第20話

少し開けたところで、焚き火をして、昼の休憩をする。するとフィニが、持ってきた食材を使ってあっという間に料理をしていく。


まもなく、スープとパンのセットがトレイに盛られて出てきた。


「ハル様…お昼…」

「ああ、ありがとう!」


フィニは料理も上手だ。


天恵には料理人というのがあるが、それは上達が早かったり、レシピを思いついたりなどはし易くはなる。しかし、武器術と同じで訓練は必要なようだ。


だから、魔物に魔力を纏った武器を使うとか、そういうものでなければ、天恵がなくとも努力次第でどうとでもなりそう、というのが私の見解だ。


それはフィニがメイドという天恵を持っている訳ではないのに、メイドに関する仕事はかなり完璧なところからも明白だ。


「……ハル様…おいしい?」

「ああ。今日の食事も、すごく美味しいですよ!フィニは本当に料理上手ですよね」


ふるふる。顔を少しだけ赤くして、銀色の尻尾をぶんぶん振りまわす。実は、単に顔に出にくいだけで、フィニって感情豊かだよね。


「そうそう、フィニに確認したいことがあるんでした。今、大丈夫ですか?」

「……ハル様…なに?」


天恵のないクリスやファングウルフは門が予め開いていて、魔法が使える。それは、つまり天恵のないフィニにも可能性があるかもしれないということだ。


むしろ天恵があると、仮に門があっても勝手に魔力を操作されて使えないだろうしな。


体内の魔力を操作して、手の平に集中させる。もし魔力が見られるならば、手の平がキラキラと光って見えるはずだ。


「私の手の平になにか見えますか?」

「…?ハル様…手?」

「はい。そう手の平です」

「手の平…見える」

「手の平だけですか?」

「……うん」


そうか残念だ。フィニに、魔力視の能力はなかったようだ。


魔力視がなくては、魔力を操るのは不可能だ。流石に魔法は難しいか、と思ったとき、フィニが私の手の平をクンクンと嗅ぎだした。


「フィニ…?どうしたんですか?」

「…手…いい匂い…」

「ん?いい匂い?」

「ハル様…いい匂い…手…集まってる」


手に集まってる?もしかして、フィニは魔力が見えなくても嗅ぐことはできるのか?確認するために、右手に集まっていた魔力を左手に移す。


「フィニ、これでは、匂いはどうですか?」

「…こっち…」


そう言って、フィニは私の左手を指した。


魔力視ではなく、魔力嗅というのは初めて聞いた。が、これならいけそうだ。問題はない。要は魔力の存在が感知できればいいのだから。


「フィニ!いけますよ!」

「…私…役に立てる?」

「役に立つどころじゃないですよ!これは最高ですよ!素晴らしい!」

「…良かった」


今のメイドとしてのお仕事だけでもとっても有能なのに、この上、魔法まで使えたら助かるなんてレベルじゃない。


その後、調べたところ既に第1門と第10門が開いていることを確認した。


第10門は、私の得意だった第9門の雷操作創造と並んで便利な移動・物質操作か、防御・結界の魔法が使えるようになる。


これは選ぶことができない。そのため、どちらが使える門なのかはわからない。さらに調べてみると、彼女はどうやら移動・物質操作のようだ。


この系統の魔法は、瞬間移動や飛行などのほか、物を飛ばして攻撃したり、逆に相手の行動の邪魔をしたりと、とにかく出来ることが多い。


さらに第3門が自己強化しか出来ないのと異なり、第10門は、他人と一緒に移動することも可能だ。


☆☆☆☆☆☆


その後も魔物を狩り続けた。


ファングウルフや、あとから出てきたフォレストフォックスから手にいれられる魔力は十分に得た。


昼過ぎ、数時間で20匹ほど狩ると、もう魔力を吸い取るのが難しくなってきたのだ。そのため、今日は引き上げることにする。


(0.1%は、上がりましたかね?)


微かに上がった感触。それでも地球に居た頃に比べたら圧倒的に簡単だ。1日につき0.1%上げていけるなら、2年もあれば神に到達出来るのだから。


「ハル様…そろそろ…」

「ああ。そうですね。そろそろ帰らないと、帰りの途中で道が暗くなってしまいそうですね」


コクコク。


ふと、頷くフィニの銀色の頭を撫でると、千切れんばかりにぶんぶんと尻尾を振り出した。うーん、癒やされる。


一通り撫で終わって、手を離したら「あ…」と小さい声が聞こえてきた。フィニの尻尾が途端にパタンとなり、ひどく申し訳ない気持ちになる。


が、いつまでもそうしてはいられないので、後ろ髪引かれる気持ちを押さえて、荷物を纏めた。


「さて、そろそろ帰りますか」

「……!」


声をかけた途端、フィニの可愛らしい犬耳と尻尾がピン、と立った。えーと、尻尾がピンとしているのは警戒しているんだったかな?


