~復帰~

第9話

彼はいつ復帰するか悩んでいた。


いつでも復帰はできるが、そこは問題でもない。


問題は彼が自信を無くしていることだった。


(俺のこと応援してくれる人っているのか?)


かなり傷が深いようだ。


そんな中で一つの言葉を思い出した。


『頑張れよ』


それは彼の兄、一浪が何気なく放った言葉だった。


正直彼は一浪の言葉が脳内に再生されることはないと思っていた。


そんな言葉を思い出した彼は応援してくれる人はいると信じ、より一層ト


レーニングに励んだ。


その後出られる大会を探した。


ある大会を見つけた。


『初心者大歓迎! 体操大会!』


彼は体操の大会に出るつもりのようだ。


『詳細  マット 鉄棒 吊り輪 鞍馬 跳馬 総合

     の六種目があります。なお、総合の種目で出場した選手は他種               

     目の出場権はありません。上位大会はありませんが三位まで入   

     賞となります。                    』


「…ん?」


彼は詳細を読んだ後に疑問に思ったことがあった。


「もしかしたらそれぞれの競技にすべて出れば五種目で表彰されるので


は?」


それは誰も考えることのないルールの穴を突いたものだった。


(ずる賢いとは言わないであげよう)


そんなこともあって全競技で出場することになった。


今回は上位大会がない為、コーチは雇わない。


一人の力で一位を目指すことにした。


再び一位への道を走り出した。


~マットの練習~


まずは柔軟性を向上させるためのトレーニング、即ちストレッチをして基


本的な運動を楽にできるようにするようだ。


彼は運動神経が高いので楽にできるかと思いきや体は意外と固かった。


そのためストレッチには時間を割いていく。


次に倒立や側転などの基本的な技を鍛える。


自分でもしっかりとトレーニングができて、結構有効なものばかりだ。


先ほども言ったように彼は運動神経が高い。


だからか基本的な技はすぐにきれいにできるようになった。


次は応用技 というよりも大会に出るにはこのくらいの技は必要というよ


な技だ。


転回(ハンドスプリングともいう)をまずはやってみる。


簡単に言うと倒立を勢い良くしてそのまま立つ技だ。


彼はあたかも簡単にやってのける。


そこからは空中で体を回すことや、ひねることを混ぜていけば競技のマッ


トっぽくなる。


もちろん普通の人なら無理だが彼は違う。


マットの中ではそんなトレーニングを繰り返していく。



彼は一つ疑問に思ったことがあった。


(このペースで本番間に合うか?)


そう思った彼だが本番まで五ヶ月はある。


彼なら間に合うだろう。


少しの安心とともにトレーニングを進める彼なのであった。

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