第95話
再び、
クリスハルは、私の身体と融合していたので自分の魔力を辿るのとほとんど変わらない。
黒い門をくぐって抜けると謁見の間らしいきところに出た。玉座の近くでは、ちょうどクリスハルが王を魔法で拘束…顔だけ出した氷漬けにしている。
ほかにも部屋の隅では泣きそうな顔をした文官あたりだろうが、小さくなって震えていた。
「ずいぶんと面白いところに立ち会いましたね」
「魔法神様、おかえりなさい!」
この魔法は第9門を操作した第5階位・
「ほかの王族はどうしましたか?」
「バンラック兄さんの騎士たちが拘束に行っています。王族はみな強力な天恵を持ちますが…さすがに何人もの騎士相手には勝てませんから」
クリスハルからそんな近況を聞いていたのだが、完全に無視されていた国王?元国王が、氷に束縛されながらもクリスハルを睨みつけていた。
「く、クリスハルっ!貴様!天恵なしの無能がこんなことをしていいと思っているのか!」
「うるさいな」
「貴様!無能が王に向かってうるさいだと!」
「安心してよ。まもなくあなたは王ではなく前王になるから…そしてすぐ死人になる」
「ふざけるな!私を殺すだと!こっちには勇者アザレアがいるのだぞ!お前らなど…」
やはりこの王族はもう一苦しみ与える必要があると思った。もう一度大きな絶望を与えた上で殺さなくては、クリスハルの復讐は終わらないだろう。
そのためには、最高の演出が必要だ。
私はこのことを予想して、神界で粉々にされたアストロシティの破片を一欠片だけ拝借していたのだ。
「クリスハルよ…お前はアザレア王女をもう1度殺せるか?」
「もう1度ですか?…それは一体…」
「出来るか出来ないかを聞いている」
「出来ます。仮に勇者の天恵を持つアザレア王女がここにいたとしても…私が勝ちます!」
「そうか…良く言った」
この短い時間で私が与えた天恵を十分に使いこなしたのだろう。アザレア王女の能力は、身近で見ていたクリスハルがよくわかっているはずだ。
その上で勝つと断言したのだから、勝算があるのだろう。私はクリスハルの回答に満足して頷くと、アストロシティの破片を地面に放り投げてから魔法の詠唱を開始する。
「第4門・
魔法の詠唱が終わると、アストロシティの欠片がピクピクと動いた。そしてピクピクが大きくなると、見る見る人の形に育っていく。
まもなく、アザレア王女の姿となった。
「おおお!アザレアよ!」
「う、ぐ、お、お父様?ここは?」
混乱して状況を把握しかねているアザレア王女に私は話しかけた。
「貴女に、人生、最後のチャンスを与えようと思いましてね。私が生き返らせてあげました」
「き、貴様!何者だ!」
「そうですか。あのときから姿が変わってしまって誰だかわかりませんか?変化したのを近くで見ていたはずですけどねぇ?」
「変化した…近くで見ていた…あああっ!?」
「私は、貴女が憎くて憎くて仕方がないだろう、異界の神、来栖波瑠ですよ」
「クルス・ハル!!殺すぅぅぅ!!」
私の名前を聞いた途端、野獣のような咆哮を上げたアザレア王女。まさかだが、裸のまま私に殴りかかってきたのだ。
すでにアザレア王女と私との差が、アリと象以上に広がっている今、反撃すら必要はないのだが…。煩わしかったので、私はデコピンでアザレアの拳ごと腕を吹き飛ばした。
「うぐあっっ!?」
デコピンの勢いで吹き飛ばされたアザレア王女。私は瞬間移動でアザレアの近くに飛ぶと、すぐに治癒魔法で腕を再生する。
「あのときですら敵わなかった私に勝てるわけもありませんよ。もう1度あの苦しみを得たいなら構いませんが、そうしたらもう1度生き返らせて、苦しみを延々と続けますよ?」
「あの苦しみ……ひっ!?」
アザレア王女の顔が恐怖に歪む。
「ふふ。貴女の死因を思い出したようですね。またあの群衆に放り込んで、生き返らせて…いくらでも何度でも繰り返すこともできますよ?」
「ひっ!ひいいい!!お願いします!許してください!許してください!あの地獄だけは!」
「あれ?私を殺すってさっき言ってましたよね?」
「しません!しません!すみません!」
アザレア王女は、私の前で土下座をして何度も地面に頭を打ち付けた。切り替えが早すぎる。
「私も鬼じゃありません。これからあそこにいるクリスハル本人と決闘してもらいます。そして勝てたら貴方は無罪放免。負けても…死体は完全に消滅させて安らかな死を与えましょう…」
「う、受けます!受けます!決闘します!」
「よかった…では彼女に装備を」
そう振り返って周りに言ったのだが、私の言葉に反応するものはいなかった。あまりの話の展開についていけてないのだろうか?思わず、内心で嘆息したあと、もう1度同じことを言おうとしたのだが…。
「お、お前ら何をしている!早くアザレアに城にある最高の装備を持ってこい!」
「「「は、はいっ!」」」
氷漬けで首だけ出ている元王がツバを飛ばして隅で震えていた文官に命じた。すると文官たちは震え声ながらも返事してから、弾かれたように装備を探しにいった。
数分後、城内に残った最高の装備?に身を包んだアザレア王女と、クリスハルは謁見の間で対峙していた。
この革命劇、最後の一戦になるだろう戦いに王や文官たちは思わず息を呑んだ。こっち陣営は、茶番すぎる演出にあくびを噛み殺していたが…。
「クリスハルッッ!!!死ねェッ!」
「来なよ…アザレア」
私は王族を絶望させるため、きちんとアザレアの人間としての身体も、あの粗雑な勇者の天恵もきちんと再現している。
私のレベルからするとかなり手を抜かないと再現できないので却って手間取ったが、まぁ、何とか作り上げることはできた。
だから王が期待している素晴らしいパフォーマンスの王女が見られるはずだ。その最高のパフォーマンスである王女が敗れる様も。
「終わりだッ!!」
アザレア王女がグレートソードを構える。
と同時に、かなりのスピードと完璧なタイミングの踏み込みで最短、最速の振り下ろしをクリスハルに向けてきた。
恐らくアザレア王女のこれまでの剣閃でも、もっとも研ぎ澄まされた一撃だろう、人間ならまずまちがいなく反応できずに真っ二つの攻撃だ。
しかし…
「
クリスハルがボソリと魔法を唱えると半透明なドーム状のバリアが、彼の周りを覆う。
アザレア王女の剣閃は、そのバリアによって簡単に弾かれてしまった。
第10門、8階位・
「な、なんだこれは?」
「アザレア…ボクは…ね」
そう言うクリスハルの顔は、ひどく穏やかなものになっていた。その顔は、一度は苦しんだ彼女への最後の慈悲なのだろうか…それとも自身の手で恨みを晴らせることへの喜びなのか…。
「な、な…?」
「昔は…キミのことが好きだったんだよ…キミとの婚約も最初は嬉しかった…幸せに満ちたものになるかも…とあのときは思っていたんだ…」
「クリス…ハル…私は…」
「でも…さようならだ…
クリスハルは、アザレア王女が自身の死を正確に認識すらさせないほどの威力を持つ魔法であの世へ送り返した。
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