第53話 順調な日々

 デスガライアル鉱山に連れて来られて3日が経過した。ギドナップを中心に採掘作業は順調に進んでいる。鉱山での仕事は朝6時から開始して夜の10時で終了する。その間の休憩時間は昼の12時から12時30分の昼食の休憩のみである。長期刑囚、奴隷の労働は過酷極まりない。クライスラー達は、いつも仕事を終えると死んだかのよに眠りについていた。一方俺は暇でしょうがない。俺だけは10時に現場に入り夕方の6時には部屋に戻ってもよい。俺の仕事は椅子に座って現場を見ているだけだ。指示は全てギドナップに任せているの俺がやることは何一つない。鉱石がトロッコに乗せられたら2人のウイザードがトロッコを動かすので、その時だけ椅子から降りて現場でトロッコが戻って来るのを待つ時だけが、俺が唯一椅子から降りる時だ。

 ある意味何もしないのも退屈で苦痛である。しかし、俺はこんな所に長くいるつもりは毛頭ない。ムッチリーナが着々とここから逃げ出す準備をしてくれている。そして、俺には俺しか出来ない役割もある。


 「第3加工場の様子を見に行くぞ」

 「わかりました。トロッコを第3加工場まで移動させます」


 ここでデスガライアル鉱山内での力の構図を説明しよう。頂点にいるのはもちろんベルクヴェルク伯爵だ。彼に逆らえる者はいない。次は鉱山兵士団のバードック隊長だ。でもバードック隊長は死んだので今は不在の役職になっている。次は副隊長エイコーンになる。その次は職業持ちの兵士である聖寵者(せいちょうしゃ)である。鉱山兵士団ので職業持ちの聖寵者は20名いたが、竜神族の訪問で10名は死亡したので、今は10名のみになる。次は一般兵になりその次にマインディレクターである俺である。罪人であるマインディレクターが一般兵士よりも位が上なはずはない。しかし、今俺はえらそうに一般兵よりも位が上の聖寵者に命令をしている。そして、その命令に聖寵者が忠実に従っている。これは俺が竜人族を退けた実績が、鉱山内では知らない者はいないうえに、ベルクヴェルク伯爵がマインディレクターである俺に鉱山兵士団の団長の権限を分け与えたからである。

 臆病者のベルクヴェルク伯爵は、いつ竜人族が襲って来るかもしれないと怯えて、建物から一歩も出なくなった。俺に鉱山兵士団の団長の権限を与えたのは、竜神族を追い払ってもらう為である。


 加工場とは採掘された坑道内にある大きな洞穴に作られた作業場である。加工場はデスガライアル鉱山に3か所あり、それぞれ別の役割を担っている。俺が訪問するのは第3加工場である。第1加工場では、鉱石に付着している緋緋色金と勇猛無比を取り除く選別作業をし、選別された鉱石、緋緋色金、勇猛無比は第2加工場へ運ばれる。第2加工場は保管室に役割を担っており、ここで鉱石ごとに分けられて出荷にそなえて準備をするが、緋緋色金、勇猛無比だけは第3加工場へ運ばれる。第3加工場では、緋緋色金、勇猛無比をツボに入れて兵士棟の倉庫へ運ばれる。

 

 俺の役割は緋緋色金、勇猛無比の採掘料の確認だ。緋緋色金、勇猛無比がある程度貯まると帝都へ運搬をするので、早めに予定日を確認したいからである。


 次の日の朝、いつものようにムッチリーナが俺を起こしに来る。


 「大罪人様、逃亡の欠航の日が決まりました」

 「よし」


 「次の緋緋色金の運搬が3週間後になるでしょう。運搬の際の護衛任務は『赤月の光』に依頼します。『赤月の光』はすでに買収していますので、運び屋のポーターを始末し荷馬車を奪って、そのままベンドルハーゲン王国に逃亡をする予定です」

 「わかった。しかし、俺はどうやって脱走すれば良いのだ」


 「この前の竜人の一件で、ベルクヴェルク伯爵は部屋にこもりっきりで、緋緋色金の運搬日時など全ての決定権は私に託されました。前回の運搬では大罪人様達の襲撃もあり、今回は皇帝陛下より鉄壁の守りで運搬するように指示があったそうです。そこで私は大罪人様も護衛任務当てるべきだと副隊長のエイコーンに進言をしました。エイコーンも私の進言に賛成をしてくれましたので、大罪人様は堂々と幌場所に乗って頂いても構いません。今まで通りに勇猛無比に精製の状況を監視してください」

 「え!罪人である俺が護衛に付いて問題ないのか?」


 これは当然の疑問だ。いくらゲームの世界でも運搬の荷馬車を襲った罪人に護衛をさせるなんて強引過ぎる。


 「問題ありません。大罪人様は正式には雑用係として荷馬車に乗ってもらう事になっています」

 「それでもデスガライアル鉱山に拘留されている罪人が外に出るのは問題ではないのか?」


 俺は罪人として捕まってからは、運が回ってきたかのように、周りの勘違いで悠々自適な生活を過ごせている。しかし、俺もバカでない。ずっとこのような勘違いが続く事は無いだろうし、いつか勘違いで纏った衣が剥がれる日が来るだろう。だから、1日でも早くここから逃げ出したい。それも確実な方法で。俺はムッチリーナの計画は少し強引であると不安を抱いているのであった。


 「問題ありません。私を信じてください」

 「・・・わかった」


 俺はムッチリーナの熱い思いに根負けする形でこの計画を同意する。しかし、ムッチリーナの計画は思わぬ事態でとん挫することになった。


 「大罪人様!大至急トロッコにお乗りください」


 いきなり俺の部屋にドーナットが入って来た。

 


 


 

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