第44話 特別待遇
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
いきなり大声で騒ぎ出したのは俺ではない。
「ドーナット!落ち着け、取り乱すな」
「た・・・隊長・・・コイツはもしかして・・・【薔薇の目】の一族・・・」
「ちょっと待て、すぐに資料を調べるぞ」
バードック隊長の元には、俺達をキャラバンで運んで来た衛兵から渡された、囚人達の資料がある。その資料に1人1人の情報が記載されている。
「間違いない。罪状は国家反逆罪、刑期は200年になっている」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
ドーナットは恐ろしさのあまりに雄たけびをあげた。
「【薔薇の目】と亜人の狼族と共に、帝都へ運搬途中の緋緋色金の強奪を行う。その時にDランクパーティーの【暗闇の閃光】を殲滅させる」
「あの【暗闇の閃光】を殲滅させるなんて・・・」
ドーナットは意識を保つのに精一杯だ。
「しかし、黒龍神様の御使い様が現れて、【薔薇の目】と亜人の狼族を瞬時に葬りさったが、唯一コイツだけが生き残ったらしい」
「黒龍神様の御使い様でも、この男を殺すことができなかったんだぁ~~~」
ドーナットの目はくるくると回り出し、意識が朦朧としてきた。
「その後、神判所にて皇帝陛下ならびに黒龍神様をバカにする態度を繰り返し、死刑宣告が妥当だったが、鉱山にて人手不足が続いているため200年の刑期に処された」
資料を読み終えたバードック隊長は、背筋が凍り付くほどの恐怖を感じ、ドーナットにいたっては、既に泡を吹いて倒れ込んでいた。
「なんてやっかいなヤツを送り込んでくれたんだ・・・」
バードック隊長は頭を抱える。
「お前達、俺をいつまで待たせるつもりだ!長時間の移動で疲れている。すぐにベットで休ませろ」
俺は二人のやり取りをおとなしく聞いていた。クライナー達と同様に俺の事を大悪党とだと勘違いしているようなので、横暴な態度をとる事にした。
「長期刑囚に休息などない。鉱山に着いたらすぐに作業をしてもらうことになっている。お前もすぐに・・・」
バードックが話している途中にドーナットが割って入る。
「バードック隊長!コイツを怒らせたら危険です。ちょっとくらい休ませたやっとほうが得策です。僕は死にたくありません」
「・・・しかし」
バードック隊長は眉にしわを寄せて判断を渋る。
「バードック隊長!コイツがもし【薔薇の目】だったら、僕たちは直ぐに墓場へ直行です。僕は死にたくありません」
ドーナットは涙目で訴える。
「そうだな。瞳が赤く染まる時全てが赤く染まる。【薔薇の目】と対峙した時、そこは赤一色の血の海に染まると言われている。ここは警戒しておいて損はないな。ドーナット、コイツを囚人棟に案内しろ、コイツの処遇はベルクヴェルク伯爵と相談してから決める。それまでは作業をさせずに休息でも与えておけ」
「わかりました」
俺はドーナットに連れられて、今にも崩れ落ちそうなボロボロの平屋に向かった。
「バードックが失礼な態度をして申し訳ありません。あのバカは囚人棟に連れていけと言いましたが、私はそんな失礼な対応は致しません。こちらの兵士邸でゆっくりとお休みして下さい」
ドーナットは3階建ての立派な建物に俺を案内する。
「ドーナット、そいつは囚人じゃないのか?」
兵士邸の入り口にはシルバーの鎧を着た兵士が立っていた。ドーナットは兵士に厳しい口調で注意する。
「このお方は【薔薇の目】様であり、200年の刑期を喰らった大罪人様だ。このお方を怒らせたら、俺達の命なんて蟻を踏み潰すように一瞬で終わりを迎えるだろう。俺は大罪人様を丁重にもてなす事にした。お前はどうする!バードックの指示に従って囚人棟で粗末に扱うか、それとも鉱山兵士隊用に作られた兵士棟に案内するかは考えるまでもないだろう」
「そうだな。聖寵者(せいちょうしゃ)でない俺達の命は虫けらのように軽い。バードック隊長はウォーリアー(戦士)の職業に就いて偉そうにしているが、俺達一般兵は判断を間違うとすぐに死んでしまう。俺はお前の意見に賛成だ」
「大罪人様、どうぞ中へお入りください」
「助かる」
俺はキャラバンの中で、クライナーから【薔薇の目】の事を教えてもらっている。神を殺した大罪人ギルガメッシュの血を引く者を【薔薇の目】と呼んでいる。ギルガメッシュは、神を殺し人間の国を裏切り亜人の国へ逃げた大罪人だ。公の場でギルガメッシュの名を出すと非国民と揶揄されるくらいに、人間はギルガメッシュを憎んでいる。なのでギルガメッシュの事を【薔薇の目】と呼ぶのが通例となっている
「大罪人様、一階は食堂・大浴場・娯楽室、会議室、2階は一般兵の部屋、3階は聖寵者の部屋・特別室になっています。大罪人様には3階に空き部屋ありますので、そこでゆっくりと休んで頂きます。しかし、部屋の準備に少し時間がかかりますので、大浴場で汗を流してからお部屋に案内したいと思います」
俺は言われるがままに大浴場に向かう事にした。
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