第36話 漆黒の馬車

 馬車屋の図を紹介しておこう。入り口には店舗の大きな建物があり、建物を抜けると大きな馬車場(駐車場)がある。馬車場に大小さまざまないろんな種類の馬車が用意されていて、自分の予算、用途にあった馬車を買う事ができる。もちろんオプションや改造も可能だ。馬車には中古品もあり予算を抑えたければ中古品を買う事も良いだろう。また、特注で自分好みの馬車を依頼する事も出来るが時間がかかる。オリハルコ、ミスリル製はレア素材の高額馬車なので依頼販売になっている。そして、馬車場に併用して馬房もあり、馬を一緒に購入する事も出来るが俺には必要はない。

 俺が買う予定だったミスリル製の馬車の展示品は馬車場でなく、建物内にあり見学に行く所だったが、ノアールの声で予定が変わる事になる。


 「ノアール、どこに行っていたんだ」

 「パパ、黒くてカッコ良いのあるの。それが欲しいの」


 ノアールは天使のように微笑んで嬉しそうに話す。


 「すまないが、ノアールの言っている黒くてカッコよい馬車があるのか?」

 「黒く塗装をしている馬車はいくつかありますので、どの馬車を言っているのかわかりません」


 店主は丁寧に答える。


 「ノアール、その馬車があった所まで案内してくれるか」

 「うん。地下にあったの!」

 「・・・」


 店主の顔が一瞬で真っ青になる。


 「戦士様・・・地下にある馬車はおやめになった方が良いでしょう」


 店主の様子があきらかにおかしい。


 「パンプキンさん、もしかして天使様が言っているのはあの馬車なの?」


 アンジュールの表情も険しくなる。


 「そうです。あの馬車です。私どもパンプキン家は500年以上前から馬車屋を営んでいる老舗の馬車屋です。あの大事件で使われた忌まわしき馬車を先祖代々から保管しています。あの馬車は今すぐにでも使用する事が出来る不可思議な馬車です」

 「アンジュール、俺にもわかるように説明してもらっても良いか」


 「わかりました。この馬車屋の地下には500年前にギルガメッシュ王が使用した黒く輝く馬車があります。この馬車はオリハルコン製の馬車よりも頑丈なのに、オリハルコンよりも軽量で馬に全く負担のかからない馬車になります。いつどこでギルガメッシュ王が製造したのか不明であり、ウルク王国から逃亡する際は、この馬車は残して行ったそうです。この馬車は500年経過した今でも錆びることなく黒く輝く摩訶不思議な馬車でございます」


 ギルガメッシュ王の馬車とは、まるで俺が乗る為に用意されていたかのような馬車である。ノアールが見つけたことからも運命を感じる。もしかしたら、この馬車は1000万円ガチャのおまけなのかもしれない。


 「その馬車を買おう」


 俺は即決した。


 「申し訳ございませんが売る事はできません。この馬車の所有権は私ではなく皇帝陛下になります。私の一存で売る事は出来ないのです」

 「パンプキンさん、戦士様にその馬車を売ってください。責任は私が取ります」

 「アンジュール、大丈夫なのか?」


 俺のせいでアンジュールの立場が悪くなるのは耐えがたい。


 「戦士様、問題ありません。ギルマスからきちんと皇帝陛下に経緯を説明いたしますので、戦士様に迷惑をかけることはないでしょう」

 「いや、俺が言いたいのはアンジュールに迷惑がかからないのか心配しているのだ」


 アンジュールの瞳にキラリと光る粒が見えた。


 「私の身を心配してくれたのですか・・・。こんな私の身を案じてくれるなんて、戦士様は本当に慈悲深い方なのですね。そのお気持ちとても感謝致します。でも、安心してください。全ての責任はギルマスの押し付けるので私にはなんの責任を問われる事は無いでしょう。それに、戦士様は皇帝陛下からの依頼も受けているはずです。その為にギルガメッシュ王の馬車が必要になったと説明をすれば問題ありません。なので心配はご無用です」

 「それならばご自由に馬車をお使いください。私が判断することではありませんが、皇帝陛下公認の冒険者様の頼みを断ったとなると、それも問題になるかもしれません。ギルドの方が責任を取って下さるなら私が断る理由はありません」


 こうして俺はギルガメッシュ王の馬車を手に入れる事になった。馬車屋から馬車を引いて行くのも良いのだが、ノアールをここで変身させるわけにもいかないので、馬車は帝都の大正門まで運んでもらうことにした。


 「それでは馬は用意せずに馬車だけで良いのでしょうか?」

 「俺の馬を外で待たせているから問題はない」


 「わかりました。ギルガメッシュ王の馬車のメンテナンスは、毎月きちんとしておりますので、500年経過した今でも問題なく快適に使用出来ると思いますが、念のため試運転をして状態を確認したいと思います。なので、1時間後に大正門の近くにある繋ぎ場(馬と馬車を駐車する場所)に馬車を運ぶことになります」

 「わかった」


 パンプキンはすぐに部下に命令して馬車のチェックを開始する。


 「戦士様、私はこれで失礼致します」


 すぐに事情をギルマスに説明しないといけないアンジュールは、急いでギルドに戻って行った。

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