第40話 亜人族を選んだ理由
悲観していたヨモギモチにイチゴ大福は女王の依頼を説明した。
「俺の失言は許されたのか・・・」
ヨモギモチは安堵の笑みを浮かべる。
「女王様は怒ってはいないと言っていた。しかしそれは、俺達に依頼を頼むために、怒りを抑えていたのかもしれない」
イチゴ大福は冷静に女王の表情を読み取っていた。
「俺はこの地を去らないといけないのか・・・」
ヨモギモチの表情はしなしなになる。
「そんな顔をするな!俺達はなんのために大金を課金して【7国物語】を始めたんだ」
「それは・・・」
「俺達は夢を叶えるために【7国物語】に来たんだ!女王様の依頼を達成すれば、お前の失言も許されるはず。お前はこんな所で落ち込んでいる場合じゃないだろう。お前がすべきことは女王様の期待に応えて、お前の強さを亜人国家ウルフグランデルに名を轟かせる事だ。そうすれば、お前の夢も叶うはずだ」
イチゴ大福は拳を握りしめ熱く思いのたけをヨモギモチに伝える。
「俺が【7国物語】を始めた理由・・・俺はアニメで見たようなケモ耳女性やモフモフ女性とムフフなことやアハハな事をしたい」
「お前はその壮大な夢を諦めて、こんな所で覗き見をするだけで満足なのか!ちがうだろ。俺達にとって【7国物語】のメインストーリーなどどうでもよかった。しかし、運命には逆らえないみたいだ。ここは俺達の夢を叶えるために女王様の依頼を受けようじゃないか!しばらく、お前の大好きな亜人女性たちとは会えなくなるが、ここは我慢をするところだ。必ず後でお前は亜人国家のヒーローになって、ケモ耳女性を選びたい放題になるはずだ」
「そうだな。俺はこんな所で覗きをしている場合じゃない。俺が目指す場所はもっと高みにある。ありがとう、イチゴ大福」
ヨモギモチはイチゴ大福と握手をして依頼を一緒に受ける事を承諾する。
「俺達には崇高な夢がある。それを実現するにはこの依頼を無事に成功させなければいけない。エルフの国へ向かうには魔獣が跋扈するモンスター街道を通るか、人間が住む土地を通るかの2択になる」
「人間の土地を通る方が安全ではないのか?俺達は人間の力を遥かに凌駕する亜人族、しかも、スキルも装備品も購入している。それに、狼族は見た目で亜人とわからないから人間のフリをすれば、もめごとに巻き込まれる事はないだろう」
ヨモギモチは危険が多いモンスター街道ではなく、人間の住む土地を通る事を提案する。
「そうだな。だがしかし、俺は女王様の言っていた災いの戦士の存在が気にかかる。シュプリームウルフ部隊にエンキドゥ様を瞬殺した強さは、非常に脅威な存在だ。もし、災いの戦士に遭遇したら俺達に勝ち目はあると思うか?」
「・・・難しいだろう。おそらくだが、災いの戦士は【7国物語】のラスボス的な存在かもしれない。もし、エリアボスなら女王は俺達に討伐を依頼するはず。MMORPGの世界なら、いきなりラスボスの出現エリアに行けるだろう。腕試しに災いの戦士に戦闘を挑むのも悪くない発想だが、それは、死に戻りが許されるゲームでの話になる。一度死ねばつぎ込んだお金を失うリアルモードで、勝算のわからない戦いを挑むのはナンセンスだ。リスクを減らすならモンスター街道のが良いと言うわけだな」
「そういう事だ。それと、もう一つ気がかりな事件が起きているらしい」
「他にも何かあるのか?」
「そうだ。これは直接依頼には関係ない事なのだが、女王に1つ忠告を受けている」
「おいおい、それは大事なことじゃないのか?」
「あぁ。後で話そうと思っていたんだ。実は竜人族が人間の住む土地に現れて、村一つを殲滅させた。しかも、老若男女問わず全員をおもちゃのように切り刻んで、笑い声をあげて楽しんでいたらしい」
「それは、本当なのか?」
「本当だ。その村にたまたま潜入していたこの国のスパイが、その凄惨な光景を目撃した。スパイは竜人が虐殺を楽しんでいる隙に無事に逃げる事が出来たらしい」
「竜人族が人間を虐殺するなんて信じられない。【7国物語】の設定では、竜人族は天空城から5種族を監視する警察のような存在のはず。むやみやたらに人間を殺すのはおかしいのじゃないのか?」
「女王様も同じ事を言っていた。しかし、俺達なら真実がわかるだろ?」
「プレイヤーか!」
「間違いない。竜人族は【7国物語】の中で最強の種族、人間がどれだけ集まっても勝てる相手ではない。強さだけを求めるなら大金をはたいて竜人族を選択すれば良いだろう」
「そうだな。だがしかし、竜人族には夢がない。だからこそ俺達は亜人族を選んだ。俺達の崇高な夢は、【7国物語】で壮大な冒険をすることでもなければ、ましてや殺戮を楽しむ事でもない。ムフフなことやアハハなことをする為だ。竜人族は悲しい事に生殖機能がなく、竜人族の崇める白龍神アストラが生み出す卵から孵化する生き物だ。その為、性欲自体ないのでムフフやアハハな気持ちになることはない。いくら最強の力を持っていたとしても、夢がなさすぎる。だからこそ俺達は竜人族を選ぶ事はしなかった」
ヨモギモチがふしだらな気持ちを熱く語っていた。
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