第79話

アストロシティは、神界に住む神の1だ。


神と人の違いは体内の魔力構造であり、本質的に異なる精神をしている訳ではない。もちろん長寿ゆえの、悟り、怠惰などはあれど、人間の精神構造の延長線上にある。


神界には神々たちが作る社会があり、それぞれに与えられた仕事がある。


アストロシティの仕事は管理神である。この神界ではもっともメジャーな仕事であり、様々な並行世界に存在する無数の星を監視する仕事だ。


管理神は、場合によっては管理している星に対する警察権のようなものを行使することもある。つまり、亜神以上の存在がその星に害悪だと判断された場合に審判を下す、というものだ。


星に対しての絶対的な権限を持つ管理神だが、これは飽くまで仕事の名称であって『担当領域』とは異なってくる。


担当領域は、神界に住むほとんどの神が与えられない。何せ、神は社会を作るほどにいるのに比して領域というのは少ない。


自分の担当領域が欲しければ、自ら発掘するしかない。そう、亜神・来栖波瑠ハル・クルスのように。


現在ある領域はすでに誰かの担当域であり、自分で作り出さない場合、担当領域の神を消滅させるという方法もあるが、非合法の場合が多く、担当領域を任される前に処分される。


「ということでさ、地球の元人間で、自ら亜神になったこの来栖波瑠を新領域・魔法の神とするよ」

「植物の主神メジャーゴッドシダン殿の推薦か。シダン殿の出身の星だったか、この青年のいる地球というのは」

「ええ。この魔法という領域も面白い。人の小手先の技術かと思っていたけど、中々に奥深いし、これからどうなるかわからない。人が積み上げてついには神に届く技術なんて素晴らしいじゃないか!」


植物の神シダンは、円卓の前でそう力説する。


美少女のような線の細い顔立ちに、黒い髪、黒曜石のような黒い瞳。神界に住む女神たちは、みな彼を見たら、声を揃えて「瞳を見るだけで心まで吸い込まれそう」と絶賛する美男子である。


植物の主神メジャーゴッドシダンは数少ない、前任者を退けて領域を任されるようになった神だ。前任の植物神が、担当する星の生物を滅ぼそうとしたのを食い止めたという功績による。


シダン神が力説している円卓の周りには複数の人…いや、神が7、座っていて、シダンの話を聞いていた。


7柱の最高神が開く会議、ユービスボル。不可逆の意味を持つこの会議は、この決定が覆らないことを示す。


不意に、1、銀色の長い髪の毛をした美しい女神が立ち上がると、一堂を見渡してから、綺麗な唇を開いた。


「じゃあ、そろそろシダンくんの提案の採決を取りましょう。空間の古神エインシャントゴッド・ミカ、賛成します」


ミカが片手を上げて賛意を示すと、ほかの神々も合わせたかのように片手を上げる。


「光の古神エインシャントゴッド・アイ、賛成だよーん」

「時間の主神メジャーゴッド・ブランド、賛成だ」

「動物の主神メジャーゴッド・アクロ、賛成する」

「闇の古神エインシャントゴッド・ダルク、賛成だ」

「火の主神メジャーゴッド・フィオル、賛成」


シダンは提案者だからなのか手を挙げないが、ほかの神々の賛同に対して嬉しそうに手を叩いた。


「おー。全員賛成か。ありがとう!じゃあ早速、近くにいる管理神に担当領域の任命と権能を渡すように命じしないとなぁ」


こうして古神、主神たちの会議の末、新しく亜神になった元人間、来栖波瑠ハル・クルスに『領域』が与えられることになった。


ここまで神と言っていたかが、厳密な言い方をすると、神界にいるのは広義の神であって、狭義では神と呼ぶとは限らない。広義の神は、身体が神力を帯びること。


狭義の神は担当領域を決められること。『1柱』として数えられるのは狭義の神だけだ。柱とは支えるもの。支える領域があってこそ『1柱』と呼ばれるのだ。


それだけ領域を持つことは栄誉なことである。領域を持つ神にのみ与えられる『権能』という大きな力の存在もその栄誉に拍車をかける。


新しい神、来栖波瑠ハル・クルスに新たな領域を告げに行く役割を渡されたアストロシティは、領域を持たない広義の神で、神の階位として従神マイナーゴッドになる。


複雑なことだが、アストロシティは、神と神の間に生まれた、生まれついての神でもあった。


両親とも領域のないありふれた神ではあった。しかし、その2人はいわゆる『伝統派』と呼ばれる人から神への成り上がりを嫌う一族だったのだ。


生まれついての神からすれば、人から神になることを認めては領域を与えられる機会がさらに減る。だから領域が欲しい生まれつきの神は、稀にこうして

『伝統派』に傾倒していく。


2人の息子であるアストロシティも、同じく伝統派として人から成り上がりを許さない思想を持っていた。


神の世界は、実力主義の極みだ。司る領域の森羅万象がのしかかるのだから、血筋など何の意味も持たない。極めて合理的に領域を与えないと、世界が滞ってしまうのだから当然だ。


もちろん強力な神からは、強力な神は生まれやすいが、決して絶対ではない。


だから伝統派などは、神の世界では比較的少数派なのだが、それでも社会が長く続けば、そういうのも少しづつ増えていく訳であって…。


そんなアストロシティが、成り上がりに新しい領域と権能が与えられることを素直に受け入れる訳がなかったのだ。


だから、それから数日たち、アストロシティが新しく任命したはずの魔法神・来栖波瑠を殺害したという報告があったとき。


「生意気な来栖波瑠は私に反抗しましたので殺害しました。新しい領域を与えられるに相応しいのは私のような生まれついての神なのです!」


アストロシティの報告に、神々たちは驚いた。そして、その場で古神、主神たちは、アストロシティを拘束して、事態の捜査を命じた。


彼ら伝統派からすると、まさか人から上がってきて単なる亜神ごときが、しかも人から成り上がりの植物神が推薦した神など、存在自体が許されない。殺されて必然、という話だったのだ。

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