第43話 国家反逆罪

 山道に差し掛かったのでキャラバンが激しく揺れる。今までそれほど揺れる事はなかったので、のんびりと過ごせていたが、快適な旅は一変して過酷な旅に変わる。

 

 「ボス、大丈夫ですか?」


 激しい揺れで俺は気分が悪くなり顔色が真っ青になる。クライナーは俺の異変に気付きすぐに声をかけてくれた。


 「揺れが酷くて・・・気分が・・・悪い・・・」


 大悪党というポジションを守る為、弱きな態度を見せるわけにはいかないが、あまりにも気分が悪いので素直に答える。


 「ボスにも苦手なモノがあるのですね。下座で休まれた方が良いと思います」


 下座にはトイレがあるので嘔吐しても問題はないので、俺はすぐに下座に移動する。


 「おぇぇ~~~」


 下座に移動すると同時に俺は嘔吐する。


 「ボス、しっかりしてください」


 クライナーが背中をさすってくれる。


 「すまない」

 「気にしないで下さい。ボスのお役に立ててうれしいです」


  カッコ悪い姿を見せる事になったが、大悪党というポジションは維持できているようだ。俺は1時間くらい嘔吐を繰り返していたが、馬車の揺れもおさまり気分もマシになった。


 「少し休ませてくれ」

 「ボス、ゆっくりして下さい」


 俺は上座に戻り眠ることにした。その姿をクライナー達は不安げな表情で見ていた。


 しばらくして、


 

 「降りろ!」


 キャラバンの扉が開き兵士が怒鳴りつける。俺はビックリして飛び起きた。


 「今すぐに降ります」


 扉の一番近くに居たレーンコートがゆっくりと立ち上がり、兵士の催促を無視するようにスローモーションのように動く。


 「早く全員降りろ!」


 兵士はイライラしているようだ。


 「わかった」


 シュヴァインも時間を稼ぐように、巨漢をゆっさゆっさと揺らしながらゆっくりと降りる。さっきまで俺が気分を悪くしていたのを知っているので気を使っているのだろう。クライナーも同じようにゆっくりと降りる。最後は俺の番だ。気分はだいぶマシにはなったが、両手は後ろで縛られているうえ、先ほどまで寝ていたので、立ち上がると酔っ払いのようにヨタヨタとしてしまう。


 「早くしろ!」


 俺はすぐにでも降りたいが、キャリッジから地面までは50㎝ほど、それくらいの高さなら、手を縛られていても軽くジャンプをすれば簡単に着地はできるはず。

しかし、寝起きで気分もさほど良くないので、上手く着地が出来ずに尻もちをついてしまった。


 「なんてドンくさい奴なんだ。早く立ち上がれ」


 すぐに立ち上がりたいが、両手を縛られているのですぐに立ち上がる事ができない。気付くとクライナー達の姿は見えなくなっていた。


 「早くしろ」


 俺は足を大きく開いてバランスをとりながら、やっと立ち上がる事が出来た。


 「ぐずぐずするな!さっさと前に進め」

 「ごめんなさい」


 俺は周りにクライナー達が居ない事を確認して涙声で謝った。


 「長期刑囚は4人だけか・・・これじゃノルマに間に合わない。ベルクヴェルク伯爵の機嫌も一段と悪くなりそうだな」


 兵士はため息交じりに愚痴をこぼす。


 俺の目の前には大きな岩山が聳え立ち、近くには2階建ての豪邸と3階建ての建物と崩れ落ちそうなボロボロの平屋がある。そして岩山には大きな洞穴が見える。おそらくあの洞穴が鉱山の入り口だと思われる。そして、後ろを振り返ると、大きな木の柵がありこの場所から逃げられないようになっていた。


 「おい!何をボケっとしている。早く鉱山に入れ!」

 「え!3階建ての建物ではないのでしょうか?」


 「あれは鉱山兵士団の宿舎だ。お前達長期刑囚は坑道内の洞穴が寝床になっている。まさか建物で寝泊まり出来ると思っていたのか?」


 2階建ての豪邸はベルクヴェルク伯爵の住む家であり、3階建ての建物は鉱山兵士隊の宿舎、崩れ落ちそうなボロボロの平屋は短期刑囚の監獄であった。


 「ドーナット、そこで何をしている。長期刑囚は無事に運び終えたのか」

 「バードック隊長!コイツで最後になります。すぐに坑道内に連れて行きます」


 金色の鎧を着た茶髪のロン毛の男がバードックという男性であり、デスガライアル鉱山で働く囚人もしくは奴隷を管理する鉱山兵士隊の隊長である。


 「コイツが新入りの長期刑囚か。他の奴らは何処へ行った」

 「もう坑道内の監獄に収容しているはずです。コイツはあまりにもドンくさいので時間がかかりました」


 「見るからに間抜けな顔をしているな。どう見ても長期刑囚には見えないがお前は何をしたのだ」


 バードックは俺の姿をみてニヤニヤと笑いながら声をかけた。


 「こ・・・か・はんぎゃ・・・く・・ざいです・・・」


 俺はバードックにビビっていたので恐る恐る小声でつぶやく。


 「あ~~~!聞こえないぞ。はっきりと話せポンコツ」

 「国家反逆罪ですぅ~」


 「・・・」


 バードックの目が点になる。


 「ドーナット、俺の聞き間違いか?このポンコツは今なんと言ったのだ」

 「すみません。私も聞き間違いをしたようです」


 2人はお互いの耳を疑った。


 「ポンコツ!バードック隊長がお聞きになっているのだ。ちゃんと答えろ」

 「国家反逆罪です!」


 俺は涙目になりながら大声で叫んだ。


 「ドーナット、今、国家反逆罪と聞こえなかったか?」

 「はい。私もそのように聞こえました」


 2人はお互いの顔を見てビックリしている様子だ。そして、次第に額から汗が滴り落ちる。


 「そんなはずはない。俺はデスガライアル鉱山に配属されて10年になる。今までいろんな囚人を見てきたが、国家反逆罪を起こした大罪人など見たことがない」

 「私は勤続3年目ですが、人生で一度も国家反逆罪の刑に処された人物など知りません」


 2人の顔はみるみる青白くなり金魚のように口をパクパクと動かしている。


 「神殺しの大罪人ギルガメッシュ・・・」


 バードックが恐る恐る口にした名前はギルガメッシュであった。

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