最終話
アザレア王女が爆散したことにより、現王族は抵抗を完全に辞めた。残りの王族は全て牢屋にぶち込まれて…大半が死刑ということになるだろう。
特に前王は王権交代の象徴として、民衆の前で処刑する必要がある。王権交代後はゴタゴタしていることもあり、民衆の不満を発散させるタイミングを見計らって殺されるだろう。
文官は真っ青な顔になって、バンラックへ忠誠を誓った。彼らは言われたとおりに事務処理するだけだろうから、殺す必要もないだろう。
「ふむ。では、この場でこの魔法神ハルがバンラックを王として認めましょうか…冠を」
そう言うと、文官の1人が氷漬けの王の頭から冠を奪って私に恭しく差し出してきた。
「精霊殿…よろしいので…?」
「ま、ちょっとしたお礼ですよ」
そう言うとバンラックは地面に膝を付きの頭を垂れてきた。そこに少し仰々しく、冠を乗せる。
「これにてこの私、魔法神ハルがバンラック王の王権を保証しましょう」
私が生きていて、かつ反対しない限りは、ディアンディス王国の王座は神に保証されたことになる。権威付けとして十分だろう。
バンラックは、クリスハルに召喚儀式を教えることで間接的に私へ利をもたらしている。この程度のことなら返しても構わないだろう。
バンラックは立ち上がると、一度だけ周囲を確認するように見回してから、声を上げた。
「みな!私がディアンディス王国の新しい王バンラックである。まだ至らないところもあるかもしれないが前王のときの問題点を改善していくつもりだ。ぜひ支えてほしい!」
文官たちは、拍手した。いや拍手せざるをえない。
「そして、皆が見た通り、我が弟クリスハルは、魔法神様より新しく天恵を授かり、勇者アザレアをも越える才幹をしめした。彼は新しくこの国の宰相として私を補佐してくれる」
「え?バンラック兄さん?」
「優秀な弟に、相応しい仕事を与えると言っただろう?これからは私の側で支えてくれるか?」
「わかったよ。よろしく、兄さん」
クリスハルがそう言って手を差し出すと、バンラックが握り返した。紆余曲折はあったが、どうやら収まるところに収まったようだ。
私が召喚されたことで発生したクリスハルとの約束も、これで十分に果たしたと言えるだろう。
「さて、バンラック、クリスハル、私たちはそろそろこれで失礼するよ」
☆☆☆☆☆
こうしてクリスハルの召喚から始まった復讐劇は幕を閉じた。そして、ついでではあったのだが、私自身の復讐もその過程で晴らすことができた。
さらには死ぬ前よりも格が上がり、権能を手に入れて、最高神たちとも知己を得ることになり、まずまず最高の結果を得たといえる。
そして、その私たちはというと…。
あの場でクリスハルに別れを告げた。もてなしをさせてほしいというバンラックの言葉も辞して、すぐに旅立ったのだ。
「ハル。もてなしを受けていってもよかったのではないですか?」
「グリューン、人というのは、もてなしを受けるとしがらみができるものなのです」
「そんなものか…」
「ええ。覚えてください。それに美味しいものならこれから先いくらでも食べられますから」
グリューンがそうか、と言って納得すると、今度はいつまにか近くにいたフィニが右腕に抱きついてきた。
「ハル様…いれば…ほか…不要」
「フィニは相変わらずですね。でも、これからも末永くお願いしますよ?」
「…ん…任せる…」
言葉少なだが、フィニからは私に対する深い信頼が感じ取れる。思わず犬耳と合わせて頭を撫でた。
「でも〜ハルさんがみるみる間に、めちゃくちゃ強くなっちゃいました〜嬉しいと言えば嬉しいんですけど…」
「大丈夫ですよ、リジー。貴女のように真面目な性格ならすぐに強くなれますから」
「そ、そうですか?ずいぶんと差がついちゃいましたから。ハルさんに、おんぶに抱っこに、とならないように私も精進をしないと…」
「ええ。魔法の使い方もこれからまたみっちり教えますから安心してください」
「お、お願いしますっ!」
リジーは、努力家で、強さに最も貪欲だ。彼女の資質を考えると恐らく、そのうちグリューンも越える力を得るだろう。
「そういえば、師匠はどうして
シイカは、いずれにしても
だがそんな風に余裕をかましていると100年経って元の神力に戻ったとしても、ほかの4人に超えられているかもしれないぞ…。
まぁ、それはともかく…
「シイカの言っているのは蓄積した魔力による反発力の話ですね。そんなの私の魔力操作をすれば容易く克服できます」
シダン神からの誘いを断り、神界から地上に戻る際に、実はほかの神々からもその心配をされた。
しかし、
この程度ならなんならの魔法道具に仕立てて、ほかの神々に渡すこともできるだろう。
「師匠…相変わらず反則ですね…神界が出来た理由から否定されてしまいましたよ…」
「へー。神界ってそんな理由で作られたんですね。あ、そういえば神界に行ったときにシダン神に会いましたよ?確かに強いですね…今の私ではひっくり返っても勝てません」
「そ、そうですか?師匠がそんなことを言うなんて父を少しは見直さないとですね…えへへ」
口調の割には父親を褒められて嬉しいのだろう。少し顔を赤くして照れくさい表情になった。
うん。シダン神からの例の伝言を伝えるのを…今はやめておくことにするか…。
「それにしても、ポピーは私についてきて良かったのですか?クリスハルのことはいいので?」
「今さらやめてよ、ハルにぃ」
ポピーがそう言ってフィニがいない左腕に抱きついてきた。ということで結局5人の恋人は、全員がそのまま私についてくることになった。
ポピーを除く4人は神格を得るために順調に魔力を貯めていくだろう。ポピーだけは、魔力視がなく、天恵を使っているため、神格を上げる方法が見つかっていない。
「ハルにぃ…ボクだけ置いていかないでよね」
「あー私は魔法神ですよ。1人だけ置いていくようなマネはしません。任せてください。必ずどうにかしますから」
まずは、ポピーが魔力視を後天的に獲得する方法から探る必要がある。魔力視なしに魔力を貯める方法でもいいかもしれない。
「ま。のんびりと行きましょうか。復讐は終わったことですし、時間はたっぷりあります。ここからはゆっくりとこの世界を楽しみたいものですね」
城門を抜けると、雄大な山、木々が広がる世界。
空は青く、どこまでもどこまでも無限に広がっているようにすら感じる世界に向けて、私は5人の恋人たちと連れ立って歩き始めた。
END
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