凱旋
第71話
『それでは、ハルが復讐をする相手が、私の息子のカタキの可能性が高い、のですか…』
黒檀鋼の盾にボルダーオパールを埋め込んで一休みをしている間、母龍…名前はグリューンと言うらしい…と話している。
こんな僻地に住んでいる龍に、特に隠すこともないので、私の憑依からここまでの経緯を説明した。
「ええ。正直、龍を狩れるような人などそうそういないですしね。そして私の復讐相手、アザレアがこのあたりでレッサードラゴンを狩った、という話を聞いています」
これまで得られた情報を統合して考えれば、そう思い至るだろう。アザレアが、グリューンの息子の敵であると。
『このあたりに私たち親子以外の龍はいません』
「ですか…やはりそうですよね」
これだけの巨体を持つ龍。当然縄張りなども広くなるだろうし、となればこの近辺にほかの龍はいないというのも合理的だ。
『ハル!私を…貴方の復讐の仲間に加えていただませんか?決して足は引っ張りません』
ぐい、龍の巨大な頭部でこちらに迫ってくるグリューン。まぁ、彼女の性格からしてこうはなることは予想できたというのに、私も迂闊なものだ。
「それは貴女がつけば百人力でしょう。それに貴方の気持ちもわかります。しかし、龍を連れて王都に戻ったら大騒ぎですよ」
『そう…ですか…』
「はい。申し訳ありません」
何となく、それであっても全てを駆逐できる気はしている。が、あまり計算からズレる要素を入れるのもよくない。
不確定な要素を入れて、私一人の問題ならばともかく、結果として恋人たちを危険に晒す可能性があるとすれば、避けたいものだ。
『そういえば貴方や、あの子のカタキのようなものがいて忘れていましたが、人は基本的には弱い種族でしたね』
「そうですね。もし貴女が王都に現れたら、蜂の巣を突いたような大騒ぎになるでしょう」
『でしたら、これでどうですか?』
そう言うとグリューンは、目を瞑った。
そして全身が光に包まれたかと思うと、あっという間に人型になった。まぁ上級精霊ともなれば形はある程度自在に出来るだろうが、あのサイズから人型まで縮まるともなると別だろうに…。
そういえば、ヒーロの娘を名乗っていたあの亜神も龍でありながら、人の姿を取っていたから、この世界の龍はよくあることなのかもしれない。
背には翼、頭には角があるものの基本的な形状は人である。文献で龍人という種族がいることも確認しているが、それに寄せたのだろう。
(しかし…これは…)
何と言うか、うちの4人にはない大人の艶気たっぷりの妖艶な、背の高い美女になった。
背丈は私と変わらず…いや、やや大きいくらいで、さらにはリジーよりも大きな果実2つを胸にぶら下げて裸なのはさすがに私としても少し気まずい。
「グリューン、服を着てもらえませんか?さすがに裸ですと目のやり場に困ります」
「そう言えば、人族は普段から服を着るのでしたね。弱い皮膚を守るためと聞きますが…ハルの言うことですから従います。人のエレン、宝物から何か持ってきてくれる?」
グリューンのそんな呼びかけに、若龍が頭を下げてから答える。
『わかりました、お母様』
あの若龍、名前はエレンというのか…。女性っぽい名前だが…いうことは、あの龍は娘さんなのかな?
すぐにエレンが1枚の布切れを持ってきた。って言うかホントに布切れだ。ぎりぎり肝心な部分だけ隠すようで…肌の露出が多すぎる。
何と言うかアラビアンテイストな踊り子の衣装と言えばいいだろうか?上半身は形状はスポーツブラのようなもので、へそは出ている。下半身は腰までスリットの入ったスカート。中は生足だ。
「ハル、これでよろしいですか?」
「あーはい。まぁ…いいのでしょうか?」
「それでは改めて、この姿ならついて行ってよろしいでしょうか?ハル、ご一考願えませんか?」
主を前にしたかのように、私の前で頭を垂れ、ひざまずくグリューン。相当に畏まってしまっているのだが、先の戦いで力を示しすぎてしまったか。
4人の恋人たちにも白い目で見られたことだし、これは要反省である。
「わかりました。いいでしょう。アザレアにトドメをさせるかどうかの保証はできませんが、ついてくる分にはかまいません」
「つまり…グリューン…5番目」
私の回答にグリューンではなく、いつのまにか隣に立っていたフィニが、えへんと平らな胸を張って主張した。
(5番目…)
ちなみにシイカは旅の合間に、いつのまにか私のベッドに潜り込むようになっていて、4番目になっている。
シイカも最初は「
ということで、そのシイカに次ぐ5番目ということを言っているのだろうが…。
「フィニでしたね。私は確かに夫とは離婚していますが、子持ちですよ。ハルに失礼でしょう?」
「ハル様…節操ない…大丈夫」
親指を上げて、私にウインクをするフィニ。恋人の方から恋人を増やすこと推奨されるとは…これはどういうことなのか。
「わかりました。私は、敗北を喫した身。それに強い雄に抱かれたいというのも龍の本能です。ハルの5番目として奉仕しましょう」
「そんなあっさりと…決めることですか?私の女になるということですよ?」
さすがに敗北にかこつけて抱くという、私の価値観ではかなり乱暴とも思える行動に否定的に回答をしたのだが…。
グリューンの反応は私が思っていたものと違うものだった。
「やはり…私のような敗北者で…子持ちの雌では…お気に召しませんよね…」
絞り出すようにそう言うと、形の良い唇を噛み、あからさまに肩を落としてしまった。妖艶な美女が肩を落とすというのも、何とも罪深く感じるのだが…恋人の前で情に負ける訳にも…。
「ハル様…女…恥かかせる…ダメ」
「ハルさん、ダメですよ!」
「ハルにぃ、ひどいよ!」
「師匠、あんまりです!」
あれ?なんか空気がおかしい…。しっかり断ることで、今いる恋人たちに、こう毅然とした態度を示したいと思っていたのに…。
「え?この流れ、私が悪くなるのですか?」
「…勇気振り絞った雌…抱く…強い男の義務」
えー。何か異世界の倫理感…怖い。
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