第55話
シイカから渡された「季節の実」によって私の頭に権能が刻まれた。それと同時に、刻み込む際の莫大な神力の僅かな余りが、体内に流れ込んでくるのを感じた。
(これは…とんでもない密度ですね…中位精霊は下位精霊の10倍あり、上位は中位の10倍。亜神になった際の濃度はさらに上位の100倍になりますが…)
それよりも、さらに密度が高い。だから、残り滓のような極々僅かな神力でも、今の私にとってはとんでもないご馳走と言える。
通常なら、流れ出ておしまいとなってしまうだろう魔力だが、私はもちろんそんな愚は犯さない。
(触れただけで焼き尽くされそうな、とんでもない密度の神力ですが、完璧に制御して体内に取り込んでみせましょう)
とは言え、先ほどの権能の調整に比べれば、可愛いものだ。ほどなく取り込みに成功する。
「おおおお!?これは!?」
僅かと言えども圧倒的な濃度を誇る神力。肉体は中級精霊、それも上位精霊に近いところまで一気に上がった。
「ふぅむ。中級精霊に上がったタイミングで新しく門が開きましたね…これは第2門ですか」
第2門は、全10門の中でも最強との呼び声が高い強力な魔法が使えるようになる。
扱えるのは、空間操作か精神操作のどちらかになるがどちらもケタ外れの性能だ。
空間操作は地球のときに私が使えた系統だ。『亜空間』を作り出すほか、空間を切り裂き、空間を圧縮し、空間を固定して、攻撃・移動・防御をこなせる。
ただ空間操作魔法は、細かい制御が非常に難しく、暴れ馬でもある。一歩、制御を間違えれば自爆技にもなるため、使用には慎重を期す。
そして、精神操作魔法は言うまでもない、そのままの魔法だ。人の感情、記憶を操り、探れる。脳という膨大な情報を処理する都合上、触れてしか使えない魔法が多い、時間もかかるという制約の多い魔法ばかりという弱点も抱える。
しかし、ほかの系統ではフォローできない特殊な魔法が使える上、応用範囲もかなり広い。戦闘に使うのは難しいが、それ以外の大半をカバーできると言っても良いだろう。
「さて、どちらの系統が使えるようになったのでしょうね?私としては、以前使えなかった精神操作が好みなんですけどね」
以前使えた、空間操作の魔法を試してみるが、発動しなかった。ならばと、これまで使ったことのない次は精神操作系統を試してみることにする。
この系統で簡単な魔法というと…。
「
周囲に対して、自分を何となく気になる存在にする魔法だ。精神操作系統の時間がかかる、接触していないと使えない、という制約を受けない代わりに効果も薄い。平常時でも思わず目を遣ってしまう程度の効果であり、戦闘中など興奮していたり、何かに集中していたりすると効かないこともある。
魔法と同時に、フィニ、リジー、ポピー、シイカが一斉にちらりと、こちらを見てきた。
どうやら魔法が成功したらしい。
「第2門、精神操作系統ですか。ふむ。ますますこの身体を手放したくなくなりましたね」
「……ハル様…今の魔法?」
「ええ。思わずこちらを見てしまう魔法です。まぁ戦っている最中や、別のことに集中しているときなどはほとんど効果ありませんけどね」
精神操作系統が使えるようならば、やはり肉体操作系統のように、前から試したいと考えていた魔法がいくつもある。
特に、ある魔法ならば、たった今刻まれた権能の使い勝手を上げることができるのだ。
「戦闘を有利にするため、精神操作系統と肉体操作系統の混交魔法として考案していた魔法がありましてね…」
魔法を使いながらの近接戦闘は難しい。魔法の使用にはかなりの繊細な操作が必要だ。咄嗟に、となるとかなり使い慣れている数種類の魔法が精々だ。
それも後ろからある程度の集中力を以て使う魔法に比べるとどうしても精度が甘い魔法になる。
これは、その難点を解消するための魔法だ。
「
魔法を使うと不思議な浮遊感があった。自身の身体をなんとなく上から見たような感じになり、身体が思った通り以上に動く。
流石は中位精霊。すでにいま開いたばかりの第2門で
また身体を複雑に動かしながらも、思考の方はきちんと冴えていて、身体の動きと関係ないことを考えることもできるようになっている。
「ふふふ。成功ですね!精神操作系統も肉体操作系統も使えなかったので飽くまで机上の空論だったのですが…論理は間違えていなかったようです」
肉体を動かす思考とは別に、頭の中で考えごとが出来る、というものだ。もともと人間はある程度慣れた動作と簡単な思考ならば可能なことだ。
しかし、戦闘という素早い動きと、魔法という複雑な思考となると、なかなかに難しくなる。
それを進めて、肉体を動かすために使う反射的な脳の部分と、それ以外のじっくり考えるための脳の部分を別々に運用することを可能にする魔法だ。
精神操作系統の思考加速と、肉体操作系統の身体操作を組み合わせて、調節している。
「……ハル様…新魔法?」
「そうです!フィニ!すごい魔法です」
くてん、と首を傾げたフィニが相変わらすのテンションで問いかけてくる。一方、理論通りに魔法が行使できたことに、テンションが上がりっぱなしの私は、笑みを堪えきれず、少し変な調子でフィニに応えてしまう。
「……どんな魔法?……教えて」
「身体を戦闘させながらも、思考では全く別のことを考えていられる魔法です。くうう。精神操作系統は素晴らしい!」
「……それ…どこがすごい?」
「ふふふ。フィニ。これを使えば、接近戦をしながら、
「……寝ながら!?…すごい…さすが…ハル様」
「ふふふふふ…ありがとうございますフィニ。いやー、可能性が広がり過ぎて実に楽しいです。やっぱり魔法は最高ですよねぇ…あーはっはははは!」
あまりにも笑いが止まらない私に、4人の女性たちは結構引き気味になっていた。
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