第67話

「じゃあ。お別れだな」


いくつかの武具を譲り受けた私たちは、ここでヒーロたち3人と別れることにした。


「ええ。有意義な時間でした。お酒作りが上手くいくことを祈ってます」

「ありがとうな。ハルもグリーンドラゴン退治、頑張ってくれよ。ま、マリィが太鼓判を押すなら大丈夫だとは思うけどな」


マリィさんとは、先程、軽く1試合だけ相手をしてもらった。武器だけを使った戦いだけだと、私がやや不利。魔法を使えば有利、というくらいのかなりの強者だった。


もともとマリィさんだけで、レッサードラゴンは仕留める予定だったらしい。だからだろう、試合後には「この腕前ならレッサードラゴンは楽勝だと思います」とマリィさんに言われたのだ。


で、別れに際して、ヒーロにはさらに1つお願いをした。やや彼に様々なことを頼りすぎな気もしたのだが、通り道ということで快諾してくれた。


「公爵領に行ってこの手紙を渡せば良いんだな?」

「はい。門前払いされたら、それっきりで構いません。義理は果たしたことになりますから」


それはヒーロの道行きにある、公爵領のバンラックに宛てた手紙だ。


反乱が起きる可能性があること。そして私がアザレア王女に復讐をすること。だから、責任が及ばないように私を公爵家から追放処分にすること。


そんなことが書かれている。


「任せておけよ」

「よろしくお願いします」

「レッサードラゴンを倒せるならあの高慢稚気な王女なんて一捻りだろうがね、成功を祈ってるよ」


そう言って、手を振る。マリィさんとアリスの2人も合わせてお辞儀をしながら、ヒーロたちは鉱山の外へ続く道を戻っていった。


「さて、私たちは目的が少し変わってしまいましたが、鉱山の奥にいるレッサードラゴンのところを目指しましょう」

「……マリィ…地図…くれた」

「いつの間に…いえ、助かります」


ヒーロと情報交換をしている間に、フィニはフィニで向こうと情報交換をしていたようだ。実に頼りになる恋人である。


「では、フィニ、引き続き案内をお願いしますね」

「……うん」


☆☆☆☆☆☆


フィニを先導に暗い道を進むこと、1時間。坑道の奥から、濃厚な魔力が漂ってくるのを感じた。


「これは…龍の魔力ですね…」

「あの、龍の女の子…アリスちゃんが漂わせていた魔力と同質ですね…濃さでは大分劣りますけど…いえ、でも…この濃さで、本当にレッサードラゴンなんですか?」

「流石に、シイカは気づきましたか…」

「それは、仮にも元神ですよ?神とそうでないものの区別なんて出来ます」


振り返ってフィニとリジーを見ると、やはりコクリと頷いた。


「フィニとリジーはわかりましたか?」

「……うん…最近…濃さ…わかる…」

「私も見分けられる様になってきましたぁ〜」


魔力を感知できる2人も、どうやらそこら辺見分けられるように成長している。


「2人が成長しているようでなりよりです。これは間違いなく若龍レッサードラゴンじゃあ、ないですね」

「……成龍グレートドラゴン…」

「正解だと思います」


神力を放つ神龍エンシェントドラゴンクラスだったのアリスに比べれば二段は見劣りする。が、間もなく高位精霊に上がるくらいの魔力は持っている。


「むう。ボクだけ何もわからないよ」


唯一、魔力を感知する能力を持たないポピーは、仲間外れと感じたのか、頬膨らませた。どうやり蚊帳の外にされて少し拗ねているらしい。


そんなポピーの呟きをフィニは流して、前方から目を離さないまま、話を続ける。


「………ハル様…」

「どうしました?」

「………反応…変……」

「変?ですか?」


フィニ指摘を受けて、坑道の先から漂ってくる魔力を探ってみる。その魔力は、中位精霊級であり、私やシイカと同レベルの濃さなのはわかる。


想定よりもかなり強い、ということを除けば特に変ということもなさそうだが…。


「変とは…?どんな感じですか?」

「……ん……反応…2つ?」

「2つ?」


2つ?フィニの言葉にもう1度探ってみる。すると確かにとても似ているが、わずかに違う波長の魔力があるのがわかった。


「これは、2人?2匹?いますね。もう一体は確実に若龍レッサードラゴンですね。もしかして親子なのでしょうか?フィニ、よく気づきましたね」

「……フィニは斥候…これ…仕事」


フィニの成長は目を見張るものがある。勘も飲み込みも早い。もし地球にいたら、数年修業を積むだけで、五本指には入る魔法使いになっていただろう。


「しかし親子ですか…」

「……ハル様…」


何かを訴えるような顔をするフィニ。人からすると彼ら?彼女ら?の不法占拠だが、龍の視線からすると家に入り込んだ侵入者とも言える。


どうやら、フィニは、その龍の親子を殺すことに躊躇いがあるようだ。さっき、アリスたちと話したせいだろうか?


「そうですね。いくら坑道を勝手に占拠する魔物とは言え、殺してしまうのは少し心が痛みますねぇ。ここの領主からすると敵でしょうが、私にとっては特に恨みがある相手でもありません」

「……話し合い…」

「ええ。交渉で済むなら、そうしましょうか?」


私の提案にフィニはコクリと頷いてから、私にしかわからないくらい僅かだが、満足げな表情をした。





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