第24話

帰り道は少し急ぎ気味で歩いた。


少し、空が昼前の明るさから陰り始めていたのだ。あと数時間も歩けば、陽が沈むだろう。


気持ち急ぎ気味に歩調を早めたが、小柄のフィニにはキツかったらしい。


「フィニ、大丈夫ですか?」

「…だ…じょぶ…」


そういうフィニは、明らかに肩で息を始めた。これはさすがにまずいだろう。


「駄目ですよ。無理は危険ですから、フィニ、少しだけ休みましょう」

「で…も…」


休んだらさすがに日が沈むまでに、ジーナスへはたどり着けないだろう。とは言え、フィニに無理をさせる訳にもいかない。


いや、待て、私がフィニをおぶって帰れば良いのではないか?


「ならば、私がフィニを背負って帰りましょう」

「だめ…ハル様…動き…悪くなる」


素気なく否定されてしまった。確かに、私の戦い方としては、身体が軽いほうが良いのだが…そんなに負担にはならないと思うけどなぁ。


「あのっ!!」

「リジーさん?」

「私がフィニさんを背負いますぅ!」


リジーが、えいや、という感じで申し出てきた。リジーが背負うなら確かに、支障は少ない。


盾を構えるだけだし、リジーは蛇女ラミアのパワーと盾騎士シールドナイトの天恵で俺より膂力がある。


「いや、しかし街までとなると、結構な負担になりますよ?」

「私なら素早く動かなくてもいいので、何かあっても対応ができますぅ!それに私はパワーもありますし、蛇の下半身に乗って貰えば、ほとんど動きも阻害されませんからぁ!」

「理屈はそうですが、それでも私たちをそこまでして助ける義理もないでしょう?」


登録は明日にでもやれば良いのだ。チームでもない私たちをそこまで助ける必要はないはずだろう。


だが、私のその言葉に、リジーは訳が分からないという風に、目をパチクリさせた。


「何を言ってるんですかぁ?もう、こうして関わっちゃった人を見捨てられる訳ないですよぉ!さ、フィニさん、私の後ろに乗ってくださいぃ!」


先程までのおずおずした感じから一転、妙に積極的で義理堅いリジーのお陰で、私たちは日が沈む前にジーナスの街に帰ってくることができた。


☆☆☆☆☆☆


何とか日が沈む前にリジーと共に街に戻ることが出来た。時間は遅めではあるが、その足で魔素材ギルドで登録をすることにする。


登録した役割は、私がアタッカー、フィニはスカウトだ。フィニは天恵を使わずとも、元から持つ能力だけで、下調べから、周囲の警戒までしっかりこなしていた。


これで第1門、第10門の魔法を教えれば、とんでもなく有能な斥候スカウトになるのは間違いない。


登録後は、3人でギルド内のにある飲食店でテーブルを囲んでいた。


魔素材ギルドの建物は王都のものだけあり、広い。中には、様々な店があり、この飲食店も、ギルド員の多くが仕事帰りに利用しているようだ。


「リジーさん、世話になりましたね」


薄く、度数も低い、エールビールらしきもので乾杯をして口内を潤してから、私がそう口火を切った。


この世界ではアルコールは12歳から飲める。しかし飲めるのは醸造酒のみらしい。蒸留酒も飲めるのは18歳から。


エールビールらしきものは、醸造酒の代表格のようでほとんど水代わりに飲んでいるらしい。この世界ではサボン酒と言うらしいが。


「いえいえ!私のほうがいろいろと貰ってしまって申し訳ないくらいですよ!」


ペコペコと長い身体を折りながら、お礼を言ってくるリジー。体格も良いからか、地球なら普通サイズのジョッキが小さく見える。


蛇女ラミアは、一般的に膂力が高く、生命力にも優れる。そのため、天恵云々を抜かしても盾騎士として有能だとは思う。


また、帰り道のフィニへの態度などを見ても、あまり嘘をついたり、騙したりするのが得意なタイプではないこともわかった。


オークの剣盾の買い取り値段もほぼ、言った通りだったので、性格的にも誠実なタイプのはずだ。


となると、このまま別れてしまうというのも、勿体ないと思えてきた。


彼女が私に借りを感じているので、それを利用するようで申し訳ないが、話してみるか。


「そうですか。ならば、リジーさんが良かったら、もう1つ頼まれて欲しいことがあります」

「はい。私に出来ることでしたら…」

「明日から、暫く私たちと、チームを組んでくれませんか?」


私の言葉に、リジーはひどく驚いた顔をした。そして、長いまつ毛をパチパチと動かしながら、私のことを見返してきた。そんなに私の申し出が意外だったか?


「ええ?むしろ良いんですか?クリスハルさんは、戦闘能力が高いですし、フィニさんは、感覚も鋭くて、魔物の知識も豊富です。私は守るくらいしか出来ませんよ?」

「それで構いません。フィニは優秀なのですが、戦闘能力がまだ及びません。なので、護衛をしてくれる人が欲しいのです」

「か、構いませんが…」

「私もアタッカーで盾を持ちません。あるいはフィニでなくても必要になるときもあるでしょう」


実は、リジーをスカウトするのは、帰りの道行きでフィニにこっそり提案されていたのだ。


もちろんフィニは、自分の護衛などではなく、盾を持たない私のガード役としてどうか、と言っていたのだが…。


私は、正直、乗り気ではなかった。チームを組むということは、私の秘密を知られる可能性が上がるということだ。


私の秘密は、そこまで無理やり隠すことではないが敢えて広めるようなことでもない。基本的には、私がかなり強くなってからでないと、知られるのは面倒と考えていた。


だが、彼女の性格を知るうちに、考えが変わってきた。そして、私には不要でも、フィニには護衛が必要だと思い、誘うことにしたのだ。


「私はあと2ヵ月は、王都ジーナスにいます。その間…日曜日は除いて…私たちとチームを組んでもらえますか?」

「2ヵ月ですか…」

「もちろん、その後もお互い連携などが良かったら続けてもいいとは思いますが…まずはお試しということです」


つまり夏休みの終わりまで、ということだ。今のところ夏休み明けにアザレアに復讐を果たしたら、家を出るつもりでいる。


私は世界を広く見たい。


公爵家に居ては、強さにも限界があるだろう。より強くなるためには、世界を見て様々な可能性を探る必要がある。


昨日、そのことについてフィニに話をして、無理に私についてこなくても大丈夫だよ、と言ったら泣かれてしまった。


途切れ途切れの言葉を纏めて要約すると「私は捨てていっても良いくらいの存在なんですか?」と。


そういうつもりではなかったので、宥めるのにとても時間を喰った。最終的には押し倒して、寝技で納得してもらったが。


閑話休題。


「是非とも!是非とも、よろしくお願いします!」

「……ん」


リジーがそう言って手を差し出してきたので、手を握ろう…としたら、先にフィニに握られた。私はフィニの上から手を重ねることにする。


新しい仲間が加わることになった。

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