第52話 マインディレクターの仕事
翌日
「ボスはのんびり椅子に腰かけてエールでも飲んでゆっくりしてください」
「そうです。サブのギドナップに全て任せておけば良いのです」
俺はベルクヴェルク伯爵から正式にマインディレクター(鉱山監督)に任命され、現場の頂点立つことになる。しかし、採掘作業に関して無知の俺は何をすれば良いのかわからない。実質はサブマインディレクターのギドナップが、今まで通りに現場の指揮を取り、俺はお酒を飲みながら椅子でのんびりと作業を見るだけである。
ここでの主な作業は発破・掘削である。坑道内に火薬を仕掛けて爆破させ土砂や岩石を掘り取りながら鉱石地帯を見つけ出す。鉱石が埋没している場所を発見すれば採鉱をする。今は採鉱作業をしている最中であった。魔法を使える者がたくさんいれば魔法で採鉱もできるのだが、囚人や奴隷の中で魔法を使える者はいない。
「大罪人様、皆が汗を流して作業に従事している中、エールを飲むのはいかがなものかと思います」
俺は他の者からは大罪人様と呼ばれている。生意気に俺に意見をしてきたのは青の作業着の男ギドナップである。
ギドナップは身長は175㎝とこの世界では平均的な身長だが、5年間も鉱山作業を従事しているのでギリシャ彫刻のような肉体美をしている。ギドナップはサブマインディレクターでありながら、人一倍大きなつるはしを持ち最前線で採鉱作業をする男気溢れる人物であった。
採鉱作業中には魔獣が発生する可能性があり、最前線は一番危険な場所だ。そのため生存年数は2年だと言われている。1か月前にも3体のロックゴーレムが発生し、最前線で採鉱作業をしていた10名のうち3名が死亡した。職業を持たないギドナップが5年も生き延びているのは頑丈な体でもなく鋼の精神力でもなく運がよかっただけである。ギドナップは1か月前の魔獣との遭遇で重傷を負ったが、クラージー(聖職者)の職業を持つ兵士に回復魔法を使ってもらい九死に一生を得た。ギドナップは5年間数えきれないほどの魔獣と遭遇して偶然にも生き延びる事が出来たのである。それを運以外に表現する言葉はないだろう。
「俺に命令するとはいい度胸だな」
俺は竜人族を追い払った英雄だ。デスガライアル鉱山で俺に文句を言う人物はギドナップ以外はいない。ベルクヴェルク伯爵ですら俺に気を使い、囚人なのに兵士用の建物、それも3階の使用を正式に認めてくれた。俺だけは鉱山作業を終えると立派な兵士棟に戻り、豪華な食事にフカフカのベットで寝る事が許される。
「マインディレクターは、現場の指揮だけでなく皆の士気を上げるのも仕事だと前マインディレクターのニプレス様に教わりました。私はニプレス様の教えを忠実に守り今までサブマインディレクターとして役割を務めて参りました。大罪人様にもニプレス様のように皆の士気を高めて頂けるように先陣を切って鉱山作業に努めて欲しいのです」
「そのニプレスはどうなったのだ?」
俺は先陣を切って危険な場所に行きたくない。そもそもNPCと俺の命の重さは違う。俺はここで死んだら本当に死んでしまう。NPCなどただのデーターに過ぎない。死のうが生きようがどうでも良い。最優先すべきなのは俺の命だ。
「私をかばい死んでしまいました」
悔しそうにギドナップは涙を流す。
「お前は俺にニプレスのように代わりに死ねと言っているのか!」
俺は大声でギドナップを追い詰める。
「いえ、そういうわけではありません。ただ私が言いたいのは・・・」
「だまれ!お前が5年も最前線で生き残れたのは誰かを犠牲にしてきただけだ。次は俺を犠牲にしたいだけだろ」
「ち・・・ちがう。ちがう。そうじゃない」
「言い訳は良いからさっさと仕事をしろ。俺はここからお前たちの安全を見守ってやる」
ギドナップはそれ以上何も言い返す事が出来ずに作業に戻る。俺は上手い事ギドナップを言いくるめる事が出来て満足していた。俺の居る場所は一番安全だ。もし、魔獣が発生をしても近くのトロッコに乗り逃げる事が出来る。
坑道内で採掘された鉱石はトロッコに乗せて運ばれる。トロッコの駆動は魔石と魔力であり、常にウイザード(魔法使い)が2人トロッコに乗車している。この2人のウイザードは、トロッコの専属であり魔獣が発生した時はいち早く逃げ出して応援を要請する役割も担っている。
もちろん、俺がマインディレクターとして座っているイスはトロッコに設置されている。トロッコに乗れるのは大事な鉱石と運転手の2人のウイザードだけであるが、俺の必死の説得により、今回からマインディレクターも乗る事が可能になった。すなわち俺は一番安全な場所で椅子に座り酒を飲みながら仕事が出来るという最高のポジションを勝ち取る事が出来たのであった。
7国物語~課金すればするほど強くなるゲームの世界に閉じ込めれらた無課金のプレイヤーと1,000万円のレアガチャをしたプレイヤー達の冒険譚~ にんじん太郎 @ninjinmazui
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