盗を働いていた浪人である。
人を殺した事もあるだけに、彼らの肚は座っていた。浪人に団子を恵んだ噂を聞きつけ、夜陰に乗じて押しこもうとした彼らだったが――
「……何だ、今の音は」
「え」
「俺には何も」
浪人が言い終えぬ内に、彼らの背後へ何者かが降り立った。
「何だと」
振り返った浪人らは見た。そこには人ならざる魔性が――
身の丈七尺を越える異形の巨体が立っていた。
恐怖に震える浪人達へ、魔性は口から何かを吐きつけた。それを顔に浴びた浪人は、絶叫して地に倒れた。浪人の顔は強酸を浴びたように溶け崩れていた。
「ば、化物」
別の浪人が刀を抜いて斬りつけようとするのへ、魔性は再び口から何か(おそらく強酸性の胃液だろう)を吐きつけた。
刀柄を握る右腕が肘の辺りから溶けて地に落ち、浪人は白目を剥いて気絶した。
「キィエーイ」
三人目の浪人が、気合いと共に魔性の背中に斬りつけた。肉を長く深く斬り裂いた、見事な一刀だ。
だが魔性を倒すには到らない。魔性は浪人の顔に両手を伸ばす。つかむと同時に浪人の頭が嫌な音を発して潰れ、血と脳漿が大地に散った。
――おおあああ……
声にならぬうめきを発して、魔性は茶屋へと近づこうとする。
昼間は人であふれる通りも、夜の中には誰もいなかった。この寛永の時代、夜は人ならざる者の世界であり、人間と魔物の世界は繋がっていた。
無人かと思われた夜の静寂の中、茶屋へ近づこうとする魔性へ、何者かが声をかけた。
「待て」
低い男の声に魔性が足を止めた。
魔性が振り返った先には、黒装束の姿が立っている。
月光に照らされた黒装束は刀を背負い、小太刀を腰に差し――
そして顔には般若の面がある。黒塗りの般若面の奥には、我らがよく知る男の顔が隠されていた。
「マカロシャダ」
般若面の男は不動明王真言の一部を唱えた。般若面に隠されて表情はわからないが、全身から対手を圧倒する気配が生じている。般若面の気配に魔性ですら気圧されたようだ。
「また会ったな」
般若面の男は十兵衛だった。
「これは神仏の導きか」
十兵衛は般若面の奥から魔性の姿を見据えた。
七尺を越えるであろう異形の巨体。初めて遭遇した夜から数日で、こうまで変わり果てるとは。
十兵衛の眼前の魔性は、伊三郎であった。十兵衛には、あの時の魔性だとわかる。理屈ではない、魂が感じていた。
まるで二足歩行する爬虫類のような魔性を前にし、十兵衛の心身に闘志がみなぎっていく。
「死ぬには良い夜だ……」
十兵衛は背に負った三池典太を抜き放つ。本来は腰に差すが、背に負った方が動きやすい。
月光に反射して、三池典太の刃が闇の中に煌めいた。それは不動明王の持つ降魔の利剣に等しかったであろうか。
――おああ
月下に魔性が吠えた。かつて伊三郎だった存在は哀しげに夜空に咆哮した。
おぞましき魔性に転じてまで伊三郎は何を望んでいたか。
あるいは彼は、辛苦に満ちた人生の中に一縷の救いを求めていたのかもしれない……
「御免」
十兵衛は左手で小太刀を抜いて、魔性の伊三郎に投げつけた。
次の瞬間には、十兵衛も踏みこんでいる。
伊三郎は両腕を左右に広げて十兵衛を迎え撃つ。
投げつけた小太刀は伊三郎の胸元に突き刺さった。が、伊三郎はそれに構わず、十兵衛に胃液を吐きつけた。
十兵衛の身は夜空に舞い上がった。彼は跳躍して胃液を避け、気合いと共に三池典太を伊三郎へ打ちこんだ。
――ふつ
小気味良い音と共に、伊三郎の異形の巨体は額から股まで、正中線をまっすぐに斬り裂かれていた。
「……」
十兵衛は瞬時に間合いを離し、正眼に三池典太を構えて、鋭い切っ先を伊三郎へ突きつけた。
残心。
十兵衛は尚も闘志を絶やしておらぬ。が、彼の眼前で伊三郎の巨体は溶け崩れていく。
「これは……」
十兵衛は般若面の奥でうめく。魔性に転じた者の末路なのか、伊三郎の体は骨も残さずに溶け崩れ、大地に吸われていった。
――もしかすれば、婆さんの団子が食いたかったか。
十兵衛はそんな事を考えた。ひょっとしたら、そんな事もあるのだろうか。
夜の静寂の中で、十兵衛はしばし寂寥たる思いに駆られていた。
が、唐突に強烈な気配を感じて振り返る。
夜の闇の中に、浮かび上がる新たなる魔性の姿を十兵衛は見た。
それは蝶に似た羽根を背に生やした女の姿をしていた。
――美しい。
十兵衛の感じた第一印象とは、そのようなものだ。
だが、
――なんだ、これは……
同時に十兵衛は、刀柄を握る右手の震えに気づいた。それは彼の内なる恐れと迷いの現れだ。
魔性を前にして怯む心は、十兵衛にはない。己の全身全霊、最高の技で挑むのみ。
それが兵法者としての、男としての使命だ。
だが十兵衛の本能は怯えていた。
人知の及ばぬ超越の存在を前にし、十兵衛の剣魂は萎縮していたのだ。
彼にできるのは、般若の面(これは己の感情を消すために被ったのだ)の奥から、決して失わぬ勇気を秘めた瞳で魔性を見据える事だけであった。
“ふふっ”
美しき魔性は微かに笑ったようであった。魔性の声は十兵衛の耳にではなく、魂に響いた。
“大いなる災禍の中心で、何ができるか見せてみよ”
魔性の姿は夜空から忽然と消え失せた。夜の中に再び静寂が満ちた。
十兵衛は片膝ついて乱れそうになる呼吸を整えた。黒装束の内では全身に汗をかいていた。
――あ、あれが俺の挑むものか……
十兵衛にはわからなくなった。自身の運命。魔性との遭遇、その意味。
夜の中に放って置かれた浪人二名の骸と、右腕を失い気絶した浪人の側で、十兵衛は自身が災禍の中心に立つ事を思い知らされた。
災禍とは江戸そのものに他ならぬ。
**
数日後、十兵衛は浪人と魔性の供養を終えた。
右腕を溶かされた浪人も死に、三名の遺体が十兵衛由縁の寺で無縁仏として葬られた。
「これを墓前に供えさせてくれ」
十兵衛は団子の皿を石仏の前に置いた。おまつとおりんの茶屋で買った団子だ。
――こんな事で満足するとは思わんがな。
十兵衛は石仏の前で手を合わせた。凶悪な浪人らも魔性に殺されたのは哀れだ。
また魔性に転じた伊三郎であるが、彼は茶屋に押し入ろうとした浪人らを襲っている。悪神である修羅が、仏敵を降伏する仏法天道の守護者であるように。
伊三郎の行いは、ある意味で善行であった。
――もし生まれ変われるなら、もう少しマシに生まれてこい。男は命を守る壁になるのだ。
心中に己が信念をつぶやき、十兵衛は石仏に背を向けた。
寺の敷地内に植えられた竹林が風に揺れ、カサカサと心地好い音を立てる……
「……むう」
十兵衛は瞠目した。竹の枝に咲き乱れるのは、白い竹の花ではないか。
竹の花が咲くのは百年に一度とも、百五十年に一度とも言われている。
その竹の花が今、十兵衛の眼前で無数に咲き乱れている……
――いかなる凶兆か。
十兵衛の全身から力が抜けそうになる。竹の花が災いの象徴であるならば、十兵衛には思い当たる事がいくつもある。
終結した島原の乱はもとより、今この江戸に在る危機。
そして人外の魔性……
十兵衛は心身に喝を入れた。やるべき事は山ほどある事に気がついた。
「柳生の剣士、何するものぞ」
十兵衛は寺を辞した。
江戸城敷地内にある道場に、稽古袴の十兵衛の姿があった。
「手加減しませんぜ」
十兵衛の前には稽古袴姿の源がいた。大柄な源は、普段はうどんの屋台を引いているが、御庭番衆の中でも腕力を誇っていた。まともにぶつかれば、十兵衛でも危ういのだ。
「だからこそ、やるのだ。いくぞ」
十兵衛は源に向かって踏みこんだ。脳裏からは、あの美しき魔性の姿が――
超越の存在である月光蝶の姿が離れなかった。
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