第69話
「
「第2門、9門混交
1枠は
私は母龍に肉薄しつつ、両手で剣を抜き放ち、魔力を巡らせた。
あまりに真正面からの直心的な移動に、母龍は嘲りの笑みを浮かべた。さっきからそうだが、龍の顔は柔らかいらしい。人間からみても、はっきりわかるくらい表情を出すものなのだからな。
『バカ正直に正面からくるとは…愚か者めっ!』
「
母龍の咆哮を無視して、俺は
この魔法、よく見るテレビゲームの雷属性の攻撃とかそんな生優しいものではない。当たれば落雷数発に匹敵する雷撃も同時に打ち込まれるため、人に使えば黒焦げダルマ。文字通り『必殺』となる。
使い切りではあるが。
正面から迫る私に向かって、母龍は、大きく口を開けてきた。口の奥には、ちらちらと揺らめく赤い炎が見える。
開幕、初手からの
『灰になれ!』
「
2つ目の魔法を発動。
このスピードで直進すればこの炎をまともに受けるだろえが、その直前、私は次の魔法を展開。その瞬間、自分以外の全ての動きが遅くなる。
龍の牙だらけの口から溢れ出る炎は、まるでスローモーションのようであり、熱が伝達する速度すら遅く感じる。
間三髪くらいの余裕を持って、龍との一気に距離を詰める。炎を背後に見ながら、喉付近に展開されている魔法らしきものの式に接近する。
「これが
龍自体の魔力の濃さに頼っているだけの、程度の低い術式だ。並の魔法使いが使えば、火炎球を1つ発生させただけで、息切れしてしまうだろう。
「ちょいと魔法回路を乱して、消して差し上げましょう…
これは魔法ではない。その前段階、魔力操作の技術の応用だ。門を通す最中の魔力を横取りして、必要魔力に足りなくすることで、魔法を不発にする。
そこで
『なっ…!』
龍からすれば、突然私の速度が捉えきれないくらい速くなったかと思えば、口から溢れる火が消えたのだ。
「第1門・2階位・
3つ目の魔法を発動してから、左のユピテルを思いっきり喉に突き立てて、横に切り裂く。そして追うように右手の大脇差を突き入れる。
もちろんここまで来て容赦するつもりなどない。
斬撃と同時にカッ、という爆音が響き、眩いほどの雷撃が切り開いた首元に炸裂する。この魔法、異様に眩しいのが難点なんだよな、これ。お陰でこの
『あがっぁっ!?』
ブシャア、という音ともに龍の傷口から血が溢れでる。雷撃で焼いたので、傷口の割には出血が少なめだが、私の体格からすればちょうどいい。
溢れ出る血は、予想通り酷く魔力が濃厚なので、余さずいただくことにする。大量出血させては実にもったいないくらいだ。
シャワーのように湧き出る血を浴びて、私の魔力濃度が急速に高まっていくのを感じる。
所詮は、人の大きさの切り口。龍の体格からすれば針を刺したようなものか。
痛みの衝撃から早くも立ち直ったのか、大きな爪だらけの手を横薙ぎに振り払ってきた。が、私がそんなわかりやすいテレフォンパンチを受けるわけもなく。
振る勢いを利用して、避けざまに手首を切り落とした。あまりにも雑すぎる攻撃だ。
これなら武器の扱いを心得ていて、戦術も立てていたオークブレイブの方がまだ強かったな。
『に、人間がぁ!!!』
切り落とした手首もいただき吸収すると、あっという間に中級精霊の上限にまで達してしまった。
「こんなもんですかね?まだ続けるますか?」
『ふざけるな!龍を甘く見るな!死の間際まで噛みついてやるぞ!!』
「なら貴女の子供も死ぬけどよろしいのですね?」
『!?』
私の言葉に、母龍の手がピタリと止まった。
「私は恋人たちに嫌われたくないので、できればここらへんでやめたいんですけどねぇ」
『だが、息子の敵を前に…』
「だから知らないと言ってます。この世界に人間がどれだけいると思っているのですか?この国だけで50〜100万人はいるんですよ」
『なんだと…』
事前に調べた話だと龍は酷く数が少ない。その感覚だと、少なくとも私は子龍を殺したものの関係者くらいではあると思われていたのかもしれない。
「全く見知らぬ人間の責任を問われても困りますね…まぁ、貴女は良い魔力を持っているので、私の希望としては貴女が戦闘をやめてくれずに止むなく殺してしまいたいんですけどねぇ」
『では…私は…一体…』
「人の話を聞かずに、敵でも何でもない相手を攻撃して自分の子供の命を危険にさらした愚か者と言ったところですかね?」
『ぐっ…』
そこまで言うと私の服の裾を引っ張る感触がした。振り返るとその嫌われたくない恋人の1人、フィニだった。
見れば、もう
「ハル様…言い過ぎ…」
「ほら。貴女が愚かだから、愛する恋人に怒られてしまいましたよ、もう良いですよね…」
成龍から殺気は霧散してきた。若龍をこっちが殺す気がなかったことが伝わったのも大きいだろう。
私も剣を鞘に収めて、戦う意志がないことを示す。
『あ、ああ。すまなかった…子供は怪我すら負わせず無力化したのか…私は…本当に無関係の人間を襲ってしまったみたいだな…』
「そういうことです。どうやら、やっと話を聞いてくれそうな感じになりましたね」
『わかった…話し合いに応じる…』
成龍が頭を垂れて、降参の意思を示してきたので、私も若龍を解放するように3人に目配せをした。
『お、お母さんっ…』
『ご、ごめんなさい…私の勘違いで貴女を…』
『大丈夫…この人たちすごく強いのに…手加減してくれたから…』
フィニたちは本当に連携がすごいな。
現況の戦力なら、ポピーの
もちろんアザレアと私のタイマンなら、すでに圧勝という域まで来ている。
「もう一押しですね…私が上級精霊に、フィニとリジーが中級精霊になれれば、国を相手取れます」
※不定期更新します。
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