第41話 2人の竜人族
「お前たちは何て事をしてくれたんだ!」
「俺達は使命を果たす為にあの村を殲滅させただけだ。巫(かんなぎ)にガタガタと言われる筋合いはない」
「そうだ!そうだ!」
「私が出した使命は、災いの戦士の事を天空城バベルから調べる事だ。誰が地上に降りて村を滅ぼせと言ったんだ。勝手な事をするな」
激しく怒鳴り声を上げているのは竜人の国シェアシュテーリングを治める神龍の巫ビーフステイク。竜人族は不老の生き物であり、生まれた時から死ぬまでその姿が変わる事は無い。そして、性別はなく中性的な綺麗な顔立ちをしており、頭には二本のツノ、背中には翼、お尻には50㎝程の尻尾が生えている。皮膚は人間と同じように肉眼では見えるが、実際は強固な鱗で覆われている。服装はサーコートをはおり鎧などの防具を必要としない。
ビーフステイクは腰まで伸びた白髪の竜人だ。
「そんな生ぬるいやり方だから、邪龍神アルマゲドンが調子に乗って人間に過度な力を与えてしまうんだ。巫は500年前の出来事を再現したいのか!そうさせないために俺達が生まれてきたんだ」
「そうだ!そうだ」
「生まれてきて1週間も満たないお前達に何がわかるというのだ!邪龍神アルマゲドンの暴走は、白龍神アストラ様の力を持ってしても防ぐ事が出来なかった大厄災なのだ。私達が出来る事は天寿を全うし、白龍神アストラ様に身を捧げる事だけだ。お前達は余計な事をせずに監視をしておけば良いのだ」
竜人族は1000年の年月を暗黒大陸と呼ばれるドラゴンが支配する大地に赴き、ドラゴンを退治し魔玉を喰らう事によって龍玉の濃度を高める。魔玉とはSランク以上の魔獣を倒す事によって手にすることが出来る秘宝。龍玉とは竜人族の額に第3の目として存在し、その目は常時閉じられている。しかし、スキルを発動する時にだけ龍玉の目は開かれる。龍玉は濃度によって色が変わり、龍玉の色によって神職の職位が決まる。そして、龍玉の色は髪の色と同じで、龍玉の濃度がMaxになると龍玉は白く輝く。すなわち、ビーフステイクはドラゴンを倒しまくって龍玉濃度をMaxにした強者であり、最上位の神職である神龍の巫であり、白眼の巫とも呼ばれている。
「これを見てもお前はそんな事を言えるのか」
「言えるのか!」
「・・・お前達、いや、そんな事はありえない!」
ビーフステイクは自分の目を疑った。
「龍玉を細工することは出来ないのは巫が一番知っているだろう」
「そうだ。そうだ」
「赤色だと・・・ありえない。お前たちはまだ生まれたばかりだ。それに髪の色も黒だ・・・龍玉が赤なんてありえない」
ビーフステイクは呆然としている。
「ガハハハハ、まだ、神職の儀式を終えていないからな」
「そうだ。そうだ」
人間族は課金をすると様々な職業に就く事が出来る。亜人族も課金をすると狼族のようにより強い亜人種に就く事が出来る。竜人族も課金することによって、白髪の神龍の巫、金髪の神龍の宮司(ぐうじ)、赤髪の神龍の禰宜(ねぎ)、青髪の神龍の浅葱(あさぎ)、課金なしは黒髪の神龍の出仕(しゅっし)の神職を選ぶことが出来る。
竜人族はゲーム開始時は髪の色は黒と決められていて、神職の儀式を終えてから髪の色を龍玉と同じ色にすることが出来る。
「俺達はお前らが500年かけてなし得る事をたった1日でやり遂げたのだ」
「そうだ。そうだ」
実際は課金をして手に入れたのでブラフである。
「・・・」
ビーフステイクは唇を噛みしめて言い返す事が出来ずにいる。
「安心しろ、災いの戦士は俺達が倒してやる。そして、いずれは俺が新しい巫の椅子に座ってやる」
「そうだ。そうだ」
「白龍神アストラ様は、災いの戦士の動向を見極めよと述べていた。決して殺せとの指示は出ていない」
「だからアストラは甘いのだ。災いをなすのなら殺してしまえば良い。撒餌の時間は終わった。後はエサを食べに災いの戦士が現れるのを待つだけだ。アストラが正しいのか俺が正しいのかすぐにわかる事だ。ガハハハ」
「ガハハハ・ガハハハ」
「・・・」
ビーフステイクは2人の竜人を止める事は出来なかった。
「まだまだ殺し足りないな。もっともっと、人間を殺して楽しみたいぜ」
「お前も好きだな殺戮が」
「お前も楽しんで殺していたではないか!悲鳴を上げ逃げ惑うNPCを見て、笑いながら躊躇なく剣を突き刺して興奮していただろ」
「たしかに。現実では味わう事のできないリアルな殺しに俺は酔っていたかもしれない。断末魔の悲鳴、飛び散る血潮、むき出しの血肉、俺は興奮を抑える事が出来なかった。こんな素晴らしい世界に案内してくれたお前に感謝の念しかない」
「60万円で殺戮ショーを楽しめるなんて安い買い物だろ?おそらく、災いの戦士とはエリアボスに相当する強さを誇るNPCに違いない。しかし、人間レベルが竜人に勝てる見込みなど1ミリもないはずだ。サクッと倒して、次は大きな町で大惨劇のショーを披露しようではないか」
「それは非常に面白い提案だな。肩慣らしで暗黒大陸でドラゴンを相手にしたが、苦戦することはなかった。もしかして、俺達はこの世界で最強の生物じゃないのか」
2人の竜人のプレイヤーは、30万円で竜人族を選び、25万円で神龍の禰宜の神職を手にし、残りの5万円でスキルを買った。【七国物語】ではお金の額が強さの証明である。
「そうだな。でもNPC狩りだけじゃなく、そのうちプレイヤー狩りも始めようぜ」
「たしかに、でも、PK(プレイヤーキル)は人間族なら職業に就いているのが条件だったはず」
「そうだな。プレイヤー間でのやり取りができる条件は、人間族以外の種族を選んだ者、もしくは職業に就いた人間のみと利用規約に記載されていた。もし俺達が殺す事が出来ない人間が居たらそいつは無職のプレイヤーだと思って間違いないだろう」
「あの村には殺せない人間はいなかったから、全員がNPCだったという事だな」
「そうだな。竜人族には俺たち以外のプレイヤーはいなかった。ということは俺達が最強のプレイヤーだと言っても過言じゃない」
「殺したい放題だな」
「油断はするな。この世界は課金額が強さに比例する単純な世界だ。もし、人間族でも高額課金をすれば、俺達を倒す力を有している可能性もある。万が一の事が起きたら迷わずにスキルを使って逃げる事を忘れるなよ」
「わかっている。その為に5万円も出してテレポートのスキルを買ったんだ。60万円をどぶに捨てるような事はしたくない」
スキルテレポートとは1時間に1回使えるスキル。テレポートを使うと指定した場所に移動できるが、指定する場所は1か所しか選べない。二人のプレイヤーは竜人国にある自宅をテレポート先に設定していた。
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