何かを探っているフィニの邪魔をしないように、動かずに黙って待つ。


「…ハル様…あっち…100メイル…魔物」

「ファングウルフ?フォレストフォックス?」


ふるふる。ちなみに100メイルは、距離の単位でほぼ地球のメートルと同じようだ。


「足音…鼻息…唸り声…たぶん…オーク」

「オーク?オークって、あの二足歩行の豚のことですか?」

「……うん」


第1門の魔法を使い、聴覚を強化すると、確かにフィニが指さした方向に、それらしき音が聞こえた。


しかしそれだけではない。別の金属がぶつかり合うような、オークとは違う、恐らく人らしき怒鳴り声も混じっている。


「…誰か…戦って…」

「そうみたいですね…さて、どうしますか?」

「……逃げる?」


オークももちろん魔物だ。倒すことが出来れば、魔力を吸収できる。しかもファングウルフよりも格上なので、吸収できる量も多いだろう。


「…あ…」

「こちらに逃げてきてますね」


剣戟の音が止み、走ってくる足音が近づいてくるのが聞こえる。判断する時間はなさそうだ。フィニを連れて逃げても、恐らくこの足音の持ち主の方が早い。


「…私…足止め…ハル様…逃げる」

「するわけありません。これは、戦うしかなさそうですね…」


両手の剣を抜き、構える。


草むらから飛び出してきたのは、まず中年の男性だった。小柄で軽装、武器も重いものを持っていなかったのでスカウトだろうか?


私をチラリとだけ見て、ニヤリとしてから、そのまま逃げていった。続けて出てきたのは、若い大人の女性と思ったら、顔はあどけなく大柄な少女のようだ。


大盾ラージシールドを持って、チェーンメイルを着ている。そして下半身は…ヘビの尻尾のようになっていた。


「ひっ!人っ!?あっあのっ!オークがぁ!」


書物を昨日、調べて居なかったら危うく魔物と思うところだった。が、彼女は蛇女ラミアという列記とした人に数えられている種族だ。


蛇女ラミアの少女は、オドオドしながらも、私にそう警告をしてきた。が、時すでに遅し。少女を追いかけるように、オークが草むらから出てきた。


オークは身長2メートルちょいで、横幅は私の3倍はある。ブヨブヨではなく、しっかりとした筋肉の上に脂が乗ってる、いわゆるガチムチ体型というやつだ。


オークは手に持った棍棒を振り上げると凄まじい勢いで、蛇女ラミアの少女に振り下ろした。


「うぐっ!?」


蛇女ラミアの少女は、大盾ラージシールドを構え、腰を低くして、がっしり攻撃を受け止めた。が、衝撃が大きかったらしく、口からは呻き声が漏れた。


「に、逃げてくださいぃ!私が押さえている間に!早くぅ!」


どうやらさっきのオッサンとは違って、私に擦り付けるつもりはないらしい。あのオッサンはあとで〆るとして、この少女は誠実そうなので助けることにしよう。


(第3門2階位魔法、中位筋力強化マイナーストレングス

(第1門・3門混交3階位魔法、高位速度強化メジャーアジリティ

(第1門4階位魔法、極位反応強化クリティカルリフレクション


魔槍を吸ったことで、魔法も、以前より高位のものが使えるようになっている。もちろん遠慮なく使わせてもらう。


筋力10倍、速度25倍、反射神経30倍だ。


目の前にいるオークの振り回す棍棒など、トロすぎてあくびが出るくらいだ。


盾少女に向かってオークが再度振り上げた棍棒を左のユピテルで受ける。


ユピテルには魔力を込めていたのだが、棍棒を受け止めることにはならなかった。何せ、スパっと切れてしまったのだ。


受け止めて、胴を斬るつもりだったが、予定を変えて、右の大脇差で、棍棒の残骸を持ったオークの右手を切り払う。


肘から下が無くなったオークの右腕が空を切る。


そのまま私は一歩踏み込み、安全地帯となったオークの右側に回る。


「アンギャオオオオオ!?」


ようやく腕がなくなったことを理解したオークが、叫び声を上げる間に、もう一歩踏み込んで、背中側に回る。


大脇差で、膝裏から両足を斬りつけ、そして蹴りを入れる。姿勢が崩れたところにユピテルで首を一閃する。


一閃して切り落としたオークの馘首がボトリと地面に転がった。


「まだいますぅ!あと2匹ですぅ!」

「ホントですかっ!?」


蛇女ラミアの少女の叫びを待っていたかのように2匹のオークが草むらから飛び出してきた。1匹は剣と盾を持った完全武装、もう1匹は槍を持っていた。


「槍オークを足止めしてください!私が剣盾オークをやります!」

「わっ、わかりましたぁ!」


私の命令に蛇女ラミアの少女は素直に従うつもりらしい。槍オークの前に立って、盾を構えた。


さて、さくさくと倒してしまって、私のエサになってもらいましょうかね?

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