第39話 逃亡


 「女王様、イチゴ大福とヨモギモチを連れて参りました」

 

 イチゴ大福とヨモギモチは、キラーヴァングの態度をまねて片膝を付いて頭を下げる。


 「ありがとう。このお二人がお噂のイチゴ大福さんとヨモギモチさんなのね。勇敢な風貌に凛とした佇まい、私が想像した人物像以上の好感を持てる方々ですね」


 シェーンヴォルフは、まるで友達と喋るかのように優しい言葉使いでフレンドリーに接する。


 「そのような事はございません。私のような若輩者が女王様に謁見する事ができ、恐悦至極でございます」


 イチゴ大福は失礼のないように、思いつく丁寧な言葉を並べる。


 「すごい美人だ。おっぱいもでけぇ~」


 礼節をわきまえようと努力するイチゴ大福とは逆に、ヨモギモチは心の声を思わず口にする。


 「この無礼者が!」


 キラーヴァングの瞳の色が青から赤に変わり、背中に携えていた大きな斧を構える。


 「キラー!やめなさい」

 

 シェーンヴォルフはすぐに止めに入る。


 「しかし、コイツは・・・」


 キラーヴァングは斧を構えたまま立ち止まる。そして、すぐに異変に気付く


 「おい、ヨモギモチは何処に消えた!」


 先ほどまで目の前に居たヨモギモチの姿が見えない。


 「これがヨモギモチさんがお持ちのスキルなのね」

 「イチゴ大福、アイツは姿を消す事が出来るのか?」

 「はい、キラーヴァング様。ヨモギモチは少しの間だけ姿を消す事ができます。女王様に対して失礼な発言をしてしまったので逃げてしまったのでしょう。彼は女王様があまりにも美しいので、心の声がポロリと出てしまったようです。しかし、それは決して女王様に対しての敵意でなく愛なのです。どうか、彼を許してやってもらえないでしょうか」


 イチゴ大福は床に頭をこすりつけて誠意を示す。


 「イチゴ大福さん、私は怒ってなどいません。ヨモギモチさんは私の容姿とスタイルを褒めて下さったと理解しています。キラーも些細な事で怒ってはいけません」

 「・・・」


 キラーヴァングは納得はしていないようだ。


 「そういえばイチゴ大福さんは、ヨモギモチさんよりもすごいスキルをお持ちだと連絡が入っています。そのスキルを使ってウルフグランデル周辺に出没した魔獣たちを一掃して下さったそうですね」

 「はい。私はフルムーンとウルトラプレイバックのスキルを持っています。この二つのスキルを使えば大抵の魔獣には苦戦を強いられる事なく倒す事ができます」

 「フルムーンだと・・・」


 キラーヴァングは思わず大声を上げた。


 「選ばれし亜人のみ幻龍神ヨルムンガンド様からスキルを授かる事ができます。イチゴ大福さんは、二つもスキルを与えられたのですね」


 ※亜人族は全種族の中で一番バランスが良い。魔法、スキル、力など全てを兼ね揃えている。スキルに関しては幻龍神ヨルムンガンドから授かる事になる。プレイヤーは亜人族を選択すると、標準魔法として低級の攻撃魔法ファイヤーバレット(火属性)とアイスクラッシュ(氷属性)を使う事が出来る。そして選んだ亜人種の中の種族によって標準魔法の種類も変わる。

 

 「はい」


 イチゴ大福は亜人族を選択した時に、亜人族の説明をきちんと目を通していたので、女王の言う事は理解していた。


 「フルムーンとはレアなスキルです。噂では聞いた事はあったのですが、ホントに存在するスキルだったのですね」


 ゲーム上の設定ではフルムーンはレアスキルには該当しないが、【七国物語】の世界ではレアスキルに該当する。


 「運がよかったのでしょう。幻龍神ヨルムンガンド様に感謝してもしきれません」


 イチゴ大福は進行を妨げない為に女王に話を合わせる。


 「どのような経緯でレアスキルをゲットしたのかは聞く事は致しません。私はレアスキルを持つあなた方に協力をして欲しいのです」

 「私に出来る事があれば何なりとお申し付けください」


 イチゴ大福の目がキラリと光る。イチゴ大福はゲームがどのように進むのか非常に興味がそそる。女王は事の顛末を説明しエルフの国へ使者として行って欲しいとお願いをした。


 「ぜひ喜んで行かさせていただきます」


 イチゴ大福はエルフの国に行けると聞いて心が弾けるように喜んだ。エルフと言えば美しい女性というのが定番である。実はイチゴ大福は亜人国を出たら次に行く場所はエルフの国と決めていた。ヨモギモチは助兵衛だが、イチゴ大福はムッツリ助兵衛であった。

 イチゴ大福は女王から書簡を託されエルフの国へ向かう事となる。その前に逃げ出したヨモギモチと合流する事にした。


 「やっぱりここに居たか・・・」


 ヨモギモチが居たのは村から少し離れた場所にある露天の温泉の近くであった。村の住人は家にもお風呂はあるのだが、たまに疲れを癒すためにこの温泉に入りにくるのである。温泉は森に流れる小さな川の横にあり、木々に覆われて近くに行かないと温泉の存在には気付かない静かな場所だ。曜日ごとに女性の日と男性の日が分かれていて、今日はもちろん女性の日になる。


 「ここが俺の力を一番発揮出来るところだからな。俺はこの国から追われる立場になってしまった。一度くらい亜人の裸を拝ませてくれぇ~」


 ヨモギモチの悲痛な声が静かな森の中に響き渡った。


 

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