第69話

権能ドミニオン並列詠唱パラレルキャスト四重奏カルテット

「第2門、9門混交真階位オリジン分離思考マルチタスク


権能ドミニオンと魔法を同時展開する。


1枠は分離思考マルチタスクの維持に使い、3枠を魔法の準備に使う。


私は母龍に肉薄しつつ、両手で剣を抜き放ち、魔力を巡らせた。


あまりに真正面からの直心的な移動に、母龍は嘲りの笑みを浮かべた。さっきからそうだが、龍の顔は柔らかいらしい。人間からみても、はっきりわかるくらい表情を出すものなのだからな。


『バカ正直に正面からくるとは…愚か者めっ!』

真階位オリジン雷撃武器サンダーウェポン


母龍の咆哮を無視して、俺は並列詠唱パラレルキャストで空いた3枠のうち1つで詠唱した魔法を発動。魔力を巡らせた両手の武器に、さらに電撃を纏わせる。


この魔法、よく見るテレビゲームの雷属性の攻撃とかそんな生優しいものではない。当たれば落雷数発に匹敵する雷撃も同時に打ち込まれるため、人に使えば黒焦げダルマ。文字通り『必殺』となる。


使い切りではあるが。


正面から迫る私に向かって、母龍は、大きく口を開けてきた。口の奥には、ちらちらと揺らめく赤い炎が見える。


開幕、初手からの火炎吐息ファイアブレス。日本の古き良きファンタジー作品のレッドドラゴン、王道のパターンではある。


『灰になれ!』

真階位オリジン加速アクセラレーション


2つ目の魔法を発動。


このスピードで直進すればこの炎をまともに受けるだろえが、その直前、私は次の魔法を展開。その瞬間、自分以外の全ての動きが遅くなる。


龍の牙だらけの口から溢れ出る炎は、まるでスローモーションのようであり、熱が伝達する速度すら遅く感じる。


間三髪くらいの余裕を持って、龍との一気に距離を詰める。炎を背後に見ながら、喉付近に展開されている魔法らしきものの式に接近する。


「これが火炎吐息ファイアブレスの魔法式ですか…うーん。これはかなり雑な式ですねぇ」


龍自体の魔力の濃さに頼っているだけの、程度の低い術式だ。並の魔法使いが使えば、火炎球を1つ発生させただけで、息切れしてしまうだろう。


「ちょいと魔法回路を乱して、消して差し上げましょう…魔法打ち消しディゲートマジック


これは魔法ではない。その前段階、魔力操作の技術の応用だ。門を通す最中の魔力を横取りして、必要魔力に足りなくすることで、魔法を不発にする。


そこで加速アクセラレーションの魔法が切れたため、時間の流れがもとに戻る。


『なっ…!』


龍からすれば、突然私の速度が捉えきれないくらい速くなったかと思えば、口から溢れる火が消えたのだ。


「第1門・2階位・遮光ブラインド


3つ目の魔法を発動してから、左のユピテルを思いっきり喉に突き立てて、横に切り裂く。そして追うように右手の大脇差を突き入れる。


もちろんここまで来て容赦するつもりなどない。


斬撃と同時にカッ、という爆音が響き、眩いほどの雷撃が切り開いた首元に炸裂する。この魔法、異様に眩しいのが難点なんだよな、これ。お陰でこの遮光ブラインドを掛けておかないと、目を開けていられなくなる。


『あがっぁっ!?』


ブシャア、という音ともに龍の傷口から血が溢れでる。雷撃で焼いたので、傷口の割には出血が少なめだが、私の体格からすればちょうどいい。


溢れ出る血は、予想通り酷く魔力が濃厚なので、余さずいただくことにする。大量出血させては実にもったいないくらいだ。


シャワーのように湧き出る血を浴びて、私の魔力濃度が急速に高まっていくのを感じる。


所詮は、人の大きさの切り口。龍の体格からすれば針を刺したようなものか。


痛みの衝撃から早くも立ち直ったのか、大きな爪だらけの手を横薙ぎに振り払ってきた。が、私がそんなわかりやすいテレフォンパンチを受けるわけもなく。


振る勢いを利用して、避けざまに手首を切り落とした。あまりにも雑すぎる攻撃だ。


これなら武器の扱いを心得ていて、戦術も立てていたオークブレイブの方がまだ強かったな。


『に、人間がぁ!!!』


切り落とした手首もいただき吸収すると、あっという間に中級精霊の上限にまで達してしまった。


「こんなもんですかね?まだ続けるますか?」

『ふざけるな!龍を甘く見るな!死の間際まで噛みついてやるぞ!!』

「なら貴女の子供も死ぬけどよろしいのですね?」

『!?』


私の言葉に、母龍の手がピタリと止まった。


「私は恋人たちに嫌われたくないので、できればここらへんでやめたいんですけどねぇ」

『だが、息子の敵を前に…』

「だから知らないと言ってます。この世界に人間がどれだけいると思っているのですか?この国だけで50〜100万人はいるんですよ」

『なんだと…』


事前に調べた話だと龍は酷く数が少ない。その感覚だと、少なくとも私は子龍を殺したものの関係者くらいではあると思われていたのかもしれない。


「全く見知らぬ人間の責任を問われても困りますね…まぁ、貴女は良い魔力を持っているので、私の希望としてはんですけどねぇ」

『では…私は…一体…』

「人の話を聞かずに、敵でも何でもない相手を攻撃して自分の子供の命を危険にさらした愚か者と言ったところですかね?」

『ぐっ…』


そこまで言うと私の服の裾を引っ張る感触がした。振り返るとその嫌われたくない恋人の1人、フィニだった。


見れば、もう若龍レッサードラゴンを、恐らくリジーが使ったのだろう魔法の障壁の中に閉じ込めて無力化していた。


「ハル様…言い過ぎ…」

「ほら。貴女が愚かだから、愛する恋人に怒られてしまいましたよ、もう良いですよね…」


成龍から殺気は霧散してきた。若龍をこっちが殺す気がなかったことが伝わったのも大きいだろう。


私も剣を鞘に収めて、戦う意志がないことを示す。


『あ、ああ。すまなかった…子供は怪我すら負わせず無力化したのか…私は…本当に無関係の人間を襲ってしまったみたいだな…』

「そういうことです。どうやら、やっと話を聞いてくれそうな感じになりましたね」

『わかった…話し合いに応じる…』


成龍が頭を垂れて、降参の意思を示してきたので、私も若龍を解放するように3人に目配せをした。


『お、お母さんっ…』

『ご、ごめんなさい…私の勘違いで貴女を…』

『大丈夫…この人たちすごく強いのに…手加減してくれたから…』


フィニたちは本当に連携がすごいな。若龍レッサードラゴンがすでに相手にならない…つまり4人でアザレアといい勝負ができるクラスになっているということだ。


現況の戦力なら、ポピーの農場ファームに逃げ込んだりもできるわけで、恐らく、アザレアと近衛騎士団まるまるくらいなら手玉に取れるだろう。


もちろんアザレアと私のタイマンなら、すでに圧勝という域まで来ている。


「もう一押しですね…私が上級精霊に、フィニとリジーが中級精霊になれれば、国を相手取れます」




※不定期更新します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る