第56話

新たなメンバーとしてシイカが加わった。


女4人、男は私1人と端から見るには、まるでハーレムのようなチームになっている。が、華やかな雰囲気に反して、実態というのは中々に面倒なものである。


(ハーレムですか…。恋人なのは、フィニとリジーの2人であったとしても、接し方のバランスをどうするのか、考えるだけで頭が痛くなります)


考えようによっては、ひどく呑気なことに頭を悩ませながら、5人パーティーは目的地のハコベ村に向かって進んでいく。


各人、思い思いの雑談をしながら、ただ旅人によって踏み固められただけの、小石が転がる粗い道を歩いているが、特にトラブルは発生していない。


シイカとの出会いから、一晩。順調に進んでいるため、フィニの予想では、このペースで進めば、予定よりもさらに早くハコベ村に着くそうだ。


前方に警戒をしつつも、他愛もない会話をするフィニとリジーを見ながらふと、地球のことを思い出した。


(多くの妻や恋人を抱えている人も確かにいましたけれども、彼らは一体、どういう思考をしているのでしょうね…。面倒の方が多そうですが、私には今ひとつ理解できかねます)


そんな考え事をしながら、砂利道に歩を進めていたら、シイカが、いつの間にか横に立っていた。シイカは、こちらを見ながら、ニヤニヤと何とも嫌らしい笑みを浮かべている。


「ハル・クリスさん、女の子、しかも美少女にばかり囲まれてウハウハじゃないですか?」


神の癖に、そんな、まるで『人』のようなことを私に言いたかったのか…。私を殺した、まるで俗物のような天使といい、この目の前にいるシイカといい、神々というのは、人間と特段変わりない精神性を持ち合わせているらしい。


「シイカさん、馬鹿なことを言っちゃあいけませんよ。複数の女性に囲まれるのは正直なところ、ひどく気を使います」

「えー。私の父さんなんか、奥さんが30人もいるのに、いっつもノーテンキにしましたけどねぇ」

「はぁ〜流石は主神ともなってくると、神経が太いんですねぇ…私なら胃が痛くなりそうです」

「主神かどうかは関係ないと思います。だって父さんは、人間のころから、奥さんが7人か8人だかはいたはずですよ。まぁ、神様になって、また増えたみたいですけど…」


うーん。前言撤回。やっぱりちょっと、変わった精神性を持ち合わせているのかもしれない。


「そんなに多くの妻を抱えて、よく人間関係なんかの問題が発生しませんでしたね…貴方の父親が特殊だったのですか?」

「あー。そのー。私の父さん、実は絶世の美男子と言われていて…勝手に寄ってくるというか…むしろトラブルだらけというか…いえいえ、そんなことはどうでも良いんです!」


1人ノリツッコミをするシイカ。いや、そっちからその話題を振ってきたんだろうと内心でさらにツッコでおいた。


「はぁ…」

「あの子たち…いえ、フィニさん、そしてリジーさん、精霊になってますよね?あれ、どういうことですか!?」

「え?ええ。毎晩抱いていたらいつの間にかなっていました。かなり興味深い現象ですよね。理屈はわからないので、再現性はないのですが…抱いていることが関係しているとは思っています」


フィニに2日遅れて、リジーの身体も精霊になっていた。フィニとリジーに共通する要素、そしてフィニとのズレから見て、私が抱いたことが関係しているのは間違いないだろう、と私は踏んでいる。


だが理屈はわからない。何故が解き明かせれば、魔法学における革新とも言える。私が精霊になるときは、ひどく苦労したのだから。


「そんなことだけで精霊になるわけありませんよ」

「え?そうなんですか?てっきり、魔力を注ぎ続けた結果だと思っていました」

「それでしたら、神の恋人はみんな精霊になっちゃいますよ!そんなこと出来ませんから!」


あれ?だとしたら、何で2人揃って精霊になったんだろう?確かに、考えてみれば、前世でたくさんの女を抱いたが、その女が精霊になったことは1度たりとてなかった。


(それは単に連続して注いでいない、一回限りだったということが原因とばかり思っていましたが…)


実際に、魔道具などを作るためには、連続して魔力を注ぐ必要がある。対象が生き物か道具かという違いはあるが、その性質に関してはひどく似たものである。


何せ魔道具の魔力を吸えば、精霊として成長できるのだから、その近似性は説明するまでもない。


「待ってください…魔道具は注ぐだけではなく、使用に合わせて、注いだ魔力を操作して、コントロールしますよね……………………もしかして……その…………フィニ、リジー………?」

「「?」」


突然、声をかけられて、2人は話の流れを掴んでいないのだろう、揃って首を傾げた。


「もしかして、なのですが…2人とも、私が、夜抱いて、注いだ魔力…ますか?」


その問いかけに2人は顔を赤くしつつも、揃って首を縦に振ることで首肯した。


「………ハル様…魔力…全身…感じる…当たり前」

「あ、そのっ……わ、私もフィニの真似したら気持ち良かったのでぇ~毎回やってました〜」


その方法なら確かに魔道具と同じだ。精霊になれる理屈に関してもより通っていると言える。


「そんな簡単な方法で精霊になれるとは盲点でしたよ。冷静に考えれば理屈が通ってはいるのですが…前世ではあれだけ苦労したのに…」


前世では全身を魔道具に置き換えることで精霊化したのだ。まずは腕から、馴染んだら脚、という風に少しづつ進めた。


魔道具と魔力が馴染めば、構成が純魔力になり、道具ではなく自然と生身と似たものに変化もするので見た目も全く問題ない。


だが、内臓を置き換えるときは、めちゃくちゃ大変だった。魔法で動く自動人形ゴーレムを作成してから…手術をさせる…とんでもなく手間とリスクがかかっていたのだ。


「ふぅ。まぁ、これも魔法における技術革新の一歩と思い…諦めることにしましょう」

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