第46話 今後のプラン

 「つまりこう言う事ね。大罪人様は最近発見された勇猛無比(ゆうもうむひ)を盗み出すために、わざと御使い様に捕まり、神判所で暴言を吐いて長期刑囚になった。自分たちの仲間さえも裏切って・・・。目的を達成するためにはどんな非道な手段も使う極悪人。まさに神の殺しの大罪人の末裔にふさわしい行動ね。バカなドーナットはそこまでは気づいていないでしょう」


 ムッチリーナは妖艶なウインクをしてこの話は二人の秘密だと合図を送る。


 「・・・」


 俺はムッチリーナの妄想についていけずに呆然としていたが、ムッチリーナには、その姿が大悪党の風格だと感じ取る。


 「大罪人様は勇猛無比を何処へ運ぶつもりなのかしら?長期刑囚となってしまっては帝都では使う事はできないでしょう。そうなると神が降臨したと言われるアルガンシア王国、それとも赤龍神オーディンの祠があるグルドニア共和国でしょうか」


 ムッチリーナは俺の動向を探るように瞳を見つめながら話す。女性から見つめられる事のなかった俺は思わず下を向いて視線をそらす。


 「どちらも違うのですね。もしかして!」


 ムッチリーナは目を見開いて驚愕した表情を浮かべる。


 「ベンドルハーゲン王国に向かうつもりなのね。あの国には封印された二つの祠があるわ。魔法を司る黄龍神ヘカテ―、技能を司る緑龍神プロメテウスの祠。その存在を知っているのはごく一部の皇族関係者のみ。すでにこの情報ですら大罪人様はご存じだったのですね」


 俺は知る由もない。クライナー達の情報で知り得たのは赤龍神オーディンの祠のみである。俺は思わぬ手に入れた情報に驚きを隠せない。しかし、その表情を見たムッチリーナはさらに妄想を加速させる。


 「その驚いた表情は図星のようね。勇猛無比を神に授ける事によって得られる職業は今は実験段階の状態。もしかすると、基本職ではなく上位職に就く事が出来るかもしれないと言われている。でも、緋緋色金と違って勇猛無比はそのままの状態ではただの粘着物に過ぎないわ。とあるクラフトマンが、勇猛無比に使い道がないか調べていたら、七色に光る液状の鉱石に変身を遂げた。その精製方法はまだ完全ではないけれど、帝国の絶対機密事項として、そのクラフトマンはガイスティック城に監禁されて実験を続けている。大罪人様はこのような状況でどのように考えているのでしょうか」


 ムッチリーナは俺に問う。しかし、俺にはなにがなんだが全くわからない。


 「クラフトマンになればいいのか・・・」


 俺はふと思いつく。クラフトマンとは技術職の職業である。戦闘を好まない生産職を専念したいプレイヤーが選択する。クラフトマンは基本職しかなくアイディア次第ではすごい発明品を作る事が出来る発明家とも言える。実は俺は他のゲームでは戦闘よりも生産職のが好きであった。黙々と単純作業の繰り返しが多いが、自分で作った物が売れた時の感動は言葉では表せないくらいに気持ちが良い。クラフトマンになるには、ガイアスティック帝国で皇帝陛下の許可を得て就くことしか出来なかった。しかし、技能を司る緑龍神プロメテウスの祠が存在するのならクラフトマンになる事は可能だ。


 「大罪人様の狙いはクラフトマンの職業に就く事なのですね。だからこそベンドルハーゲン王国に向かうことに決めた・・・。しかし、封印された祠では職業に就く事は不可能。そこで、勇猛無比の情報をベンドルハーゲン王国に伝え、封印を解いてもらうつもりなのね。クラフトマンになった後は勇猛無比の精製に力を入れる。その先にあるものは・・・神殺しの大罪人の復活!」


 突拍子もない妄想を働かせるムッチリーナに俺は恐怖さえ感じていた。俺はただこの世界で生き抜くための最善策は、戦闘よりも生産職のが無難だと思いついただけである。ムッチリーナの説明でクラフトマンになる方法はわかった。その点は非常に感謝している。しかし、その後の神殺しの大罪人の復活とは話が飛躍し過ぎている。しかし、勇猛無比の精製が成功すれば、この世界を震撼させる大発明になる事は間違いない。悠々自適な生活送る為には挑戦しても良い案だとは思った。


 「しかし、どうやってこの場から逃げ出せばいいのだ」


 俺の今後の為のプランはかなり明白なものとなった。しかし、あくまでもそれは妄想であり実現するには不可能に近いものがある。まずは、デスガライアル鉱山から逃げ出さなければ何も始まらない。


 「大罪人様、私に任せておいて下さい。ここから逃げ出すプランを用意させてもらいます」

 「ほ・・・本当なのか!」


 ムッチリーナの提案に俺は大きな希望が見えた。しかし、ムッチリーナは何を考えているのだろうか?それに皇族関係者しか知り得ない事まで知っている。俺はムッチリーナを信じて良いのか迷ってしまう。そもそも、こんなところに来たのも【薔薇の目】の青年に騙されたからである。もしかすると、ムッチリーナも俺を騙そうとしているのではないかと疑うのは当然の防衛本能であった。

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