第28話

村人からはひどく歓迎され、晩ごはんも豪勢に振る舞われた。3人は豪華なごちそうに舌鼓をうち、満腹のまま、夕飯はお開きになった。


充てがわれた空き家にあるベットに寝っ転がり、今日を振り返る。


今日は、あまり緊張した闘いはなかった。ふと、魔法の鍛錬も足りていなかったことを思い出し、ベットから起き上がる。1人空き家から出て、鍛錬行うことにした。


(ふむ。前の身体の癖が出てしまいますね…)


特に第9門は、元々かなり使いこなしていたこともあって、自然と前の身体の癖が出てしまう。だが、この身体の第9門と、前の身体のものは違う。


だから咄嗟で効率の良い発動が出来るように、慣れておく必要があるだろう。


「先日は咄嗟に魔法を使いましたが、砂鉄が地面に含まれていてよかったです」


詳しく調べれば、地球との違いがたくさん見つかることだろう。しかし電磁石も使えたということは、やはり物理法則に関しては地球とほとんど同じと言える。


(岩盤以下の組成なんかも地球と似ているのでしょうか…そうですね)


砂鉄を集めて、さらに大量に電気を通すと、電気抵抗に依って高温になっていく。


やがて、砂鉄が色を変え、溶けてきたところで操作をして細い棒状になるように固める。


最後に地面に置き、手持ちの水筒から水を掛ける。焼けた鉄の熱に反応して、ジュ、と掛けた水が蒸発する音がした。


爪楊枝ほどの細い棒だが、これを紐で括り付けてから、再び電磁石にするように電気を流す。


すると鉄の棒はくるくる回って、しばらくすると止まった。電磁石を一旦切って、から同じことをすると、やはりくるくる回ってから先ほどと同じ方向を示す。


(地磁気はあるみたいですね。地磁気の原因は岩盤以下の組成が関係していると聞きましたが、そのあたりも地球と同じなのですかね…)


地磁気は宇宙から降り注ぐものから、地上を守る効果もある。むしろ逆で、地磁気があることが生命が育まれる要因なのかもしれない。


(いずれにしても、方位を確認する手段としては使えそうですね…)


