第54話

転生させたあのアーティファクトの神力。


そして、シイカの頭部に刻まれている回路。


これらが権能ドミニオンというのならば、その正体はおおよそわかってしまった。


これは要するに天恵と同じ仕組みだ。いや、むしろ逆なのかもしれない。天恵は、神々の権能ドミニオンを参考に作られたのかもしれない。


「なるほど。だから神ごとに領域を決めて、最適化しているのですね」


権能ドミニオンで、魔力を門へ通すことはしていない。転生前のシイカを見るにそもそも神には基本的には門が全て閉じている。


代わりに、神力を使った回路で、擬似的に門のような効果を再現してる。いや、これも逆か。神の能力を縮小再現したのが門なのだろう。


恐らく領域を決めることで、端っから最適化を施しやすくしている。さらに、大気の魔力と異なり、神は魔力濃度を上げることができる。


魔力濃度を上げることで同じ回路でも権能ドミニオンは、能力を増していくことができるのだろう。


(…ですが、魔力が自動操作されれれば、制御が難しくなるのは間違いないですね。これでは天恵と同じで神々は魔法を使えないでしょう…いや、待ってください…)


「自分の体内の魔力を使うのなら、使用範囲を常に限定することで、魔法を使う領域の魔力を乱されず済むのでしょうか?」


今後は、その限定した範囲の魔力を、隔離空間として扱い、ないものとして計算すれば、魔法の操作を乱されないのではないか?


難易度はもちろん高いが、できないことはない。


(大気の魔力を使う天恵だと、濃度にばらつきがあります。そうなると、吸い取る範囲もバラバラで計算なんて出来ないでしょう。しかし、体内の魔力を使うなら、同じ濃度ですからねぇ…範囲を区切るのも容易です)


そんな考え事をしていたら、シイカが怪訝な顔をして覗き込んできた。


「もしかして、ハル・クリスさん、魔法を駆使して権能ドミニオンを再現しようとしてませんか?」

「…バレましたか」

「顔に出ています。でも権能は、回路の焼き付けが主神クラスの神力でないと無理なので、流石に出来ませんよ」


そっちか。技術的に理解をできていても、物理的な『工作機器』に無理があるのか。


「あ、でも、もし権能が必要でしたら授けると父さんから権能を預かっていますよ」

「権能を?」

「魔法神の権能ドミニオン並列詠唱パラレルキャストです」


並列詠唱パラレルキャスト…ねぇ。


シイカが懐に手を入れただけで、服を超えて、焼き付かせようとしている回路だけが浮き出て見えてくるほど高い神力がある。恐らく、そこに、私に権能を与えられる道具か、何かがあるのだろう。


そして、その浮き出てきた回路を見だだけで、私に与えようとしている権能がどんなものかはよくわかった。


魔力の波長などの調整などに限って、並列思考が出来るようになる、というものようだ。


(かなり複雑な操作が必要ですが、少し練習をすれば、4重詠唱クワッドキャストくらいならできそうです)


並列詠唱パラレルキャスト権能ドミニオンを使いながらさらに詠唱をする必要がある。そのため、慣れるまでに、それなりに練習には時間がかかるだろう。しかし、出来ないことはない。


何故なら、すでに魔法だけで再現しようとして、断念した技術なので、おおよそのやり方は把握しているし、練習もしている。


諦めたのも、技術的なものではなく、右手と左手に別々のものを持って、さらに別のものを持とうとするような感覚だったので、手が足りなかったのだ。


だが権能ドミニオンによって、本来手動ですべき作業を、自動的にこなすことができれば、可能になってくる。要するに、手が一本増えるようなものだからだ。


「なるほど、それは是非とも欲しいです。そのシ=ダンさんの好意に甘えて、権能ドミニオン、ぜひ、いただきましょう」

「わかりました。では、この樹の実を食べてくだい」


そう言ってシイカが差し出してきたのは、炎のような光を放つほど赤い、まるでりんごのような樹の実だった。


先程よりも、さらに強く神力を放っている。


「これは父さんが権能や、それに劣る各世界における天恵のようなものを与えるときに渡す『季節の実』というものです」

「これは…木の実の形をしているということは、齧ればいいのですか?」

「はい。バクっと言っちゃってください」


真っ赤な木の実をシイカから受け取る。手に持つ前からわかっていたが、手にするとさらにとんでもなく膨大な神力が流れ込んでくるのを感じた。


(馬鹿げた神力ですね…主神のシ=ダンとやらは、このありえないほどの神力を制御しているという訳ですか…いやいや、それよりちゃんと権能の使用魔力の範囲を区切らないと…それに効率化もまだまだできる余地がありそうですしね)


一口齧ると、そこらから流れ込んでくる圧倒的な神力が、頭の中に先ほどの回路を刻もうとするのがわかった。


膨大過ぎる神力に思わず圧倒されて流されそうになったが、途中で使用魔力の範囲について、回路を足すのは忘れていない。


暴れ狂うと表現しても差し支えない神力の流れだったが、魔力の延長にある神力の制御を間違えるはずもなかった。


「ハル・クリスさん…貴方、今、権能ドミニオンの書き込みに干渉しましたね」

「はは…シイカさんは何でもお見通しですねぇ」

「無茶苦茶しますね…失敗したら、頭が吹き飛びますよ?」


あれほどの力の奔流ならば、もし失敗すればそうなるだろう。頭が吹き飛ぶどころか、大陸が吹き飛んでもおかしくないほどの神力だった。


だが魔法神としては、魔力の制御で遅れをとる訳にもいかないのだ。


介入に成功して、権能の起動すると…なるほど思っていた通りに、かつ自動的に魔法詠唱の脳内の領域が複数展開されるのがわかった。


「これは…かなり便利ですね…ぜひ、シ=ダン神にはよろしくお伝え下さい」

「わかりました」

「ところで、なのですが、シイカさんがお持ちなのはどんな権能なのですか?」

「私の権能は春の芽吹きの王フォレストロードです。春に実をつける植物の創造・操作・超強化、ですね。もし、何らかの方法で私の天恵を調べられることになったら、全く同じ名前で、天恵名となるはずです」


さらりとシイカが放った一言に、私は先程の推測が当たっていることを確信する。


「やはり、そうなりますか。天恵は、権能を模して作られたものなんですね」

「………ハル・クリスさん…貴方、一体これだけの情報からどこまで…。いえ、流石は魔法神、と言っておきます」






☆☆☆☆☆以下、余談です☆☆☆☆☆


植物の神シ=ダンの旅路については、弊作の『餓死から始まる異世界グルメ旅』をご覧ください。

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