第91話

私の身体を5本の槍が貫いていく。


それは、さぞかし衝撃的な光景だったのだろう。後ろで戦いを見守る恋人たちが慌てて動こうとしていた気配を感じた。


が、私は手を出して静止させる。さすがに5人が強くなったと言っても、この神力同士の戦いに巻き込む訳にはいかない。高確率で、彼女たちが命を落とすだろう。


「みなさんは、そこで私の戦いを見守っていてください。大丈夫です。可愛い恋人たちを置いてはどこかにはいきませんから」


私の発言を聞いたアストロシティは、とても満足そうな顔をした。そして、5人を見回したあとこう発言した。


「人らしい健気さだ!良いだろう!見目も悪くないしな!お前を殺した後で、お前の恋人たちは全て愛人として可愛がってやろう!」


下衆な発言に5人は顔をしかめる。特にフィニはアストロシティをギ、と強く睨んだ後、ボソリと言った。


「ブ男…無理…あと…夜…下手そう…」

「な、なんだと」

「ハル様…イケメン…夜はすごい」


フィニの余りといえば余りにすぎる発言に、アストロシティは怒るどころか絶句してしまった。


「だそうですよ?それにしても、先ほどの発言、上位の神を欺いて人を不意打ちを殺すような嘘つきな卑怯者に相応しい物言いでしたね。素晴らしい。これが物語ならば、貴方は立派な悪役です!その醜い見た目も含めて、ね」

「ぶ、無礼者め!私はブ男などではないっ!人が神の見た目を論じるなど…やはりあの女どもはあとで犯し殺してやる!それにな、これは物語ではないのだよ。この世は弱肉強食。神ですら弱ければ食われるのだ!」

「わかってるじゃないですか?これから貴方が食われる自覚があるようですね」


私の挑発には答えず、無言でアストロシティは腕を振り下ろしてきた。


すると、従者のように付き従っていた5本の槍のうち3本がこちらに高速で向かってくる。


飛んできた3本の槍を全てをギリギリで避ける。避けた途端に軌道を変えたりしてくるかと思って警戒をしていたのだが、そこまで自在ではなかったようだ。


(観察していると槍の動かし方がわかりますね)


槍の動きは、どうやらアストロシティの思考とリンクしているようだ。先ほどから、アストロシティの目線と軌道がほぼ一致しているのがその証拠だ。


私の動きを追いきれなければ、槍も所詮はその通りにしか動けない。フェイントなどを混ぜつつ、動くと簡単に騙されたりするため、対処はそこまで難しくはない。


(問題は攻撃に転じられないことですね…)


避けることは避けられるが、こんなことを続けていたらさすがにジリ貧である。こちらが、疲れてしまったらひとたまりもないだろう。


しかし…そうか、飽くまでアストロシティの視覚に頼っているのならば、槍のことは気にせずに、アストロシティを誤魔化せばどうにかなりそうだ。


「第2門、8門混交、真階位オリジン完全幻覚パーフェクトイリュージョン✕4」


自分とそっくりの幻覚を4つ生み出した。高速で幻覚と入れ替わりながら、どれが本物か分からないようにもすることでアストロシティの視覚を惑わすようにする。


「幻覚には何もできまいはしまいよ!」


とは言え、探し当てるのも面倒になったのか、5本の槍を同時に動かし始めた。1人1本づつということだろう。


「ホラホラホラホラッッ!!避けろ避けろ!」


5本の槍が幻覚、あるいは私をそれぞれ襲うがそれでも捉えられないように回避を続ける。


しかし、4つの幻覚を操作しながら、自分自身もしなくてはいけない回避行動だ。何回か、私の姿をしたものに槍の先がかすったりもした。


「くははは!それで誤魔化しているつもりか!」

「……」

「くくく。私が幻覚を見抜けないとでも思ったのか!さっきから5つのうち1つだけ槍が当たった感触がある。さらには、間抜けなことに当たった感触のあるものだけ影があるのだよ!つまりお前が本物で他は幻覚だ!」


5つある私の姿のウチの1つを指して、アストロシティは叫んだ。幻覚の正体を見破れたと、たいそう嬉しそうに口の端から涎までが飛んでいる。


たしかにフィニが言った通りブ男だなぁ、妙に感心してしまったのだが…。その間にアストロシティは指さした私の姿に5本の槍を一気に集中させた。


「!!」

「殺った!八つ裂きだ!!」


5本の槍が、アストロシティが幻覚ではないと特定した私の姿をしたものに集中する。そしてその身体の真ん中で槍が交差するように静止した。


その様子を、


「バカめと言っておきましょう!」


幻覚を本体だと勘違いして槍を集中させ、そして私本体を幻覚だと勝手に思い込み、近づくのも気にせずアストロシティは隙を晒した。


たっぷり射程距離まで近づいてから、一閃!


まずはアストロシティの両腕。そして振り下ろした剣を振り上げる軌道で両足を切り落とす。


「な、いつから?」

「精神操作魔法は初めてですか?」


この幻覚は、光操作で幻覚を作り、同時に精神操作魔法で感覚すら騙すとんでもない幻覚である。


もちろん自分自身には第8門・光操作の魔法で地面に落ちる陰をなくしている。そして私だけは攻撃を掠らないようにして、幻覚と入れ替わりながら、アストロシティが勘違いするのを待った。


つまり、幻の感覚に手応えを感じ、その幻覚だけ陰をあえて出すことで本物だと思い込ませて、スキを作ったのだ。


幻覚魔法は対処が難しく、その割に1回でも騙されると致命傷になりかねない、強力なものなのだ。


最も人を殺した動物をご存知だろうか?


ワニ?サメ?虎?ライオン?熊?蜂?毒蛇?


正解は蚊だ。


本当に恐ろしい魔法は、派手に全てをなぎ倒す爆炎でも、幾数本もの落雷でもない。この幻覚魔法のように、あるいは蚊のように、効果範囲が分かりづらく対処しづらいものが、最も恐ろしいのだ。


「さて、しばらく貴方の回復は封じましょうか…第4門、5門混交魔法・肉を石にフレッシュトゥストーン

「あがあっ!?き、貴様!?な、何を」


相手は腐っても従神マイナーゴッドだ。


魔法で全身に影響を与えるのは、さすがに無理だろう。だが、切られて魔力の流れを乱された切り口ならば、魔法での変化も少しの時間くらいならば効くはずだ。


私は「肉を石にフレッシュトゥストーン」で傷口付近を石に変えて、再生をしばらく出来ないようにする。


そして…


「第7門、真階位オリジン異常成長マスグロース


再び、シイカが地面に残した木を育てて、たった今持ち主の指示で1箇所にまとまっている槍・殲滅の槍ドゥームブリンガーを縛り付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る