第82話

バンラックから提案を受け、騎士団の後方支援隊の馬車に乗って行軍に付き合うことにした。


バンラックたちの、元々の予定としては、王族のいなくなった王都に乗り込んで、王権を奪い取るつもりだったようだ。


しかし、それよりも私たちに協力して一緒に王族を滅ぼしたほうが、後々の正統性も増すと考えたらしい。


「正直な話をすると、精霊殿一行に我々の助けは不要だとは思うが…」

「好きにしてください。先ほどいった通り、私の邪魔をするのでなければ、その後のことについて私にはどうこうするつもりはありません。貴方が王を継ごうが何をしようが関係ありませんから…」

「すまない。せめて露払いくらいはさせてくれ」


バンラックとはそんな感じで話はついたが、騎士たち全員に対してはそうはいかなかった。


騎士でも上位の者は事情を理解しているようだが、そうでない新しい騎士は、違う。つまり…


「無能のクリスハルを連れて行くなんて、バンラック様は何を考えているんですか!?」


騎士団の中には、そんな感じで状況を理解していない騎士も一部いる。バンラックはそういう騎士を窘めたが、やはり不満が燻っていたのが見て取れた。


「無能…ねぇ?」


露骨に、敢えて私が聞こえるように叫ぶ意地の悪い騎士に思わず嘆息してしまった。


状況をまるで見ることが出来ていない…もちろんこの国の天恵に関する教育が行き届き過ぎていることもあるのだろう。


その根の深さに呆れつつ、クリスハルを無能と叫ぶ騎士に向かって言った。


「そこの騎士さん、ぜひ私に貴方の有能ぶりを見せてもらえますかね?」

「あぁん?バンラック様に言われて我慢していたが無能クリスハル坊っちゃんは、それで何か勘違いをしてしまッッッッッ!?」


ぐだぐだ言っているので、魔法で肉体を強化してから殴り飛ばした。


鎧の上から胴を殴った。鎧が弾け飛ぶほどの勢いで殴ったからか、その男は5メートルほど地面に並行に飛んでから、木にぶつかって動かなくなる。


「弱すぎる…そこらの野犬の方がマシですね〜」

「な、なんだとぉ!」


煽られたほかの騎士…やはりそれなりにクリスハルのことを蔑む者がいるようで…が怒りを顕にしてきた。


「文句があるならかかってきなさい」

「ガキが、バンラック様に守られてるからって調子に乗ってんじゃねーぞ!」

「そういえば…貴方たちのようなお山の猿は集まらないと何もできないでしょうから、ぜひ、その腰のチンケな武器を構えてから、まとめて襲いかかってくることを推奨します」

「ぶっ殺すぞ!」


挑発に乗った20人ほどの騎士が、剣を抜いて一斉に襲いかかってきた。全く騎士だと言うのにバラバラに襲いかかっきて…。


「さて、手加減の練習としましょうか」


雷切やユピテルを抜くとかなり手加減をしても死人が出る。魔法を当てても一網打尽なので、肉体強化と拳だけでどうにかすることに挑戦だ。


王城に乗り込んで虐殺はしたくないしなぁ。その練習と洒落込むことにする。


先頭で剣を振ってきたやつの手を先に掴み、捻りながらやや力任せに投げ飛ばす。腕の骨が外れる感触がしたが…許容範囲で。


地面に落ちる直前に全力で胴体を蹴ると、ボーリングの玉のように後ろの3人を巻き込み、ノックアウトする。


「やはり、野犬の方がマシですねぇ」

「囲んでぶっ殺せ!」


文字通り騎士が後ろの方まで回り込りこむのを待ってから、首を左右に回して様子を見る。


「準備ができたなら始めて頂いて結構ですよ?」

「構えろ!」


なるほど、騎士たちは集団戦のプロだ。最初こそ不意打ち気味で数人気絶させられたが、今回はキチンと統率が取れている。幾分かマシだ。


「ふむふむ。これなら合格ですかね?」


ほぼ同時に攻撃が仕掛けられるよう、私の動きに対して包囲網も動きを変えている。それも一糸乱れずに、まるで一つの生物が蠢いているみたいに。


さすがは、あの合理主義者バンラック配下の騎士たちだ。練度はそれなりらしい。


「かかれっ!」


それでも襲いかかる瞬間はある。攻撃態勢に入れば後は止められない。攻撃態勢に入る瞬間、前にいた騎士に一気に距離を詰めると、後ろの騎士とは距離が開くのは必然だ。


距離を詰めた騎士が持つ剣の中心面にある溝、フラーの付近を右手で弾く。


そして左手を、開き、全ての指の第二関節、第一関節で曲げる…龍爪掌…にしてから、鎧の胴部を力いっぱい殴る。


メコォと鋼鉄製の鎧が掌底の形にひしゃげる感触が一瞬だけするが、すぐに騎士が吹き飛ぶ形でお別れをした。騎士は勢い良く後方に吹き飛び、10メートルほど山なりに飛ぶと地面にワンバウンドしてから、15メートルほど先に転がった。


味方の惨状に一瞬固まった右隣の騎士を足払い。転んだところを、両足を掴んでジャイアントスイングをしながら、投げ飛ばして、後方の騎士を蹴散らす。


「こいつ、早すぎぞっ!」

「大きく構えるな!」


ふむ。わかっている。素早い相手には、細かく刻んで攻める。それにこれだけ団子になると、大ぶりだとフレンドリィファイアになりかねないからな。


払って蹴る、避けて殴る。


私みたいに素早く動けると、集団がほとんど体をなさない。現実的には、同時に襲いかかることがほぼ不可能だからだ。


1対1をひたすら繰り返しているだけになる。そうなればあとは私の体力との戦いだ。もちろん、20人に足らない程度ならどうとでもなる。


結局、5分足らずで襲いかかってきた騎士たちは全員伸びることになった。


「無能の私に、集団で襲いかかって手も足も出なかった騎士は無能以下のゴミですかね?」

「くっ…」


まだ意識がある騎士たちは、私の煽りに怒りを露わにするが…。私の言葉は変えようのない事実なのだから、それ以上は何もできないようだ。


「身の程を知ったら、余計なことはしないでくださいね。こっちは武器も抜かないで手加減をしてさし上げたので…殺されたくなければ、ですが」

「……」


剣すら抜かなかった事実にようやく気がつき、騎士たちは打ちのめされたようだ。下を向き、完全に黙ってしまった騎士を放置して、私は自分の馬車に戻った。


ま、実はこれ、バンラックから頼まれて、見せしめにボコボコにしただけである。驕った新人騎士を嗜めたいと相談されて、面倒なやつを黙らせるのと一石二鳥だからと一芝居打った。


ちなみにコーヒー豆500グラムと引き換えだ。


さすがにこれ以降は、何かを言ってくるバカはいなくなる。そんなことをしながら進んでいるうちに、王都は目の前にまで迫っていた。












※いつも読んで頂きありがとうございます。

※過日はギフトを下さった方がいました。この場を借りてお礼申し上げます。

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