第5話
「さて、グラムス、そしてヒルデス。お前は天恵のないクリスにすら負けるゴミだ。特にグラムスお前は完全武装で、素手のクリスと戦い負けた」
「し、しかし兄上、こいつは汚い手を使い…」
あの傲慢なグラムスも、バンラックの前では借りてきた猫のように縮こまり、言い淀んでいる。
「ほう。では、どんな汚い手を使ったのだ?」
「それは、俺には想像もつかないような、無能が考える汚いことです」
…………グラムスっていうのは、どうやら、かなりの脳筋バカみたいだ。
自分が考えつかないことを無能が考えられたら、こいつは無能以下ということになることに気が付かないのだろうか?
「ほう。お前の言い分だと、自分は無能が思いつくことすらわからず、してやられた無能以下です、と説明しているように聞こえるがな?」
案の定、バンラックにそう突っ込まれる。だがグラムスの方は、自分がかなり致命的なことを言っていることを理解していないようだ。
「ですから…俺では思いつかないような卑怯で外道な手ということです」
「それで負けるなら、やはりお前は無能だな。そもそも、お前は何らかの汚い手を使えば、私に勝てるとでも思ってるのか?」
「い、いえ…」
それは無理だろう。
寝ている非武装のバンラックが相手だとして、仮にグラムスが完全武装だったとしても勝てないだろう。それぐらいの差があるように見える。
「私は無能が嫌いで、有能が好きだ。よって本日よりグラムスとクリスの扱いを逆転させる」
「あ、兄上、こいつは天恵なしですよ!」
「そんなことはどうでもいい。私にとって大事なのは有能か否か、だ。天恵があっても役に立たないやつはジオフォトス家に不要だ」
バンラックは、徹底した合理主義者のようだ。高位の貴族ともなると、そういう精神がないと、領地を治められない面もあるのだろうな。
それは私にとっては、好都合とも言える。
ならば、その立場を存分に利用させて貰おう。元身体の持ち主の遺書にも、恨みの対象としてバンラックの名前は上がってなかった。ここで、こいつに楯突かなくても、不義理にはなるまい。
「グラムスの教師もクビだな…クリス。ちょうど明日から学校は夏休みだろう?お前に教師をつけてやる。武器は何を使いたい?」
さらりと言われたが、明日から夏休みなのか。ならば、学校関係についてもよく調べておく必要があるな。夏休み明けに、下手な立ち回りをしないためにも重要なことだろう。
さて、それはともかく今は習うべき武器の話だったな。確かに、ちょうど武器術を覚えたいと思っていたところなのだ。
今のこの身体は肉体強化が得意だ。そして反射神経や素早さ、見切りにはさらに長けている。ならば選ぶのは…。
「ショートソードです」
「ショートソードか。良いだろう。お前の、先ほど見せた素早さならば、確かにショートソードと相性が良さそうだ。武器倉庫から好きなショートソードを何本かと、小手や盾も持っていけ。おい」
バンラックは、近くにいた使用人、何人かに声をかけた。
「はい」
「武器倉庫を開けてやれ。そのあとグラムスの部屋に案内してやれ。それと、適当に世話用のメイドも見繕ってやるんだ」
☆☆☆☆☆☆
最初に案内された武器倉庫は、倉庫というか、武器を置いた屋敷だった。
「貴様のような天恵なしに武器倉庫を開くとは、バンラック様も寛大がすぎる気がするがな」
偉そうな使用人…ヒルデスとは別の…が屋敷とは別の離れにある武器庫の扉を開けた。
使用人に続いて中に入ると、大量の武器が整然と並んでいる。とんでもない武器の量で、これから戦争でも始める気か、と疑うほどだ。
「あー、えーと、俺はニストだ。クリス坊ちゃん、ショートソードはこっちだ」
「ええ。ニスト、ありがとうございます」
口は悪いが、教えてはくれるらしい。バンラックへの忠誠心が高く、だから意思に反しても、命令を実行するのだろうな。
ニストに案内された先には、大小様々なショートソードが並んでいた。
ショートソードと一言に言っても幅広く、用途に合わせて、様々なものがあるのは、この世界も同じようだ。
直刀から曲刀、半曲刀、長さもロングソードと変わらないくらいのものから、ナイフより少し長いくらいのものまである。
両刃のものもあれば、片刃のものもある。半曲刀のように曲がってる箇所のみ両刃、というものまである。
その本質は
「素材は…」
こっちでの名前はわからないが、見る限り、鉄、鋼鉄、そして
(しかし、
試しに手に握って、
魔法使いの武器術として重要なことに『武器に魔力を通す』というものがある。魔力を通すことで、武器は極めて頑丈になり、粘りも増し、そして刃物は切れ味も増す。
戦闘中の小さなキズや軽い歪みなどは、その場で修復もされる。そのため、魔力が通ることは魔法使いが使う武器として絶対条件とも言えるだろう。
だから、地球での
(そう言えば、天恵でグラムスが使っていたときは槍を覆うように魔力を使っていましたね)
覆うことで動きを補佐したりはできても、武器そのものの強化は出来ない。何のためにそうするのはわからないが、それが天恵の特徴のようだ。あるいは強力な天恵で、魔力を通すことが出来るものもあるかもしれないが…少なくともグラムスは違った。
試しに
(だが、魔力を使ってまで、動きを補佐するのなんて、大した意味はないでしょう。そんなことをするくらいならば、こっちの方がいいですね)
気になった鋼鉄製のショートソードを手に取る。護拳部分が、カップ型のかなりがっしりとした作りになっていて、ナックルとしても使えそうだ。試してみると面白いほど、内部に私の魔力が通った。
鋼鉄ならば、元々雷の精霊である私の魔力が通りやすいのは当然だろう。
この魔力を通した状態の鋼鉄なら例え、
(せっかくの異世界です。この世界独自の鉱石で鋼鉄を超えて電気を通しやすい、かつ、魔法で強化をせずに精錬する、金属はないものでしょうか)
この世界に、こうした特殊な金属があれば、あるいはかなり強力な武器になるかもしれない。
「は。
あ、こっちでも
手にした刃渡り40センチメートルほどのショートソードは、両刃の直刀であり、先は鋭く突き刺したりもできそうた。
形は、分類的にはマインゴーシュと言われるやつだろう。かなり刃が厚く、刃渡りの割には重い。
ショートソードは基本的に乱戦用の武器で、刃渡りが短い分、強度もあり、乱暴に扱ってもそれなりに突き刺しも、切り裂きも出来たりする。そのため取り回しはし易い。一方でやはり、威力にはどうしても欠ける欠点もある。
予備用に、何種類かのショートソードをさらに数本。あとは指を切らないための小手…というか編み込みグローブを選んだ。
(取り敢えずはこんなところでしょうか?武器術というの、これまで真剣に取り組んだことがないのですが…いや、これはなかなかに楽しみですね)
まるでテレビゲームの剣や盾を見て、わくわくする男児のような気持ちだ。だが地球の頃とは異なる、示された強さへの道に、私は心が踊るのを抑えられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます