第12話

ハードルの大会に出場すると決めた二郎。


足の速さは世界二位。


ただ、これだけは言える。


スタートが遅れなければ絶対に一位をとれていた。


そんなことはもう思いたくない彼は反射神経を高める。


すでに人間界でトップクラスのものを持っているがさらに上を目指したい


ようだ。


まるでコーチの練習から逃げようとしていた人が別人みたいだ。


コーチは人としても鍛え上げてくれた。


後になって気が付いた。


だからこそ頑張らなければいけない。


成長したところを見せたいから。


コーチとの別れを無駄にしたくないから。


一浪の言葉も無駄にしたくないから。


これまでお世話になった人々に恩返しをしてみせる。


そんな気持ちの入った練習を始める。


大切にしてこなかった感情を表し始めた。


やっと本格的に加速したようだった。


挑む競技はハードル。


そのため飛んでいる途中の姿勢に意識を置く。


ちなみに彼は左利きだ。


ほかの人とは逆の足で踏み切る。


踏み切る位置はハードルよりも遠くで飛ぶ。


ハードルの場合というよりものほうが正しいかもしれない。


着地(?の時は勢いを殺さないように片足ずつおろす。


それは勢いを殺す為だけではない。


後々わかるだろう。


片足で降りなかったら何が起こるか想像してみてほしい。


とはいっても大会は一か月半後だ。


それまでに仕上げればよい。


一種目だけなので体操競技ほどの労力は要らない。


言い方を変えると出場する全員が一種目に絞っていることになる。


つまり全員本気だ。


その中でも一段と力を入れているのが二郎だろう。


残念ながら100メートルの時に一位を取った人もいる。


その人がハードルがうまいかどうかは別として気になってしまうようだ。


(俺は一位に固執しすぎると取れない。だからといって目指さないわけに


もいかない。気負いすぎないようにするか。)


気持ちの整理もうまくなっている。


卓球大会の時のように変に怒り出してペースが崩れたり、


陸上大会の時のように緊張してスタートが遅れたりすることはないだろ


う。


果たしてどんな走りを見せてくれるのだろうか。

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