第93話

アストロシティがこの星の管理権を強奪していたというのはシイカの姉、カナン氏からの情報でわかっていた。


しかし、そのアストロシティが持っていた管理権は私が上半身を吹き飛ばして石にした途端、返還されたようだ。


何せ、アストロシティを石にしたその瞬間に見えたのだ。神界にまで繋がる神力を使ったルートのようなものがはっきりと。


神界と繋がる魔法そのものは何度か見ている。


厳密には魔法ではなく、何らかの権能か儀式のようなもので行っていたようだが、もちろん魔法でも同じことは出来る。


2度めに、シイカがこちらに来た時に見て何となく理解をし、3度目にカナン氏が来た際に仕組みは完全に理解していた。


しかし、使用する魔力の膨大さと複雑さで、これまでは使うことができなかったのだ。また行き先の座標もわからなくては飛びようがない、という問題もあった。


ところが、たった今の神力のルートが見えたことで神界の座標はわかった。従神マイナーゴッドまで上がったことで、魔力の面でも何とかなる。


つまり今ならあの神界への移動方法が使える、ということだ。


「ということで、みなさん。ちょっと神界に行ってきますね。このアストロシティの処分は神界に任せたほうがいいでしょうから?」

「はぁ!?師匠!?何を言っているのですか?神界に行く?いやいや、そんな簡単にいけるわけない…あれ?もしかして師匠…目処立ってる?」

「はい。何度か見ましたしね…覚えました」

「師匠!ちょっといくらなんでも反則過ぎます。あの神界とのルートを繋ぐのは神界にある特別な転送儀式の陣を使って時間をかけてするんですよっ!そんなお手軽にするものじゃ…」


やはりそんなところだろう。神界ならばこそ様々な条件をつけて、潤沢な魔力を使って転送させることができたのだろう。


地球のように魔力が常に少ない状態から、どう少ない魔力を効率的に使うかを10000年続けてきた人類だからこそ、効率よくの技術には長けたというだけの話だ。


「それが魔法なんですよ。ええ」

「はぁそうですよね…師匠ってそういう人…今はもう神か…でした…」

「ははは。シイカも私に慣れてきたようで何よりです。では必ず戻ってくるので、いい子にして待っててくださいね…ええと、こんな感じだったかな?」


神力を制御しながら、今まで見た儀式を思い浮かべる。ただし、1人…いや1柱を送るには無駄の多いところ、行く先が決まっていることによる余計なところなどを削り、最大限に効率化して、本来の200分の1の神力で済むように魔法として再構成をする。


「名付けて…通用門ゲート


魔法を使うと、これまでに何度か見たことがある黒い穴が出来た。そしてこの黒い穴を大きくしていく感じに魔力を流すと…おお、人が通れる大きさになったので早速飛び込むことにする。


すると…。


そこは、どこか荘厳な…バロック式の教会建築的な建物の中だった。いわゆる、天井が高くて、円がデザインに使われて、天井にはものすごく複雑な絵やら模様やらがある、あの感じだ。


「ここは神界のどこなのでしょうか?」

「ここはユービスボル講堂なんだけど…突然現れたキミは、誰だ?」


まさか私の声に返答があった。周りを見回すと、周りには7人いや…7柱の神が座っていた。全員が全員、とんでもない神力を放ちまくっている。


周りの神々から見られる私は妙に視線が高く……どうやら彼らが囲む机の上に飛んできてしまったらしい。


「ええと…」

「ここは、最高神が集まってする会議場で…と説明をしたいので…キミ、まず机から降りてもらっていいか?」

「すみません、すぐに降りますね…」


妙に顔が整った黒髪の神に、軽い感じで注意された私は、まず石になったアストロシティの下半身を端に放り投げ、その後に自分自身も降りた。


「その石になった下半身はアストロシティだな」

「はい。私はこの男に一度殺された来栖波瑠と言います。シダン神という方に魔法神として領域を定められた者です」


すると黒髪の神が破顔して、俺の肩をバンバンと叩いてきた。


「おおおお!お前が例の魔法神、来栖波瑠か!俺がそのシダンだよ。久々に7人で会議をしたけどさ、まさかの全会一致して領域与えることになったんだよなー!おめでとう!あっはっは!」


状況を何となく理解したが、この人じゃなくて神がシダンで、この神の発案した会議で私の領域を決めたらしい。そしてここにいる7人は全員賛成をしてくれたようだ。


「改めて俺が植物の主神メジャーゴッド、シダンだ。うん。魔法神・来栖波瑠…長くていいづらいな…よし、魔法神ハル、よく神界に来たな、歓迎するよ。お前の魔法という技術は実に面白い。そのうち話を聞かせてくれ…で、この銀髪美人が空間の古神エインシャントゴッドのミカちゃんで俺の奥さんね」

「空間神のミカです。魔法神ハルよろしくお願いします」


しゃらんと銀髪の女神が軽く頭を下げて自己紹介をしてくれると、そんな感じで、この場にいる7柱の神も続けて自己紹介をしてくれた。


「積もる話はあるが…まずはあれの処分だな」


シダン神が、チラリとアストロシティ(の下半身)を見た。すると神力が爆発的に膨れ上がる。


同時にシダン神の足元あたりから、神力が雷光のようにアストロシティのところへ一瞬で届いた。すると爆発するように植物が生えてきたのだ。


そして生えてきた植物は、アストロシティの下半身を完全に絡み取ると…一瞬だけミシミシと音をさせてから…粉々に砕いていった。


「アストロシティの処分は処刑だな。魔法神ハル、わざわざ神界にまで連れてきてもらったのに悪かったな。偽の報告による神殺し、牢獄からの逃亡、そして管理星の管理権強奪、処刑以外の判決はくだらないんだよ。よってここに処刑した」


