第25話
明日からの狩りに向けても、フィニはすでに下調べをしていた。昨日のところよりさらに1日深く行った場所に、オークがいるらしい。
今日のオークはそこから迷いでてきたのではないか、というのがフィニの見解だ。
リジーとも話をして、お互いに遠征の準備をしてから、魔素材ギルド前で待ち合わせよう、ということになって別れた。
何日間か屋敷を空けるので、バンラックにもその旨を話しておいた。
翌朝、2人で屋敷を出て、集合場所の魔素材ギルドまで向かう。背中には私もフィニも大きめのリュックを持ってきた。もちろん、リュックの中には野営の準備や食料などが詰められている。
「フィニは、昨日だけで魔法を随分と覚えましたね。これからよろしくお願いしますよ」
魔素材ギルドへ向かう道すがら、そう声をかけたのだが、フィニの尻尾が表情の代わりに、ぶんぶんと振られ、気持ちを表していた。
「…ハル様…お陰」
「いえいえ。フィニの物覚えが良かったんですよ」
フィニは、魔法の原理をあっさり理解した。生まれつき門が空いている者は、魔法を扱うための魔力操作を覚えるのが早い傾向がある。
生来から目が見えない者と、あとから視力を失った者では、適応能力が全く違うと言うが、それに近いかもしれない。
第1門、第10門ともに3階位まで使えるようになったので、既に実戦にも使えるだろう。
「…ハル様」
「なんですか?」
「…魔法…何階位…ある?」
基本的な疑問だが、確かに昨晩はまず魔法を覚えることしかさせていない。そのため、細かいそういう説明は完璧に省いていた。
自分がこれから覚えていく技術だから、フィニも当然、気になるのだろう。
「魔法は、まず基本と言われる8階位があり、その上にオリジン魔法というものがあります」
「…オリ……魔法?」
「階位の魔法は、これまで様々な人が作ってきた、効率の良いやり方と手順を纏めた、言わば武術における『型』みたいなものです」
「…決まった…動き?」
一昨日から図書室でいろいろと調べて、この世界の風習も何となく頭に入ってきている。で、こちらの武術にも型という考えがあるようだ。
やはり、物事を覚えるための方法などは、世界を飛び越えて、自然と効率よいものに収束する傾向があるんだろうな。
「そう、そんな感じですね。それが難易度順に8階位まであります。8階位まで出来たら、次は自分に合った、自分だけの魔法を使います。それがオリジン魔法です」
「…先……長い…」
「ははは。そうですね。長いから頑張らないといけませんね」
「…ん…頑張る…」
「魔法は個人の門を通します。が、門には個性があり人によって変わります。なので、オリジン段階では、自分の門にあった最適化を行うのです」
オリジンは、自分の門に合わせて、魔法を最適化するため、効果が圧倒的によくなる。
「ただオリジンは非常に繊細で難しく、少し設定を間違えると発動しないこともよくあります。まぁオリジンを行使できてこそ、初めて一流の魔法使いとも言えます」
しかしオリジンは、魔法の組み方にお手本がないため、すべて1から組み上げる必要がある。
自分の門に対する理解、そして魔法の仕組みに関する理解、双方がかなり深くなくては出来ない。
もちろん、門が8階位を使える程度まで開いている必要があるし、自分の門ごとに癖も変わるので、複数の門で使えるのは容易ではない。
史上最強との呼び声のあった私でも、オリジンを使えた門は、開いていた全9門の内、2、4、7、8、9の5つしかない。
とは言え、通常は得意な魔法1つの門でオリジンが使えれば一流、2つ使えれば世界屈指、3つ使えれば
それほどに難しいのだ。まぁ、誰も彼も天恵持っていれば門が開いているようなこの世界に於いては、基準も変わるだろうけどね。
「さて、魔素材ギルドにつきましたね。今日から3人で魔物をたくさん倒しましょう」
「……うん」
☆☆☆☆☆☆
「あ、クリスハルさん、フィニさん、おはようございますぅ!」
「リジーさん、おはようございます」
「……うん……おは……」
魔素材ギルドに着くと、建物の前でリジーが待っていた。リジーは、昨日より気持ち明るい顔をしていて、猫背も少しだけ緩くなっていた。
恐らく、魔素材を持ち帰るためだろう、横には大八車のようなものが置かれていた。
「今日は実は、楽しみにしていましたぁ!装備も新しくなって、ちゃんと1週間分の食料も持ってきていますぅ。魔素材の持ち帰りを考えて、一応、手押し車も持ってきていますぅ!だから、準備はバッチリですぅ〜」
「そうですか。私たちも準備はバッチリです。早速行くことにしましょう…フィニ…」
後半は、隣に立っているフィニに視線を移して声をかける。
「…ん…ハル様…任せて」
フィニはポケットから地図を取り出して、広げる。フィニは方向感覚も良く、ルートの調査もしていたので、道案内から任せることにした。
昨日帰ってきてから、道行きや途中の魔物などいろんな情報を頭に叩き込んでおいているらしい。広げた地図もフィニが自ら書いたものだ。
「……途中…村…目的地」
地図を私たちに見せながら、フィニは地図を指さした。目的地は赤く丸が付けられていて、指さしているのは、王都ジーナスと赤丸のちょうど真ん中あたりだった。
「なるほど。通り道に村があるんですね。今日はそこまで歩くということですか」
「……うん」
村があるのはありがたい。野宿をするのと比べればかなり負担が減るからな。
そんな考えごとをしていたら、リジーがじっと私を見つめてきた。
「あの…フィニさんとクリスハルさんって、その…恋人とかなのですかぁ?」
「ん?あ、ああ、そんな感じですね」
唐突なリジーの発言に面食らった私だが、そう返答すると、ピクと立ったフィニの尻尾が千切れんばかりにぶんぶん振られた。
あ、喜んでいるみたいで良かった。もし私が勘違いしていたら、死にたくなっていたところだ。
「なるほどぉ。だから言葉数が少ないフィニさんのお話されている意味がわかるんですねぇ。お2人は心が通じあっているということですねぇ」
そう言えばそうだな。フィニは話していない期間が長すぎて、声が大きく出せない。そのためか途切れ途切れにしか言葉を拾えないのだが、最近は気にならなくなっていた。
「そんなところだと思います。フィニは理由があって大きな声が出せませんが、慣れればすぐにわかるようになりますよ」
「わかりましたぁ!フィニさんと仲良くなれるように頑張りますぅ!」
(私とて、フィニと会ってからまだ4日目なんですけどねぇ。もしかして毎日、肌を重ねている結果なのでしょうか?)
地球で殺されたときは28歳。最後に恋人が居たのは奇しくもクリスハルと同じ18歳のときだ。基本的に魔法一直線で長い期間、恋人らしい恋人も居なかった。
女は一晩限り。特定の女性と付き合うのが久しい。
さらにはこの身体になってから、精神的にかなり未熟…というか肉体の年相応になった。そのためか、ただでさえ大して持ちわせていなかった経験が、さらに劣化してしまっているように感じる。
フィニがリジーにとてとてと近寄ると、盾を持っていない方の空いた手を握った。
「…リジー…よろしく」
「はいぃ。フィニさん、よろしくお願いしますぅ」
2人ともタイプは違えど、相手と友好的に接しようとする性格なのは共通している。案外、簡単に仲良くなれるかもな。
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