第66話

ヒーロから大脇差のほかには、黒檀鋼で作った武器のストックあることを聞いた。これらもヒーロが同じく趣味で作ったらしく、死蔵しているらしい。


「良ろしければ、この黒檀鋼で作られた戦鎚、大盾、短剣を売ってくれませんか?」

「それは構わないんだけど…黒檀鋼製よりも強い武器はたくさんあるだろう?どうして、黒檀鋼に拘るんだ?」


その言葉に、ヒーロのみならず、フィニやリジーたちまで興味深げにこちらに乗り出してきた。


「あ…そういえば何故という話、フィニたちにもしてませんでしたね…」

「……ハル様…使う…よく切れる…」


つまり、私が使ったときだけ特別なのではないか、と言いたいのだろう。


「なるほど。それでフィニたちの武器まで揃えようとしたから、わからなくなったんですね」

「……うん」


もちろん、それは違っていて、私に限らず、魔力を通せば、私でなくても同じことはできる。


魔法使いの素養があるフィニやリジーなら、同じ様に使いこなすことが出来るだろう。


「フィニ、リジー、その戦鎚と短剣をお借りして持ってみなさい…ヒーロさんお借りしても?」

「あー。好きにしてくれ。どうせ死蔵していたものだからな」


フィニに短剣、リジーに戦鎚を渡す。


「魔力操作をして、自分の魔力を、武器の中に満遍なく魔力が行き渡るように流して、最後は自分に戻す…これを絶え間なく続けるようにしてみてくれませんか?」


2人は武器を受け取ると、特に私の指摘には疑問を抱かずに、魔力を流す。魔力視してみたが、流し方に特に問題はない。


「それで良いですよ。戦っている最中も常にその常態を保つようにして下さい…最初は少し慣れが必要だとは思いますが…」

「これで…こんな簡単なことで、ハルさんと同じ様に武器が強くなるんですかぁ?」


リジーが戦鎚に魔力を流しながら、聞いてきた。


「恐らくですが、私よりは強化の度合いが低いと思います」

「それは…もしかして魔力操作がハルさんの方が上手だからですかぁ?」

「いいえ。2人の魔力操作は全く問題のないレベルに達してますよ」

「それでは何でですかぁ?」


2人の技術に関しては、まったく問題はない。このレベルに達したのは努力なのか、何なのかはわからないが、あと問題なのは…


「魔力の質と素材の相性の問題ですね。私は精霊化したときに雷の精霊になっています。そのため金属は通りがいいんですよ」

「……フィニは…?」

「そうですね…ちょっと失礼しますよ」


フィニの頭に手を当てて魔力を探ると…


「フィニは風の精霊みたいですね。風の精霊は繊維と相性がいいです。繊維を使う武器というと鞭とか弓ですね」

「……この短剣…?」

「金属はあまり相性が良くありません、ですが使えない訳ではありませんよ」

「……うん」

 

フィニは少し落ち込んだようだが、その様子を見たヒーロがポン、と手を叩いた。


「なんだよ、鞭の方がいいのか?それならそれで、良いのがあるぞ?ちょっと待ってろ?」

「え?」


ヒーロは事務所の奥にあった扉の中に消えると、数分ほどしてから、一本の、白い鞭を持ってきた。


「ほれ。これこれ…カイザーモスの糸で編んだ特製の鞭だ。重さを出すために黒檀鋼を芯に編み込んでいるぞ」

「それは…願ったりですがいいのですか?」

「ああ。いや浪漫で作ったが、使ってくれる人がいると嬉しいわ。それより、嬢ちゃんは鞭を使えるのか?」


鞭は、当てれば攻撃になるような刃物とは違う。攻撃として使うにはそれなりの訓練を必要とする。ともすれば魔力の通りが悪くても、短剣の方が良いかもしれない。


「……大丈夫…わかる」


だがフィニは使い方を知っているらしい。この娘、私から振られたことは、何でも器用にこなしてないか?天恵がない、それだけのことであり、それ以外はどれだけ多才なんだろう…。


「私はっ!?私はどうですかぁ!?」

「待ってください…リジーはですね…地の精霊ですね。地の精霊は鉱物と相性が良いので金属で問題ありません」

「良かったぁ〜」

「ただ1番通りがいいのは、宝石類なので、武器のどこかに宝石類を埋め込むとさらに相性がよくなりますよ」

「ほ、ホントですか!?」

「ええ。いつかそういう武器を作りましょう…それより2人とも、武器の性能を試してみて下さい」


武器の使い心地を試すために、いったん事務所から外に出た。洞窟内には岩がごろごろ転がっているため、手頃な大きさを岩を指さしてフィニに声を掛ける。


「フィニ、あの岩で試してみましょう。魔力を循環させたまま、鞭を振るってください」

「……うん」


フィニが鞭を振ると、まるで手応えがないかのようにあっさり振り抜けた。直後、岩はバターのように縦に2つに裂けた。


「……すごく…扱いやすい…」

「こりゃあ、死蔵させとくよりも、嬢ちゃんに上げるしかねぇな!ハル、これは俺から嬢ちゃんにプレゼントさせてもらうぜ?いいよな?」


興奮気味に迫りながらそう言うヒーロに、私は少し引きながら、同意を示す。


「……ありがたいのですが…よろしいのですか?」

「地球から異世界に来た先輩としての奢りだ。俺は金に少しも困ってねぇからな。デカいことやろうとしているんだろ?手助けさせてくれや」


ヒーロの言うデカいこととは、もちろん私が王女に復讐しようとしている件だろう。


「ハッ!俺も、ここの王女様はちょっと腹が立っていてね…」

「何かあったのですか?」

「ああ。俺は召喚勇者だろ?だからさ、荷馬車ギルドを通じて、王城にも呼ばれたんだが…俺をハズレ呼ばわりするのはともかくなぁ」


ちらり、と後ろに立っている金髪の少女に目をやってから、またこちらに視線を戻す。


アリスについて、武術系天恵じゃないからと、さんざん嫌味を言われたのは、かなりムカッ腹に来てたんだ。特にあの王女は嫌味が止まらなくて腹立つったらあらゃしねぇよ」


アザレアは選民主義の最たるものだ。武術系天恵持ちでないだけで、ひどく見下してくるのは、想像の内だ。


「そちらの娘さんは…私は見てわかります。大地に関する天恵のようですが…実力はかなりのものでしょ?いや、かなりどころか、私ではひっくり返っても勝てないですね」


その言葉に私の連れ4人が、ギョッとした顔になった。そして、まじまじと見たシイカだけは、あの少女の強さに気づいたようだ。


(し、師匠!なんですかあの娘!?何だか知りませんが神力放ってますよ!?)

(亜神だな、ありゃ。様々な文献に書かれたことから推測するからに、かなり高位の…龍…だと思う)


その当の少女はというと、私が素直に勝てないと告白したことに少し驚いた顔をしてから、淡く笑みを浮かべた。ヒーロはアリスの頭を撫でると、私の方を感心した様に見てきた。


「ハルは、アリスの実力が見抜けるんだな。この国のお偉いさんは、武術系天恵でない、というだけで気にも留めなかったんだがな」

「はは…そんな亜神クラスの力、わからない方がおかしいですよ」


この国はやはり馬鹿だ。アリスの力が見抜けないなんてマヌケが過ぎる。あの国の騎士なんて、あの少女にはどうひっくり返っても勝てるわけがない。アリと象が喧嘩するようなものだ。


「ま、そんな訳もあるし、天恵の扱いなんかを見ても、この国はかなり異常だからな。もし、ハルが王家ぶちのめすとかって考えてるなら喜んで協力するぜ?」

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