2.プラネタリウムを見上げて、ふたり。

 頭上で星がまたたいている。天球ではない。ドーム屋根の内側に星空が投影されているのだ。投影されているのは夏の星空、そのなかでも、ひときわ明るい星々からなるさそり座の心臓で輝くアンタレスがよく目立っていた。 

「黙祷」

 ドームのもとに並んだ男女が頭を垂れ、沈黙でもって祈りを捧げる。

 俺と戸呂が初めた活動は、今では厄災阻止のための政府組織へと発展していた。俺や戸呂のような特性を持ったひとたちを集め、訓練し、そして厄災の起きた地に派遣する。組織の活動が拡大するに従って、厄災を迅速に抑えることができるようになり、厄災の被害も目に見えて小さくなっている。

 そして、活動の拡大とともに、その組織の名前のもと、厄災阻止のために命までもささげてしまったひとたちも生まれていた。

 ドームのもとにあるのは、彼らの慰霊碑だ。それぞれの命日はバラバラだが、この組織の創設者でもあり、初めての殉職者でもある人物の命日を慰霊の日として、その日は可能な限り全職員が集まって黙祷を捧げることにしている。

「先生」

 黙祷が終わり、参列者が三々五々と散っていく中で訓練生の一人に声をかけられた。俺が教育を受け持っている、若手のホープ格の生徒だ。

 創設者の一人として、俺は訓練生の教官を務めていたから自然とここではそう呼ばれるようになっていた。

「一つ伺ってもよろしいでしょうか」

「構わないよ」

「その、……戸呂さんは、どんな方だったのでしょう」

 そう聞かれたのはたぶん、慰霊式典の前の講話でお偉いさんの誰かがあいつのことに触れたからだろう。

 この慰霊式典の日は、あいつの命日なのだ。

 それまでで最大の厄災を、厄災の最終段階の発動をその生命でもって阻止した英雄。

 今際の際に真の幸のために己の体を使ってもらうことを神に祈り、星座となった蠍のようにというこの組織の設立時の理念を身をもって体現した創設者。偉大なる先達。人が捧げられる最大の犠牲を、人々の幸いのために捧げたヒーロー。

 この組織のような場所では、どうしても時折必要とされてしまう自己犠牲の象徴として彼の辿った物語はそう語られる。

 この組織の掲げる理念を体現した偶像(アイドル)。それが、この組織の中での彼の扱いだった。

 だから、俺はそういう話を一切していなかった。それでも、彼の名前を聞かずに過ごすことなどここでは不可能だ。そして、これだけ度々名前を聞いたなら、それがどんな人物なのか興味を持たないことなど不可能だろう。

「そうだな」

 ドーム天井を見上げると、アンタレスの輝きが目につく。蠍座の心臓。あまり知られていないが、実はあの星は二連星なのだ。ひときわ明るい主星の横に、それほどの明るさでもない伴星が連なっている。でもたぶん、光り輝いて夜空を照らす蠍座の心臓は赤く輝くアンタレスだけなのだ。

「今はもう、星のような人にしか見えないのだろうな」


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