第35話

「さて、魔法についておさらいをしましょう」


オークブレイブとの戦いの後、リジーからの告白を受けて、それを受け入れたので、フィニと並んで恋人となった。


その後の野営地で、リジーは天恵を破壊してでも私たちと同じ魔法を使いたいと言ってきた。そこで、私は、フィニとリジー相手に魔法の基本的な知識から教えることにした。


「魔法は魔力を、身体にある門を通すことで、エネルギー変換して、魔法として成立させます。大気の魔力はわかるようになりましたか?」


並ぶ2人に問いかける、きれいにタイミングを合わせたかの様に、頭を縦へ振った。


「は、はいぃ。魔力って、あの暖かい感じのですよねぇ?大気に魔力があることを教えてもらってからは認識できるようになりましたぁ」

「…いい匂い…」


どうにも、魔力の感じ方はフィニもリジーも違っている。地球では魔力触や魔力嗅はなかった。いろいろあるのは、種族の違いだろうか?


こっちで言うところの人族ヒューマン以外の種族、例えばフィニのような犬女族コボルトや、リジーのような蛇女族ラミアは、当然、地球にはいないからな。


「どのように感じても構いません。とにかく存在を感知できることが第1です。次に感知した魔力を操作します」

「操作ですかぁ?」

「ええ。操作は、知覚さえ出来れば、そんなに難しいことではありません。感じた存在に向かって、頭の中で動かそう、と思ってみてください」

「そんな、簡単なことでいいんですかぁ?むむむむむむぅ〜」


リジーのすぐ近くにある、私から見ると、キラキラとした砂粒のような何かが、明らかに漂うのではなく、意志を持った動きをする。


「リジー、出来たみたいですね」

「はいぃ。動くのを感じましたぁ」

「次は、ほかにも空間にあるそれらを、同じ様に動かして1箇所に集めます…これはさっきよりも難しいですよ」


キラキラを動かすのは簡単だ。そして2つ、3つとやって集めることはできるが、ほかのキラキラを動かしている間に、集めたはずのキラキラは勝手に動いてしまう。


「う、集めるの難しいですねぇ」

「そうですね。1つ1つを動かそうとすると、時間も掛かって、上手く集められません」

「ハルさん、どうすれば良いんですかぁ?」


1つ1つ動かさないなら、一気に動かせばいい。


「湖の端に滝があったら、水は凡て引き寄せられてそちらへ集まります。それをイメージして、自分の集めたいところが滝の下だと思ってみてください」

「た、滝ですか…うむむむむぅ」


バラ、バラ、と動いていた魔力が、リジーの前に吸い寄せられる様に集まってきた。


「集まってきた魔力は押して固める、というイメージを持ってみてください」

「押して…固めるぅ」

「おおお!リジー、上手です!魔力が上手く塊になってますね…固めれば、バラバラにはなりません。次からはその塊を動かしていきましょう」


ここまでの作業は魔法ではなく、魔力操作としか言わない。魔法とは、魔力を操作して、門に通す作業のことを指す。


武器に魔力を通すのは、魔力操作であり、魔法未満のひどく簡単な作業である。


「塊を門に通すことで、魔法は成立します。通す際のリズム、全体として通す量、通す時間など、様々な調整を経ることで、各魔法へと分岐します」


門ごとに、第1階位から8階位、そしてそれを越えたフルカスタムの真階位オリジン魔法がある。各階位には2〜30の魔法があり、それが8階位10門。


階位魔法は、約2000種類あると言われている。


それらの階位魔法は、魔法ごとに、門に合わせた調整する項目が決められている。言わば、セミカスタム、と言った感じだ。


天恵は完全にカスタムなしだ。


恐らく様々な門の癖の最小公倍数で出来ている。たまたまそれが合って高い能力を発揮できる人物もいるかもしれないが、稀だろう。


こうした調整で、出力は、同程度の魔力を使った階位魔法の良くて3分の1、酷いと10分の1だろう。カスタムの果てに、自分の門のための完璧な最適化をした真階位オリジン魔法と比べたら100分の1も出ないはずである。