そんなことをぼんやり考えていたら、誰かが近づいてくる気配を察知した。


だが、引き摺るような足音?からして、すぐにリジーのものだとわかる。


「クリスハルさん、起きていたんですねぇ?」

「リジーさん、ですか…」

「はいぃ。今日はお疲れ様でしたぁ。もしかして、鍛錬をしていましたかぁ?」

「ええ、はい。鍛錬は、毎日、ある程度しないと落ち着いて寝れませんのでね」


声をかけてきたリジーは、やはり眠れなかったのだろうか。どことなく、ソワソワしているようにも見える。


「何度か戦っているところを見ましたが、クリスハルさんは本当にお強いですよねぇ。それなのに鍛錬も欠かさないというのは、素晴らしいですぅ」

「ありがとうございます」

「天恵は大事ですが、本人の鍛錬も、天恵を使いこなすための練習も、やはり必要だと思いますぅ」


私のは天恵ではないので、使い勝手などの事情は違うだろう。


しかし、ほとんど自動的に発動する天恵と言えども鍛錬は必要のはずだ。いつ使うか、使おうと思ったら発現までどの程度かかるのか、など慣れておくべきことはたくさんある。


ましてや武器術などは、魔力の動きから見ても、天恵のサポートだけでは補いきれないのは明らかだ。本人の技術の積み重ねが必要になってくるだろう。


「そうですね。戦いで使うためには、天恵に慣れておく必要がありますからね」

「はいぃ。その通りだと思いますぅ」


そういうリジーは、機嫌がいいのだろうか、表情は穏やかだ。蛇部分の尾も、まるでフィニの尻尾のようにゆらゆらと揺れていた。


「せっかくですから、リジーさん、少しお話しても良いですか?」

「お話、ですかぁ?」

「ええ」


しばらくは、同じチームを組むのだ。彼女のことや背景を無理のない範囲で、知っておいて損はないだろう。


「そうですね…まずは貴女の種族である蛇女ラミアについて、教えてもらえますか?知り合いには貴女以外いませんから…」

蛇女ラミアについて、ですかぁ?」

「ええ。もちろん無理にと、言っている訳ではありません。話せる範囲で大丈夫です」


この世界の習慣は知らないため、もしかして蛇女ラミアは、自身の種族について聞かれたくない、とかあるかもしれない。


一応、そんな感じで予防線を張っておく。


「特に隠すようなこともありませんし、構いませんよぉ。蛇女ラミアは…ですね、基本的に山奥に住み、魔物を狩ることを生業とすることが多い種族ですぅ」

「山奥ですか。だから、リジーさん以外、街では蛇女ラミアを見かけないんですね」

「はいぃ。そして魔物を狩ることが多いからか、価値観としても強さに重きを置いていますぅ。もうこれは本能みたいものですから、私も強さに憧れがありますぅ」


そういうリジーは、少しだけ、ほんの少しだけ、自嘲気味な表情をする。


「私の天恵、盾騎士は弱くはありません〜。でも自分で倒すことがとても難しい天恵ですぅ。強さ、という点では『狩ること』以上に、わかりやすいものはありませんからぁ…」

「なるほど…盾騎士の役割としては理解している。でもやはり『狩ること』そのものに栄誉や憧れを感じることは避けられない、そんなところですね」

「はいぃ。そうですぅ。里のみんなも、別に私を悪く言うことはありませんでしたぁ。でもやっぱり魔物を狩れないことから、どこか気後れしていたんですぅ」


これは難しい問題だな。


それにしても蛇女ラミアというのは、優秀な種族なのだろうな。本能的に『狩ること』を重視していながらも、狩りに於ける役割を理解して、割り振れるのだから。


「そこに座りましょうか?」

「あ、はいぃ〜」


私がそう言って、近くの大きな切り株に腰掛ける。追いかけるように、リジーもすぐ近くに腰を掛けてきた。


横から見ると、鼻筋も通っていて、目も少し垂れ目気味だが、クリクリと大きい。それが、小さい丸顔にバランス良く収まっていて、正直、かなりの美人ではある。


アーモンド型のツリ目をして、逆玉子型の輪郭なフィニとは何とも対照的ではある。


「それで私は里を出て、魔素材ギルドの傭兵として働くことにしましたぁ。それがこの前のチームですぅ」

「ああ。ということは、リジーさんは、まだ山から出てきたばかりだったんですね」

「そうなりますぅ」


出会ったときに、何となく自信がなさそうだったのは、故郷での気持ちを引きずって居たんだろうな。


「それで、どうですか?山から降りて、少しは気後れがなくなりましたか?」

「そうですねぇ。今日、来る途中、クリスハルさんが褒めてくれたじゃないですかぁ?」

「あれは、褒めたのではなく素直な感想ですよ?」

「素直な感想ならば、尚更ですよぉ!オークナイトを撃破するほど、強い男の人にあんな風に評価をしてもらえるとぉ…そのぉ……」


さて、ここまで言われれば、リジーが言いたいことは、何となく察することは出来る。


が、無理に答えを言わせることもないだろう。リジーを促さず、焦らせもせず、彼女のペースで言葉を紡ぐのをゆっくりと待つ。


蛇女ラミアは、男がいない種族ですぅ。必ず他種族のいい男を見つけて、伴侶にする必要がありますぅ」

「………」

「何と言っても強さ、そこに重きを起きますぅ。自分より強い男を選ぶのは、蛇女ラミアが持つ本能と言えるものなんですぅ」


本能、かぁ。人の好き、嫌いは理屈ではない、と言うからな。


「クリスハルさんは…その…すごく強いので…ですから…そのぉ…ですねぇ…あの…あ、やっぱり…すみません…いきなり、こんなこと言ってぇ…」

「リジーさんにそう言われて、嫌な気持ちになんかなりませんよ。ありがとうございます」


少し顔を赤らめるリジー。何となくいい雰囲気に満足した私は、満天の星空を静かに見ていた。

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