第68話

気配の濃い方へとたどりながら、さらに15分ほど坑道を進んだ。


さすがにここまで近づくとはっきりわかる。


ドラゴンは2体いるようだ。片方が成龍グレートドラゴンで、もう片方が若龍レッサードラゴンなのは間違いない。


フィニは、つくづくあの距離からよく、気がつけたもんだな。


そして……先方もこちらの気配に気がついているようだ。警戒と、警告。近づけば殺す、と言わんばかりの殺気を漂わせている…いや、明らかにこちらに向けて放ってきている。


「師匠、かなり強めに殺気を放っていますけど、これ話し合い通じますかね?」

「どうでしょうね。こればっかりは話し合いに応じないなら、糧となってもらうだけですから…」


一応、人が先に鉱山を掘って、龍は廃坑となったそこに後から住みついてる。どっちがと言えば向こうが侵入者の立場ではあるので、襲ってきたのにまで情けをかけるつもりはない。


何より、成龍グレートドラゴンともなれば、その魔力を頂戴することで、恐らく私は高位精霊にまで登ることができる。


若龍レッサードラゴンは、私の糧にはならないがフィニとリジーにとっては十分な糧になる。彼女たちも中位精霊にまで上がることができるだろう。


「師匠…悪い顔になってますよ」

「ふむ。良い糧になりそうだったためつい…。私も別に魔法のために倫理を捨てたマッドサイエンティストではありませんから、話し合いが可能ならできる限りそうしますよ?」


普段の言動が、魔法狂いみたいだからか、あまり信用されていないようだ。


殺気の元へ辿るように近づいていく。龍側はさらに殺気を強めたようだが、私たちはそれを無視する。


そうこうする内に、坑道の視界が一気に開け、ポピーの農場がいくつも入りそうな広間に出た。


広間の奥には、天井に頭がつきそうなほど巨体を持つ龍と、それより2周り小柄の、地球に居た象ほどの大きさの龍の2体が佇んでいた。


鱗は炎のように赤いので、この世界ではレッドドラゴンと言われる種類になる。


赤い見た目の通り、火炎操作・創造魔法を得意としている…はずだ。身体から放たれる圧倒的な魔力が第6門に集まっているのが、ありありと見て取れることかも確実だろう。


2頭?は、これまで放たれていた殺気からもわかるように明らかに警戒態勢だった。いつでもこちらに飛びかかれると言わんばかりの姿勢で、眼光も鋭く睨みつけてきていた。


あの肉体から想像できる、射程は恐らくあと3歩。そこまで踏み込めば、龍は容赦なく飛びかかってくるだろう。


「これ以上近づくと攻撃されますね。仕方ありません。この距離から声をかけますか…」


すぅ、と息を吸ってから、部屋の向こうにいる龍にも届くように、声を振り絞る


「対話する気はありますかー?私はあなたが持っている剣が一本欲しいだけですー。対価として金貨を支払いまーす!」


私の声かけに、龍は面食らったらしい。構えは解かなかったが、目が泳ぎ方、明らかに動揺した雰囲気が伝わってくる。


龍って意外と表情が豊かなのな。


『な!?な、何を言っているのですか!?』


すると、若い女性の声が前方から聞こえてきて、今度は私が面食らった。


「今の声…もしかして、龍の声ですか?」

『そうです。人の子。それより一体どういうつもりですか?私の息子を殺した人間が話し合いなど…』

「息子を殺した…?それは一体…?」


この世界で龍に合うのは初めてだ。そして私が憑依する前のクリスハルに龍が倒せるわけもない。


『そうです!私の息子は、人間に殺されましたのです!だから、人間が話し合いなど言い出しても信じられる訳ありませんっ!!』

「待て待ってください…私は貴方の息子など知りませんよ?何より、産まれて初めて龍を見たのですから、人違いかと思いますよ?」

『うるさいっ!問答無用だっ!!!』


母龍は、咆哮と共にそう叫んだ。


成龍グレータードラゴンの息子…ということは若龍レッサードラゴンだろうか?最近、退治された若龍レッサードラゴンと言えば…。


「なるほど…どうやら、誤解があるようですが良いでしょう。残った子供の命すら危険にさらしたいのでしたら、かかっていなさい」

『調子に乗るな、人間ごときがっ!』


怒りをありありと目に浮かべて、親子ともども再び戦闘態勢となった龍に、私は…笑顔が浮かぶのを抑えられなかった。


「素晴らしい魔力です。話し合いは決裂ということで、貴女の全てを、私の糧にさせていただくことにします。お覚悟を…」

「……ハル様……ものすごく…悪い顔…」


フィニが若干、呆れたような声…感情が出にくいはずのフィニですら呆れるとわかるくらい…でボソリと言った。


話し合いを蹴ったのはあちら側なのだから、非はないはず…。と、後ろを振り向くと、みな一様に、呆れた顔になっていた。


「師匠…ちょっと引きます…」

「あ。いえ、そのクリスさん、あのぉ…」

「ハルにぃ…ないわ…」


女性陣にはとことん不評らしい。でも、仕方ないではないか。魔力的には格上相手に、力試しが出来るっていう点でも、嬉しかったのも事実だからな。


「おほん」


咳払いをして誤魔化すことにする。いずれにしても向こうはやる気なのだから選択肢はないだろう。


「リジー、フィニ、シイカの3人はあちらの若龍レッサードラゴンを抑えていてください。ただし殺しはせず、傷も出来る限りさせないようにしてください」

「……若龍レッサードラゴン…この3人…余裕」


フィニは、また表情を引っ込めると、龍を向いてそう言い切る。フィニは調子に乗ったりはせずに、一番冷静に分析できるタイプだ。


そのフィニが余裕というなら、確かなのだろう。


「巻かせましたよ。特に火炎吐息には気をつけてください。あの魔力量だと直撃したらひとたまりもないですから」

「……うん」






※今月もギフトを頂きまして恐縮です。不定期ですがこちらも更新していきますので、よろしくお願いします。

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