だが、効率を無視するためか、かなり魔力をバカ食いしていて、結果として、そこまで弱くはない程度にはなっている。


バンラックの天恵ですら、8階位か、真階位オリジンクラスの魔力を操っていた。


アザレアに至っては、普通に使う真階位オリジン魔法ですら滅多に取り扱わないほどの、馬鹿げた魔力量だった。効率の悪さを魔力のバカ食いで補っているということだ。


もちろん、かつて私が使えた魔力の中でも強力な魔法から比べたら、実にささやかな量ではある。


例えば、第4門のオリジン魔法死者の蘇生リザレクションは、魔力ではなく、神力でなくては使えない。


神力は、いま私の体内にある魔力から比べたとしても、密度が1万倍は違う。大気の魔力から見ればさらにその差は開く。つまり、どれだけささやかなものかわかると思う。


「では、まずはリジーに第3門の魔法を使ってもらいましょう」

「は、はいぃ〜」


魔法を覚える近道は1つ。自分が魔法を使う感覚を実際に体感することである。


「リジー、ご自分の胸のあたりに、魔力が通りやすくなっている場所があるのがわかりますか?」

「はいぃ。わかりますぅ」

「最初は私がリジーの門を使って、魔法を行使します。その感覚を覚えてくださいね。では、ちょっと失礼しますよ」


大きく膨らんだ、リジーの胸と胸と谷間に、人差し指と中指の二本を挿し込む。


「ふえっ!?」

「すみません、教えるのに必要なので」


驚くリジーに謝りながらも、指をさらに奥まで押し込み、皮膚の上から肋骨に触る。二本の指が、ぷにぷにとした山脈で遭難して行方不明になった。


…普通ならばセクハラだが、魔法を教えるために必要だし、そこは恋人となったので許して欲しい。


「ひあっ…う…あうぅ…」

「えーと、リジー、魔力が通りやすそうなのは、このあたりですか?」


顔を真っ赤にしながら、変な声を上げているリジーをスルー。余計なことは考えず、魔法の指導に集中して、触った肋骨のあたりを指先で軽く撫でた。


「ひゃうん!?そそそそ、その、もう少し下でぇ」

「では、このあたりですか?」

「あン…そ、そ、そこですっ、そこですぅ〜」


嬌声が、さらに艶っぽくなっきている気もするのだが無視。とにかく無視して、魔力を通すための準備を続ける。


「では、ここに向かって魔力を流してください」

「は、はひぃ!」


最初だから、ゆっくりと魔力を流して、詠唱もきちんと覚えてもらえるようにする。


「要件定義、効果は即時、全身の筋力5倍、筋肉の体積維持、筋肉の強度5倍、骨強度5倍、骨体積維持、全身の質量維持」


魔法は効果について、きちんと要件を詰める必要がある。魔力に意思はないので、唱えた通りにしかならないからだ。


そして魔力は流れやすい方に流れる。より簡単に実現する方向に叶えてしまう。


今回の魔法で言うと、質量維持を定義しないと、密度を上げて要件を実現するため、5倍の体重になるだろう。


「第3門第1階位低位筋力強化マイナーストレングス

「わわわわっ」


効果時間を決めてないのは意図的だ。


完全に要件を固めると、使用する魔力量が固定になる。ところが最適化がされていない詠唱で、それを行ったとき、効率が悪くて、決められた効果時間維持するために必要な魔力に足りなかったとする。


するとどうなるか。


「魔法の定義の際に、効果時間は決めないように。時間を維持するのに魔力が足りなければ生命力を取られます。魔力が過剰なら暴走します」

「うっ!わかりましたぁ」

「ところで効果はありましたか?」


そう問うと、リジーは身体を軽く動かしてから、驚きを浮かべた。


「ものすごっく、絶好調ですよぉ!何ですかこの強化はぁ!?えぇ?これで1階位って、一番弱い魔法なんですよねぇ!?」

「はい。そうなります」

「なるほどぉ〜。天恵がなくても強いと言う、ハルさんの強さの秘密が、よくわかりましたよぉ」





※※※※※以下、連絡事項です※※※※※



いつも読んで頂きましてありがとうございます


☆、いいね、レビュー、など是非とも頂けると幸いです。日々の執筆の励みになります。


また、先日、ギフトをいただきました。その節はまことにありがとうございます。この場をもってお礼申し上げます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る