第78話
「む…」
遠くに感じる、ある感触に私は思わず声が漏れた。
「師匠、今のは…」
「亜神クラスの干渉がありましたね」
シイカだけはその感触を感じ取ったらしい。私に遠くの感触について問うてきた。
私は今、5人の恋人?パーティーメンバー?を率いて、王都に私は向かっている。もちろん、アザレアとの最終決戦に向けて、だ。
その方向、王都の方向に巨大な魔力を感じた。それも単なる魔力ではない、亜神のものだ。
「師匠が言うなら間違いないですね。私も今のは亜神クラスだと感じました」
「ええ。今のは亜神クラスが、しかも何らかの形で魔力を使用した形跡でしょうね…そうでないと、いくらなんでもこの距離からでは気がつけません」
それも今、王都に向かっていて気を張っていたからこそ気がつくことが出来た魔力形跡だ。
「でも、師匠、これって、こっちに向けた魔力使用ではないですよね」
「ええ。私たちに向けるという指向性があれば、もっとわかりやすいでしょうからね…しかし…」
何か…この魔力の流れ、ひっかかるものがある。
「師匠?」
「どこかで感じたことのある魔力の流れ…いえ、亜神の知り合いなんてほとんどいないはずなので、知り合いなら気が付きますよね」
「師匠…相変わらずですけど、そんなことがよくわかりますよね?そういえば、ヒーロさんの天恵を見た時も、父の権能の癖がどうのとか言ってましたよね…そんなことわかるものなのですか?」
「それは簡単に…とは言いませんが慣れればわかりますよ。例えば、古い壺を見て時代と作者がわかる鑑定士がいるように、数をこなして知識を使えばわかるようになります」
そのときだった。
私は少しも気を抜いたりはしていなかった。それなのに完ぺきに不意にだった。本当に何の前触れもなく、空中に黒い、亀裂のようなものが突然現れる。
「こ、これは?もしや…」
「天界からの?」
シイカと私が驚く間にも、黒い亀裂は見る間に、広がっていく。そしてその裂け目は、あっという間に人が通れるほどの大きさになった。
「ふう。シイカちゃん、お久しぶり…あれ?貴女、シイカちゃんよね?」
そういう声とともに出てきたのは、やはりこれまで何度か見た大きな白い羽根を持った天使だった。魔力量は
「久しぶり、カナン姉さん」
「やっぱりシイカちゃんか…じゃな、なんでシイカちゃんは現地生物の形状をしているの?」
「いろいろあったのよ!で、カナン姉さんは何をしに来たのよ!」
シイカの問いを無視したカナン氏は、私の方を見るとまずは頭を下げてきた。
「私は秋の植物を司る
「どうも、来栖波瑠です」
「魔法神・来栖波瑠。この度は天界の不手際で一方的な殺害というあってはならない事態となったことをお詫びします」
「それは構いません。その件に関しては、すでにシイカから謝罪を受けています。お陰で新たな魔法研究もできて中々に楽しい日々ですよ」
もう殺されたことに恨みはない。
呼ばれてきたこの世界は、地球よりもはるかに魔力が豊富だ。そのため、通常では考えられないくらいの速度で私の魔力濃度が上がっている。
恐らく、数年もあれば地球のいた頃の魔力を超えられるだろう。
何故ここまで魔力が濃いのか、その理由ははっきりとはわからないが…。天恵という非効率な魔力使用手段が主流となったため、必然的にこの星では魔力を多く生成する必要があったのだとは思う…。
「あの…つかぬことをお伺いしますが…」
「なんでしょう」
「魔法神・来栖波瑠は…殺されてからまだ2ヶ月ほどですよね?何故、すでに上級精霊クラスの魔力を備えているのですか?」
「この世界は魔力がありあまりすぎて、むしろこれだけの魔力があれば簡単にこれくらいにはなれると思うのですが…」
私の発言にカナン氏は頭を抱えた。
「何と言うか…父も驚いていましたが…魔法神の魔力に関する操作技術は少し異常ですね…」
「そうですか?」
「執念というか、鍛錬とかそういう次元を超えています。ある種の天才なんでしょうけど…」
「ははは。単なる魔法オタクですよ」
私は子供の頃、魔法に魅入られてから、とにかく魔法ばかりに人生を費やしてきた。
地球の人間世界に私が生まれる遥かに前から魔法の技術が作られ、興され、連綿と受け継がれている。記録のある範囲ですら、すでに1万年を超えているのだから、とんでもない技術の集大成である。
私はその技術を継承し、理解し、可能な限り発展をさせるために尽力したつもりだ。少なくとも私1人では今の地点に来ることはできなかった。先人の発見と工夫と積み重ねがあってこそだ。
「地球の人は、ほかの並行世界と比較しても、かなり好奇心が強くて、技術の発達がどの世界よりも早いんですよね」
「そうなんですね」
「ええ。ほとんど世界では魔力を良しとする傾向が強くて、地球よりも魔力を多めに生産することでこの星で言う天恵のようなものを作り、人類は生きてきました」
「ふうむ。なるほど…地球は逆に魔力が少なかったのでそこに住む人類は工夫を重ねて、発展せざるを得なかった、と」
「結果としてはそうなりますね」
魔力の少なさが、逆に魔力をうまく利用する技術、あるいは科学技術のような魔力に頼らない技術の発展を進めた。
ほかの世界は魔力とは天恵などで呼吸のように使うものだ。呼吸のように自然と行い、すでに万全の効果を発揮するものの何を研究するというのか。
「満ち足りた世界では発展が遅れる。その逆、足りないからこそ発展する。そんな地球の特異な環境が生み出した魔法という技術。その集大成が魔法神の貴方と考えると、なるほど…地球が生み出した神とも言えそうですね」
「大げさな…」
そう考えると、たまたま私はその環境にいただけとも言える。もし地球でなければ、ここにたどり着けなかったと考えると感慨深い。
「話が逸れましたね。私がここに来たのはメッセンジャーとしてです。この通過門も30分ほどで閉じるのですぐに戻る必要があります」
「メッセンジャー…もしかして先ほどの亜神の反応と関係があったりしますか?」
従神が、この世界に、しかも明らかに緊急で遣わされてきたのならば、その用事など限られる。
「亜神?ああ、やはり、すでにこちらでは反応がありましたか…そうです…貴方を殺した神、アストロシティが神界の刑務所を脱走したのです!」
なるほど、それなら知ったことのある魔力の流れな訳だ。私を殺したあの神なのだから。
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