シイカによるとこの植物神シダンは、神力では格が上の古神エインシャントゴッドでも敵わないほど強いらしい。つまりは神界で一番強い神であり、闘神の別名を持つほどだとか。


植物の神が闘神って言うのもイメージが合わなかったのだがたった今、その一端が見れた気がする。


なんつーバカげた神力とその展開の速さ、精度、そして何より極めて高い練度なのか。神力使用の背景に膨大な鍛錬と実戦経験が透けて見える。これはどうひっくり返っても勝てる自信ない。上には上がいるものだ。


「すごいですね…シダン神…ここまでにどれほど積み上げてきたのですか?」

「へぇ?神界でもそこに気がつくやつは少ないんだけどな…さすがは地球生まれの魔法使いだな」


シダン神は、私が鍛錬を褒めたことについて素直に嬉しそうに応じた。シダン神はもともと地球生まれの人間だと聞く。やはり生まれつきの神にはあまり鍛錬という概念がないようだ。


「魔法神ハル、お前、神界にとどまらないか?お前とだといい酒が飲めそうだ」

「シダン神の申し出は嬉しいのですが、まだ地上に恋人を残してきているので…」

「そうか!恋人か!それは1番大事なやつだ!そういえばそっちに送ったうちの娘はどうだ?あいつなかなかいい女だろ?まだ子供っぽいところはあるがそこはハルが大人にしてやってくれ。なんだったらあっちの意味でも大人にして構わないぞ。というか、まー戻ってこないということはそういうことなんだろうが…」


そういえばシダン神はシイカの父親だったな。父親が娘に対しての心づもりとしては、だいぶ変な気がするがそこは神ということだろうか?


「シイカは私を師匠と呼び慕ってくれています。しばらくは側にいると思いますが…何かお伝えしておくことはありますか?」

「そうだなぁ『まだお前は未熟で子供を作るのは早いから避妊はしろ』以上だ」


豪快すぎる…さすが奥さんを何人も持つ神は言うことがぶっ飛んでいる。


「シダンさん…もう少し厳粛に話してください。一応、あなたは最高神の1柱なのですよ?」

「一応かよ?はは」


隣りにいた…たしか、空間の古神エインシャントゴッドであるミカという女神が、シダン神をたしなめる。


なんだか、神と聞いてもっと厳粛なイメージを持っていたが、見た目と言い、精神構造といい、人間とほとんど変わらないことに驚いた。


すると、光の古神エインシャントゴッドのアイと呼ばれた女神が、今度はシダン神に後ろから抱きついた。


「会議あきたー☆シダンくん☆あそぼー☆」

「アイ!もっと神としての威厳をねぇ」

「もー☆ミカちゃんは固いんだぞ☆腹筋も広背筋もカチカチだし☆私みたいに☆女の子的な柔らかさがないとモテないぞ☆」


このアイというのもシダン神の妻らしいが古神エインシャントゴッドが2柱も主神メジャーゴッドの妻になるなんて、ほんと神界って自由なんだな。


「あっはっは、2人とも美人だろ?」

「魔法神ハルよ、この人を基準に考えないでください。ほかにも主神メジャーゴッドの奥さん4人、従神マイナーゴッドの奥さん8人、亜神デミゴッドの奥さんが10人いるんです!」

「可愛いからヤリたいなーって思うのに神格は関係ないだろ?」

「だからって、地上に行って子供は作らないでくださいね!」


もしかしたら、このシダン神だけが特別なのかもしれないな…ミカという女神は比較的、神っぽいし。


「おっと、恋人を待たせているということは、ハルはすぐに帰るつもりなんだよな。頑張って恋人を全員、亜神まで引き上げな。そうしたら神界に住めるぞ!俺もそうした」

「なるほど、シダン神のおっしゃる通りですね」


それは確かに面白い。1つの大きな目標が出来たとも言える。それぞれ亜神にするための魔力のため方も工夫が必要そうだし、研究のしがいもある。


「あとはこれをやるよ…次、神界に来たときは魔法の話を聞かせてくれよな」


そう言ったシダン神から、木の枝のようなもの?を放り投げて渡された。もちろんただの木の枝ではないだろうが…。


「これは?」

「鍵さ」

「鍵…ああ、この神力の流れ…どこか行き先を示していますね」

「おうそうだ。さすがは魔法神だな。で、ハルよ。次、神界にくるとき、またこの会議場の机の上だと困るからな。俺の余ってる空き家のキーをやるよ。本来ならそれを転送儀式の装置にぶっさすんだがお前ならそれの魔力辿ってくるだけで、その空き家に飛んで来れるだろ?」


なるほど。だから鍵なのか。これはありがたく頂戴しておこう。


目的であるアストロシティの処分は終わったのだから、これ以上、神界への長居は無用だ。みんなが心配するだろうしな。


「シダン神、お気遣いありがたく頂戴します。それではこれにて失礼します。恋人が全員、神格を得たらまた神界への移住を検討させてください」

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