復讐

第87話

「第4門・真階位オリジン死者蘇生リザレクション!」


第4門の治癒系統魔法でももっとも魔力をバカ食いする真階位オリジン魔法。


亜神クラスの魔力がなくては、そもそも使うことすらできない魔法だ。さらには対象の肉体の大半が残っている必要もあるため、条件は厳しい。


で、今回使用を考えている対象となる肉体はすでに。そのため、今回に限って生き返らせるのは実に容易である。


何せ、もはや他人の肉体ではないのだから。


私は指の先を歯で軽く傷つけると、地面に血を一滴だけ垂らした。魔力濃度から考えれば、それで十分過ぎるだろう。


「さぁ、よ、この世に帰ってきなさい!」


私が唱えた魔法の光を受けた地面の血の染みが、ピクピクと動きだした。


まもなくピクピクの速度が早く、そして大きくなると、ついには地面から伸びるように、肉体が生えてきた。


そして、クリスハル・ジオフォトスは、約2ヶ月ぶりの現世に、真っ裸の肉体で再臨した。


「え?…えぇ?」


突然のことに困惑しているが、仕方あるまい。何せ生き返らせることは、事前に説明することは出来ないからな。どうあっても『突然のこと』にしかならないのだが、こればっかりは受け入れて欲しい。


「「「「「えええええええ!?」」」」」


そして、本人に続いてその場で、私を除くほぼ全員が驚愕した。アザレアすらも目を見張っている。


女性陣の目線が好奇を帯びていることに気がついたのか、クリスハルはそこで、自分が裸であることに気がついた。顔を赤くしてうずくまってしまう。


ここの女性陣はみな、クリスハルの肉体の裸は見たことがあるはずだが…。


ま、見られたことがあるとは言ってもこの場で裸を見られるのは可哀想か…。私は、近くにいたポピーに話しかける。


「ポピー。農場ファームから、あのクリスハルに服を出して上げてください」

「あ、うん」


すぐに扉を開き、中に入ったポピーは、少し前まで私の服だったものをクリスハルに渡した。


「クリスにぃ、どうぞ」

「あ、ありがとう、ポピー…」


まだ状況は理解できてなくても、服は着たいのかクリスハルは渡された服をいそいそと着始めた。


私は着替え中のクリスハルに近づいた。


「クリスハル、はじめましてですね」

「あっ…も、もしかして、貴方様は私の召喚に応じてくださった異世界の神様ですか?」

「そうなりますね。そして貴方からの依頼を今ちゃうど終わらせようとしているところです」


私の視線の先にいる地に伏せたアザレアを見て、クリスハルは目を丸くした。


「あのアザレアを本当に…」

「ええ。でしたら大した相手ではありませんでしたね。ああ、私の名前は魔法神・来栖波瑠と言います。ちなみに、貴方が死んでから約2ヶ月ほど過ぎていますね」

「え?まだ、そんなしか経っていないんですね」

「ええ。この世界が過ごしやすくて、思っていたよりも順調に計画が進みました。それで、貴方を虐待していた連中は死ぬか、破滅したかどちらかの道を歩んでいます。そして今、アザレア王女にトドメを刺そうとしたところで、貴方を復活させる目処が立ったんですよ」

「生き返りまでさせていただくなんて…ありがとうございます!」


正直、こんな短期間で亜神に戻れるとは思っていなかった。地球のときと同じ時間…20年はかかると最初は踏んでいたのだから。


「いえ。私も実は肉体が滅びかけてて、貴方の召喚のお陰で助かったのです。これまで貴方の肉体を借りていましたからね、お互い様です。それで、あとは王家を滅ぼして依頼は終わりです」

「も、もうそんなところまで…」

「でも、せっかくのタイミングなのでアザレアの断罪は貴方にお任せしようかと」

「ぼ、ボクがですか?」

「なに、アザレア王女は神剣とやらに身を委ねた結果、天恵が破壊されていて、今やただの少女です」


当たり前だ。身体中をあんな神力に浸して、天恵の回路が無事なわけがない。脳内の回路含めてズタズタだろう。


「逆に貴方には生き返りに際して私から魔神という天恵をプレゼントしました。使い方は…わかりますね」

「あ、はい。何となくわかります…これが天恵っていうやつなんですね…」


天恵と言ったが、実際にはあんな稚拙な回路ではない。召喚勇者ヒーロや、ポピーのように完全に最適化された、権能に近い極めて性能の高い天恵だ。


神の天恵は、魔力を勝手に最適化して門を通した魔法を放つ天恵だ。


彼は生き返らせたところ、第4、5、6、9、10の門が空いていた。天恵ももちろん、それに合わせて調整してある。


階位で言うと7か8階位までのうち、使い勝手がいいものを合計100ほどチョイスしてある。天恵なので、発動のキーワードだけで魔法が使えるのもポイントだ。


爆裂火球エクスプロージョンファイアボール


クリスハルが、無造作に手を翳して言葉を口にすると、直径5メートルはある火球が生み出された。


「わわっ!?な、なにこれっ!?」

「はっはっはっ。私が丁寧に作った天恵です。ぜひぜひ活用してください」


慌てたクリスハルは空中に向けて爆裂火球エクスプロージョンファイアボールを放つと空に大きな打ち上げ花火が上がった。


爆裂した残りの火がちらちらと降り注いでくる。


特に耐性のない普通の人に当てたら、間違いなく粉微塵だろうな。うむ。我ながら素晴らしい天恵を作ることが出来た。


「し、師匠!?何てものを人に与えているんですかっ!?あんなのほとんど権能じゃないですか?」

「私程度の神力でつくったものなら、権能には遠く及びませんよ」

「いや、使用魔力は少なくても、あの変換効率、頭おかしいですよ…というか、師匠の肉体から作ったからあの少年、すでに中位精霊くらいになってますよ?何を考えているんですか?あの少年を魔王にでもするつもりですか?」


わかっている。自らの魔力から魔法を放つように天恵を調整したのはそのためなのだから。

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