第5話

ついに始まった世界選手権。


この大会で彼に同情できる人が何人も増えた。


即ちファンが増えた。


大会の中で予選があり、各グループの上位二名が決勝に行ける。


予選では勢いのある走りを見せて二位になった。


そこから決勝までの間にコーチと話し合い、最高の状態に仕上げた。


疲れも少し見えたが、気にせずに行くようだ。


決勝に進出する八人が出揃った。


流石に彼も緊張している。


地面を踏み実感した今までお世話になった人々への感謝。


内に秘めていた怒りを爆発させる時が来た。


「ッパン…!  ?」


なんと気持ちが入りすぎてスタートが少し遅れた!


俗にいうだ。


ただそこからは貫禄の走りを見せ二位まで追い上げた。


残念ながら一位は取れなかった。


彼は悔しさからか目には涙があった。


これまで何枚の銀メダルをもらったのだろう。


そんなことも考える余裕もなく悔しがっていた。


コーチはこれにはさすがに唖然としてしまった。


すぐに我に返って二郎のもとへいって慰めた。


「よく頑張った。この敗北はお前のせいではない。俺のコーチングスキル


が足りなかった。本当に申し訳なかった。」


「俺ってスポーツやる才能ないんすか?」


「そんなことない。世界二位だ、自信持て」


「はい...」


沈黙が流れた。


一位への道の途中で減速してしまった。



表彰式で銀メダルをかけられたときすべての思いを注入した。


『この色のメダルはもうもらわないからな。次は金だ。覚えておけ。』


正直世界二位の人が思うことではない。


近寄ってはいけない空気を醸し出している。


彼の目は悲しさと怒りから恐怖のものだった。


特集を組もうとしていた会社も今回は諦めた。


そんな中で誰よりも彼のそばにいたコーチがもう一度話を始めた。


「俺はもうお前のコーチングはできない」


「なんでですか?まだまだこれからも成長させてください!」


「今回スタートが遅れてしまったのは俺が技術の面の指導をしなかったか


らだ。」


「そんなことないです。俺が...」


「いや、責任は俺にある。責任を取らせてくれ」


二郎が話しているのを遮って言った。そして、


「今までありがとう。一位を取ったら連絡くれよ」


そう言って去っていったのだ。


彼は感謝を込めて何も言わなかった。


ただ、一位をとれなかったこととコーチがいきなりいなくなってしまった


ことで心に穴が開いてしまったようだった。


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