第57話

「ポピー、どうかしましたか?」

「あーハルにぃ」


レシオを〆て、そして、シイカが仲間として加わってから2日経った。


それまでの旅はとても順調ではあったが、残念ながら今日は、昼過ぎから雨が降ってきた。そのため、移動は止めて、全員がポピーの農場ファームの中に逗まっていた。


明日は早めに移動を始めよう、と話したからか、ほかの3人はサッサと寝てしまった。


ただ、農場ファームは、外と時間が連動しているため、今だに明るい。昼過ぎくらいの明かりの中ポピーだけは、農場内にある畑の横で、ジッとしゃがんでいた。


「何を見ていたのですか?」

「うーん。何かさーフィニとかリジーを見ててさぁボクってばさぁ、この天恵を全然、使いこなせていないなぁとつくづく思わされてさぁ…」


畝だけでがキレイに並び、土がむき出しの畑を見てポピーがボヤく。


緑色の髪の隙間から生える頭の花が萎れて、少し元気がないようにも見えた。花女族アルラウネとは、何とも感情がわかりすい種族のようだ。


「天恵は、得たときに、使い方がすぐにわかると聞いていますが…」

「天恵の使い方は、ね。でも、この畑の、畑としての使い方はわからないんだよね。天恵で出来た畑だけど、畑としては極、普通のものだから…」

「ああ。天恵ではなく、単純に農作業の知識、ということになるからですか…」

「そうそう!何でボクの天恵が農場なんだか、今だにわからないんだよねぇ…」


得られる天恵は、血筋や本人が求める仕事などに影響を受けるらしい。ところがポピーは、天恵に関係するようなものに興味がないそうだ。


「1つ、考えられるとすると花女族アルラウネという、地に近い種族だから、ということはありそうですが…」

「んー。でもボク以外の花女族アルラウネには植物使いプランターの天恵はたくさんいても、農家ファーマーの天恵持ちすら聞いたことないんだよね」


植物使いプランターは、植物創造・操作系統の魔法に近い魔術を使える天恵だ。蔦で相手を縛ったり、はしごのように使ったり、鞭のようにしならせて叩いたり出来る。


逆にそれくらいしか出来ない。創造に関することは出来ないため、蔦を伸ばす植物の種を持ち歩く必要もある。


ただ、花女族アルラウネは、頭に咲いている植物から種を取ることもできるため、そのあたりは不便しないらしい。


「うーん。すでになんですけど、ここ農場としては使っていませんよね」

「ボクは農業の知識がないからね。何回か挑戦したけど、手間がかかる割には、あまり上手く出来なくてさー…」


正直な話、1ヘクタール程度の農地では、生業とするほどの作物は取れない。この広さで儲けを考えるのならば、かなり単価の高いものを育てる必要があるだろう。


「ここの中の季節は、外と同じ様に変わるのでしたっけ?」

「うん。一応ね。今は面倒だから外と陽の出入りを揃えていて、だから季節も同じ様に変わるよ」

「では、もしかして自由に変えることはできる?」

「変えようとすれば、ね。陽を出す時間を変えれば良いからね。ほかにも陽の高さもいる地域に勝手に合わせているだけで、変えることはできるよ。あと、雨を降らせることもできるかな」

「そこまで変えられるのですか?」

「うん」


なるほど。季節は日照時間、緯度による寒暖差は陽の角度で決まる。それが変えられるのならば、天恵を活かした商売などはいくらでも思いつく。


「でしたら、農場として儲けることも出来るでしょうし、それ以外の利用方法で利益を上げる方法もいくらでも思いつきますね」

「ええ!?どんな方法か教えてよ!」

「もちろん、構いませんよ」


私は第2門で精神操作系統が開花したので、空間操作が使えない。つまり私には同じ様なことが出来ないのだ。ならばケチるようなことしても仕方ないだろう。


「農場として儲けるならば、農地としては小さいこの大きさの土地でも儲けられる、単価の高い商品を売る必要があります」

「単価の高い商品?」

「例えば、その土地のあたりでは採れない果物とかどうでしょう?日照時間や、陽の角度を弄れるならば、中を全然違う地域、違う季節の気候にもできますからね」

「それは出来ると思うけど、なんで果物なの?果物は値段が高くなるの?」

「野菜や穀物に比べると、果物は日持ちしませんからね。近隣で採れないとなれば、食べること自体出来ませんから、値段も上がります」

「そっかー。商売の基本だよね〜」


果物は気候条件や設備などの難易度が高い分、単価が高い。次に野菜が高い。逆に日本における米などは、農業の方法が確立しており、かなり固い収入となるが、高収益にはならない。


米でベースとなる収益を確保して、野菜や果物でさらなる増益を目指す、というスタイルの農家は多いと聞く。


「農場として使わないならば、荷馬車カーゴギルドの冷蔵輸送を請け負う、というのが手間はかからないと思いますよ」


荷馬車カーゴギルドは、世界全体の様々な流通を請け負っている組織だ。荷物を運ぶのに便利な天恵持ちや、荷馬車を持つ行商人などが所属している。


その中でも保温性の高い機能を持つ馬車持ちなどが行う『冷蔵輸送』は、馬車の維持が大変なため、かなりの高額であり、特別な薬や王侯貴族が遠くのものを取り寄せたりなどに使われる。


「冷蔵輸送って…確かに、あれはならば、普通の輸送の30〜50倍くらい値段がするれどさぁ…」

「そうです。冷蔵輸送はかなり高額の上に、量も少ない。ですから、ポピーの農場の広さで冷蔵輸送が出来ればかなりの金額を稼げるはずです。氷を買う必要もないので、必要経費も抑えられるはずです」

「そうだけど!そうだけどさ。そんなことどうやってやるの?」

「それは簡単ですよ。1日中、中を夜にしてみなさい。数日で凍るような気候になりますよ」

「そんなことで!?」


陽の光で照らしていても、気温が一定以上に上がらない、ということは宇宙への放熱がある、ということだ。


そして、日照時間が外と同じで、外と同じ季節になるなら、放熱もほかの地表と同じレベルということになる。


もし、地球から太陽が消えたら2ヶ月ほどで凍りつくという。つまり、陽を出す時間を調節すれば、冷凍室を作ることなど造作もない。


「ええ。あとは居住区画だけを断熱すれば、問題ありません。居住区画を除いても、かなりの広さの冷蔵設備になるはずです。冷蔵輸送で使う馬車、数十台分にはなるでしょう」

「そうだよね。農地としては狭いけど、馬車の中と比較したら、全然広いもんね!そんなことを思いつくなんて、すごいや、ハルにぃは!」


私の提案をすぐに理解できたのか、ポピーの顔は感心と歓喜で満面の笑みになっていた。

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