第27話
門兵の絶叫を聞きつけたのだろう、村中の人たちが入り口付近に集まって来た。
集団の中の先頭にいた年寄りが私のあと、フィニ、リジーに目を合わせた。そして年寄りがそれだけで何かを察したのだろう、首を振って、頭を下げてきた。
「大変、申し訳ありませんでした」
周りの村人たちも、その年寄りに発言を譲っている様に見える。恐らく、この年寄りが村長などの役についている取りまとめ役なのだろう。
「彼は、その…去年来た、門兵でして…」
「それで?」
「村人には武術系の天恵持ちがおらず、魔物を倒すことができません。そして、このあたりは魔物が少ないとはいえそれなりに出てきます」
なるほど。彼なしでは成り立たなかった村なのか。
「そのため、彼には誰も逆らえず、恋人を、妻を、娘を、脅され、泣く泣く差し出した村人もいます」
☆☆☆☆☆☆
私の復讐相手は、勇者であるが、王女だ。王女ということは相手がほぼこの国であるとも言える。
仮に正面から王女をぶちのめして、フッたとしてどこまでのダメージになるのかは、不明だ。
クリスハルは自殺を実行した。
今朝見た夢が、本当かどうかはわからない。が、恐らく近いことがあったのは、あの日記から見ても間違いない。
ならば、あの勇者王女に、それと同程度以上のダメージを与える必要がある。王家の権威をガタ落ちさせ、彼女の誇りが最大限、踏みにじられるような形で、命を奪う。
私は公爵家の図書室で本を漁りながら、適切な復讐方法を考えていた。
残虐な勇者王女に相応しい、惨たらしい死を。
☆☆☆☆☆☆
「我々が愚かでした。やはり高価でも魔素材の武器を買って、適正天恵がなくても、魔物を倒せるように準備すべきでした」
村長の言うとおり、魔素材でも長い期間、魔物に持たれていた素材は魔力を帯びるに至る。そこまでいけば、天恵がなくとも誰でも魔物を殺すことが出来る。
しかし、魔力を帯びたものは、希少な上に、需要も高く、かなり高額だ。ナイフレベルでも王都に家が一軒買える。
だが、魔物を狩るためにそんな高価なものを買う必要はない。
「この国では知られていませんが、実はこの問題を簡単に解決する方法があります」
「へ?そんなことが?」
だが、彼らは勘違いをしている。いや、勘違いをするように国から教育をされているのだ。
アザレアが、人を集めてデモンストレーションをやったように『武術系天恵の持ち主の派遣なしでは国が成り立たない』と幼い頃から教え込まれている。
(それは間違っている。だからこれを広めれば、アザレアとこの国の貴族たちに取っては、とんでもないダメージになるはずだ)
ただ、この国をひっくり返しかねない話をどこで切り出すのか、どこで始めるか、まだ未定だった。
しかし、復讐の口火に適した環境が転がってきたのだ。ここがアザレアへ復讐する狼煙を上げる始点になるだろう。
何より村人たち自体が、彼ら自身も恨みがあるだろうから、強制する必要がない。必然的に、素晴らしい火種になるはずだ。
「貴族様は、みな『我々から派遣される武器術の天恵を持つものが居なければ魔物には一切抵抗できずに殺される』と言っています。そのために我々は高い税金を収めているのです」
「それは口実ですね…今、それを証明しましょう。この中に、農家、漁師、狩人、大工、木樵の天恵持ちは居ませんか?」
図書室で調べた事実から私なりに推測をすると、農家は鍬や鋤、漁師は銛、狩人は弓矢、大工は金槌、木樵は斧に魔力を纏わすことができるはずだ。
この世界の人間は基本的に魔力が見えない。
だから、持っているものが、魔力を纏っているかどうかは、誰にもわからない。否、そもそも調べた限り魔力の概念自体が知られていない。
ただ書籍を見る限り、農家の天恵持ちが鍬や鋤を持つと、明らかに動きがよくなり疲れなくなる、という記述が複数見つかった。
それは槍使いが、槍に魔力を纏わせたのと同じような現象が起きていることの証左なのだ。
「お、おら木樵の天恵持ちだァ」
「では、そこにある斧を構えてみてください」
