第38話 亜人国家ウルフグランデル

 「本当に兄様とシュプリームウルフ部隊が殺されたのですね」

 「はい。遠方より監視していたファルコンの報告なので間違いありません」


 「信じたくありません。幻龍神ヨルムンガンド様よりスキルを授かった兄様とウルフグランデル最強のシュプリームウルフ部隊の4人が、たった1人の戦士に殺されるなんてありえません」


 ここは四方を大きな山に囲まれた亜人国家ウルフグランデルにある地下都市スカンティナート、限られた亜人しかその場所は知らない。地下都市スカンティナートは東京ドーム3つ分ほどの広さであり、ウルフグランデルの重要事項はここで全て決定される。

 地下都市スカンティナートの中心部には金の宮殿があり、その宮殿にウルフグランデルの女王シェーンヴォルフが君臨する。シェーンヴォルフは、銀髪のロングヘアー、大きな青い瞳、淡いピンク色の小さな口からは鋭い二本の牙が八重歯のように可愛く伸びている。身長は150㎝と小柄で細身の体系であるが、胸は洋ナシのように大きい。正式な名前はシェーンヴォルフ・ロウ・ギルガメッシュである。

 

 シェーンヴォルフは兄の訃報を知らされて動揺を隠せずにいた。


 「ただの戦士ではありません。邪龍神アルマゲドンの復活を目論む災いの戦士です」

 「幻龍神ヨルムンガンド様のお告げは本当だったのですね」


※黒龍神アルマゲドンは人間族以外からは邪龍神と呼ばれている。


 「はい。帝都ロギアルシアンに潜入させているスパイからの報告では、邪龍神の復活を果たす為、失われた遺物を取り返す旅に出たとの事です」

 「そうですか・・・」


 シェーンヴォルフは瞳を閉じてしばらく考え込む。


 「邪龍神の復活は絶対に阻止しなければいけません。兄様達を簡単に倒すほどの強者ならば、500年前の二の舞になりかねません。すぐに4か国同盟の復活を呼びかける必要があります」

 「わかりました。まずはエルフの国に使者を出しましょう。最近メキメキと力を付けて来たイチゴ大福とヨモギモチに行かせてはどうでしょうか?」


 「そうですね。あの二人は特殊スキルも持っている聞いています。もし災いの戦士と遭遇しても、生き延びる事が出来るでしょう。すぐに二人をここに呼んで下さい」

 「御意」


  


 「・・・じゃなくてヨモギモチ、【七国物語】のリアルモードはすごいだろ!」

 「ガチ、スゲー。これ完全にリアルじゃん。チュートリアルの魔獣退治も緊迫感があってめっちゃ楽しかったわ。でも、カリントウはビビッてすぐにゲームモードに戻ったな」


 リアルモードで攻撃を受ければ実際と同じような痛みを味わう事になる。カリントウは、魔獣に肩を噛まれて防具を破壊され、魔獣の牙が肩の肉に突き刺さったのである。 


 「アイツはケチって初期の装備品だったから、魔獣の攻撃を受けて肩から血を出して泣き騒いでいたからな。俺が言ったとおりに装備もちゃんと揃えておけば問題なかったのに」

 「そうだな。でも亜人族の選択で10万円、亜人族最強の狼族の選択で10万円、スキルで1つで5万円、装備品で5万円、合計30万円。今月は赤字だぁ~」


 「でも、めっちゃ爽快で気持ちが良い!まさにチート能力を授かったなろう系の主人公になった気分だろ」

 「ほんまそれ!もっと課金すれば強くなれるのか?」


 「種族の変更以外は課金でさらに強化出来る。俺はフルムーンとウルトラプレイバックのスキルを買ったから、今のところ追加の課金は必要ない」

 「俺はクリアネスだけやわ。次の給料入ったらウルトラプレイバックはゲットしたい」


 ※スキル 

 フルムーン=人狼族特有のスキル。10分間体長3mの狼に変身する事ができる。狼の状態の時は不死身。インターバルは10分【10万円】

 ウルトラプレイバック=全種族対応スキル。即死ダメージ以外の攻撃は、5秒以内に回復できるスキル。5秒以内に持続的に攻撃を受けると超再生の回復は間に合わない。【10万円】

 クリアネス=1分間透明になれる。インターバルは10分【5万円】


 「クリアネス・・・お前はムフフ狙いやろ」

 「透明になるのは男のロマン、このスキルを見た時絶対に必要だと思った」


 「たしかにお前の気持ちはわかる。俺も5万つぎ込もうか迷ったけど、1分は短い気がする。戦闘にもムフフにも微妙なスキルだな」

 

 「イチゴ大福、ヨモギモチ、ここに居たのか。女王様が呼んでいるぞ。俺に付いて来い」

 「わかりました」


 2人は男性の後を付いて行く。


 「ここから行く場所は亜人族でも一部の者しか入る事が出来ない聖域だ。決して他言しないようにしてくれ」

 「わかりました」


 2人はさらに男性の後を付いて行く。2人が居た村を抜けてから30分ほどが経過した。


 「俺の全速力に着いてこれるとは、やはり相当な実力者だな」


 男の名はキラーヴァング・ロウ・ギルガメッシュ、女王シェーンヴォルフの弟であり亜人国家ウルフグランデルの宰相兼シュプリームウルフ部隊の隊長だ。女王と同じく銀髪のロングヘアーであり顔も非常に似ているが、身長は180㎝と背は高く筋骨隆々のガタイの良い狼族である。狼族は亜人の中で全ての点でバランスが良く、亜人の中では最強種だと言われている。その最強種の狼族の中でも最強を誇るのがキラーヴァングだ。そのキラーヴァングに認められたイチゴ大福とヨモギモチは相当の実力者であることは間違いない。


 「けっこうキツイな」

 「そうだな。装備を軽量に変えて正解だった」


 「そうだろ。俺の言った通りミスリルの装備は軽くて頑丈だからスピードも速くなる。絶対に買うべき装備品だ。ケチって死んだら装備品も全て没収になるから逆にもったいない」

 「デスぺナくらったら大損やから死なないように気を付けないと」


 「お前達何を無駄口を話している。この洞穴の奥に地下都市スカンティナートがある。女王様が首を長くしてお待ちになっているはずだ。お前らスピードを上げるぞ」


 キラーヴァングはさらに走るスピードをあげた。


 

 


 

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