第62話
精神操作系統魔法と雷操作系統魔法を組み合わせることで、こちらを意識しない思考をバラ撒く。
(第9門、第2門混交魔法、
この魔法を使えば、周りが私を認識しなくなる。できなくなるわけではなく、石ころとかと同じで気を払わなくなるだけだ。
移動系統魔法の
ともかく、気配を察知されないように、不埒な話をしている男たちに忍び寄った。魔法への対策などしていない彼らの隣の席に座ると、第1門で聴覚を強化して、話を盗み聞きする。
ここまでしても、男たちは私に全く気がついていない。ただの村人、つまり素人なのだから、仕方がないのか…。
「でも、魔素材ギルドの傭兵だろ?あの男も細身だけど、結構強いんしゃないのか?」
「ハッ!?だが、そうやって偉そうにしていた門番たちはどうなった!?」
ざわざわ、と煩い酒場の喧騒に、男たちの声は紛れた。男たちに浮かぶのは暗い、喜びの顔。
(これは、まずいですねぇ)
これまで武術系天恵持ちから、散々虐げられた立場だった。それが、一気に逆転するような変化は、中毒性すら持ち合わせている。
「そうだったな…あのクソ野郎をボコボコにするのは気持ちよかったなぁ…まだあそこに閉じ込めたママだからな…あとでまた殴りに行くか?」
「それもいいな!これまで恐れていたが、その必要はないとわかったんだ!武術系天恵を恐れるな!男はぶっ殺して、女は犯してやれ!」
「そうだ!そうだ!」
そして、彼らは立場が変わる、中毒性に一瞬にして侵されてしまったようだ。恐らく、これまで彼らを虐げてきた武術系天恵持ちと変わらない野獣へと精神は劇的に変貌してしまったのだろう
(こういうのが出ることは予想していましたが…それを私の連れに向けられても困りますねぇ)
まぁ、しかしフィニ、リジー、シイカがこの連中に負けるとは思えない。戦う力がないポピーであっても逃げるのは、簡単だろう。
だから、警戒をしておくようにさえ伝えれば、それだけで問題はない。
とは言え、こういうのがいるとわかっていて放置するのも気分が悪い。
このままこいつらをボコボコにしてもいいのだけれど、彼らはまだ何もしていないし、特に復讐対象でもない。それに、私が天恵についての情報を以前訪れた村で伝えなければ、彼らはこのようなケダモノにはならなかったのだ。
となれば、妥協できるラインとして、感情の方向性を操ってやる、くらいにしておく。
(既に持ってる性欲の方向性をズラして、強くするだけだから、そんなに難しくないでしょう)
性欲の対象は…そうだな…アザレアにしよう。あれなら国民誰でも知ってるから、当然、目の前の男も知っているだろう。
現在持ってる欲を増幅して、アザレアに対して、衝動的に、強烈に、欲を抱くようにする。それも、かなり暴力的に、だ。
(待ってください…これだけでは、あまり面白くないですねぇ)
今、使用を考えていた魔法を中断。さらなる改造を重ねて、新しい魔法を生み出すことにする。
(特定の感情に反応するようにしましょう…そうですね…目の前の男たちから、
特定の脳波に反応して、自分の脳波と合うように調律をするように設定する。つまり、簡単に言うと感情を感染させる魔法だ。
(そうそう。先日、権能を弄りましたからね…。ポピーの農場に設置した光源もうまくいきましたし、天恵の作り方は、おおよそ把握しました)
だが、鉄の板に刻むのと、人の脳に刻むのではリスクも違うので、慎重にする必要がある。
(人間に対して恒久的にするのはリスクがあるのでしませんが、数ヶ月程度の『天恵擬き』の魔法式を魔力で刻み込むなら問題ないでしょう)
周囲の魔力を天恵のように使い、自動的に周りの脳波を調律する。今回設定した『暗い情欲』を持つ人間に効果を発揮して、ほぼ同じ感情になるように次々と感染させる魔法の完成だ。
名付けて…
「第2門、第9門、
光のリングが一番近くの男の頭を囲うと、キュッと締まり、そして消えた。すると、男は突然、口から涎を垂らしながら立ち上がった。
「アザレア王女…犯してぇ…くヒヒヒッ!イッパツやりてぇ!倒してぇ!剥いてやりてぇぞお!!!」
目は血走り、明らかに理性を感じない。そして、その様子を見た周りの男たちは、一拍置いてから同じ様な表情をして立ち上がった。
「王女さまぁ!絶対に!!俺が!」
「アザレア様を押し倒してぇよぉぉぉ!!」
「いますぐっ!いますぐ王都に行きますぅ!!」
あ…ちょっとばかり加減を間違えて、性欲の強化やり過ぎたかもしれない。うむ。魔法神だって失敗はある。
(打ち消しの魔法は、逆位相の電波を出す魔法を組み立てて…あーと、その前に書き込みの消去からですねよね…っと…ああっ!)
しかし、打ち消しの魔法を組み立てている間に、興奮した村人たちは、立ち上がった勢いのまま酒場から走り出ていった。
「あ…っと…まぁ、その……あー……」
空っぽになった隣テーブルを見て、つい、少し呆けてしまう。
(私としたことが、失敗魔法をそのままでいいのでしょうか。いや、構築自体は失敗ではないから、設定のミスでしかないですよね…)
などと思考が空転する間に、彼らは完全に視界から消えてしまった。これから全員を探すのは少々面倒そうだ。
「ま、良いでしょう…ええ。効果はどうせ1月程度でしょうからね、ええ」
そう、自分に言い聞かせた。
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