おずおずと前に出てきた若者にそう指示をして、恐らく薪割り最中だったのだろう、切り株に突き立てられた斧を指差す。
若者が斧を引き抜き、構えた瞬間、やはり周りの魔力が斧に纏わりつくのが見て取れた。
「その斧で魔物を倒せますよ?」
「そ、そんな馬鹿な話、聞いたことねぇぞ?」
この国では、武術系の天恵は血筋の影響で、貴族などの高位の人間が多く持っている。
武術系天恵の持ち主を派遣することで、この国は、ひどく安い税金と非常に高い『武器術天恵持ち派遣料』を市民から搾り取っていた。
つまり、この国ではこうした武術系天恵の優位性を保ち、実質、税を搾り取るために、ほかの天恵でも魔物を倒せることを隠している可能性があるのだ。
「農家の方なら鍬や鋤というように、適正を持つ道具ならば、魔物を倒せますよ」
「ま、まさかそんなことが!?」
「ちょうどそこにファングウルフがいます。試してみましょうか?」
壁の切れ目のところにちょうどファングウルフが見える。普段なら門兵が軽く追っ払うところなのだろうが、今は気絶して倒れている。
これは門兵をノックアウトした私が、責任を持って対処するしかないだろう。
「
魔法を唱えると、ファングウルフが地面から生えてきた砂鉄に絡まれて、身動きが取れなくなる。
「さぁ。私がファングウルフの動きを拘束しましたので、やってください」
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
「完全に動けなくしてますから、仮に倒せなくても大丈夫ですよ」
「わ、わかった……で、でやぁ!!」
ガタイのいい木樵の青年が斧を振り下ろすと、ファングウルフの頭があっさり切り落とされた。
クタリとファングウルフが力なく崩れ落ちるところを見て、木樵の若者は呆然としている。
「こ、殺せたべ…」
「でしょう?これって、他所の国では、割と知られていることですよ?」
本当にそうかどうかは知らないが、適当にそう言い繕っておく。何、知識が知れ渡ってしまえば、どこが情報の発信源だかなんて辿ればしないだろう。
「それぞれの天恵の適正を持つ道具ならば、こうやって魔物を殺せますよ?」
無理なのは適正のある道具のない天恵だ。実は、もっとも多い市民ですら刃渡り10センチ以下のナイフ、次に多い村民も靴が適正のある道具になっている。
だから、大変そうな村民ですら、魔物を蹴り殺すことが可能だと言える。
それが可能とわかってしまえば、魔物からの守護を建前に、貴族は庶民から搾り取っている前提が崩れるだろう。
そし)、もし、魔物からの守護が必要ないとなったら『武器術天恵持ち派遣料』という名前の高額な税金など、この国の国民は誰も支払わないだろう。
『武器術天恵持ち派遣料』を支払わないならば、守護する武術関係の天恵持ちを送らないぞ、と言われても「どうぞ」としかならないからだ。
「是非とも、近隣の村々に教えてあげてください!皆さんの村は、みなさんの力で守りましょう!」
「お、おう」
さて、これが広まって、この国の高額な実質税金を取る理由がなくなったら?何かと理由をつけて貴族たちは税金を上げるのだろうか?
この国は隣国からも、かなり離れていて、間にいくつもの山を超えなくてはいけない。そのため、他国から攻められる心配がほぼなく、自衛というのは税金の理由にできない。
ただでさえ、平地が少なく、バラバラと山間に村が点在しており、独立独歩の風が強い国なのだ。税金を取るためには、国内の整備や福祉などがキチンと出来ていないとすぐに反抗されるだろう。
国としては、魔物から守るという口実がないと、税金をろくに取れないから、こうした手を取っていたとも言える。
あの街道の整備具合を見ても、まともにインフラ整備すらしてないだろう。ましてや、福祉などはなく国に所属する意味すら薄いのが現状なのだ。
(ま、革命レベルまで事態が動いてしまうと、村人の犠牲が出てしまうから、その前に私は動くつもりですけどね)
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