第35話 馬車選び
「本当にありがとうございます」
ローゼは何度も何度も頭を下げて礼を言う。
「パパに任せるの」
ノアールの可愛らしい言葉にローゼは笑みを取り戻す。
「ありがとうございます。天使様」
「うん」
ノアールも笑顔で返答する
それから、ルージュ、ローゼ、俺、おまけでノアールの4人で依頼内容の詳細を決めた。
ルージュはローゼに父親の生きている可能性を説明する。しかし、人さらいではなく、何かトラブルに巻き込まれて、デスガライアル鉱山で強制労働させられている可能性があるのかもしれないと説明した。ローゼはその説明に希望を見いだし歓喜し、自分もデスガライアル鉱山に付いて行くと言い出した。俺は邪魔になるから断るつもりだったが、ノアールが賛成したので断る事が出来なかった。それに、ノアールが賛成するってことは、ゲームの進行に、ローゼが仲間になる事が必要不可欠なのだと俺は判断した。デスガライアル鉱山にローゼを連れて行くのは問題はない。しかし、緊急依頼であるプティ事件の依頼に同行させるにはかなり危険だ。村一つを簡単に壊滅させる力を持つ竜人族と相まみえた時、ローゼを守りながら戦う事が出来るのだろか?いや、これはローゼを守りながら竜人族と戦う依頼だと理解した方が良いのだろうかと俺は深読みをする。
「戦士様、本当に大丈夫ですか?」
ローゼを連れて行く事に賛成した俺に、不安げな表情でルージュが問いかける。
「問題ない」
俺は力強く答える。
「わかりました。ところで、デスガライアル鉱山まで乗り合い馬車で行かれるつもりでしょうか?プティ事件が解決するまでは、帝都から出発する乗り合い馬車は中止しております」
「馬で行くから問題ない」
「そうなの」
ノアールは自慢げに答える。
「ローゼさんは馬に乗る事ができませんので、馬車を買う事をお勧めします。戦士様にはエンペラーワラント(帝国御用達)の紋章入りの冒険者証をお持ちなので、この際お買いになってはどうでしょうか。」
俺にはノアールがいるので馬車は必要ないどころかむしろ邪魔である。それにノアールに重い馬車を引かせるのは申し訳ない。しかし、ローゼを連れて旅をするのだから馬車は必要なのかもしれない。俺はちらりとノアールの顔を見る。
「引くの~」
ノアールが嬉しそうに笑っている。ルージュ達はノアールの言葉の真意は理解できないだろうが俺は瞬時に理解した。ノアールが馬車を引く気があるのなら馬車を購入する事は問題ないだろう。
「わかった。今から馬車を見にいこう」
「戦士様、私が馬車屋まで案内して差し上げます」
「あ!ずるいわ。私が案内して差し上げます」
「おい!二人ともギルドの仕事はどうするつもりだ!」
ギルマスのシュテルケが大声で怒鳴る。
「戦士様はSランクの緊急依頼を受けて下さるのです。最優先すべき案件だと私は判断致しました」
「ルージュの言う通りです。今優先すべきことは緊急依頼です。それとも、ギルマスは緊急依頼を放置するおつもりですか?」
ルージュとアンジュールの激しい口舌にシュテルケは額から汗を垂らしてタジタジになる。
「わかった、わかった。お前たちの意見に従うが戦士様を案内するのは1人だけにしてくれ」
シュテルケの1人だけという言葉に2人は敏感に反応し、2人の闘志に火が注がれる。そして、俺を馬車屋まで案内するという大役を掴むために壮絶な争いが始まった。もちろん、戦闘ではなくじゃんけんである。3回勝利した方が案内役となる。二人のじゃんけんは以外にあっけなく終わった。アンジュールが3連勝して案内役をゲットする事となった。
「ルージュ、お留守番は任せたわよ!」
アンジュールは勝利の笑みを浮かべて、俺達と一緒に職員室から出て行く。その後ろ姿を悲しげな目でルージュは見ていた。
俺はアンジュールに案内されて馬車屋に辿り着いた。アンジュールはすぐに馬車屋の主人に俺の事を紹介して、俺の要望にこたえる馬車を案内するように手配した。馬車屋に向かう道中でアンジュールはどのような馬車が欲しいのか俺に聞いてきた。俺は馬車の事は全く知らないので、逆にどのような馬車が良いのかアンジュールに尋ねる事となった。
「戦士様、アンジュール様より予算はなし、馬車は6人乗り、ミスリルまたはオリハルコンの軽量の素材、荷台は小さめ、1頭引きの馬車をお探しと聞いています」
俺はアンジュールに馬車の事を詳しく聞いた結果の答えがこれだ。まず、値段はいくらでも問題はない、それは俺が支払う必要がないからだ。次に何人乗りか迷った。俺は体が大きいので2人分のスペースが欲しい。そして、ローゼが乗るから最低でも3人乗りが必要だ。しかし、馬車の規格として2人乗りの次は4人乗りになる。もし、ローゼの父親を連れて帰るとなると4人乗りがちょうど良いと思った。しかし、俺はこの時これからの事も考えた。この先、メインストーリーを続けて行く中で仲間が増える可能性もあると。なので、大きめの6人乗りにすることにした。そして、一番大事なのは材質だ。馬車はいろんな材質を使われているが、その中でも頑丈で軽い材質となるとミスリルかオリハルコンになる。どちらもレア素材なのでかなり高額な値段になる。特にオリハルコン製の馬車は王族関係者もしくは有力貴族しか購入できないシステムになっている。そんな特別な馬車を購入する事が出来るのもエンペラーワラント(帝国御用達)の紋章の刻印がある冒険者証を持っているからである。
「そうだ」
俺は軽く返事をする。
「戦士様、申し訳ございませんがオリハルコン製は特注品になりますので、すぐに用意する事はできません。しかも、オリハルコンはスーパーレア素材です。今ご注文されてもいつ製造できるかわかりません。ミスリル製の馬車も特注品になりますが展示用に2台ほど用意はしてあります。展示品でよろしければご用意致します」
アンジュールから聞いていた通りだった。オリハルコン、ミスリル製は特注品になるのですぐに手に入れる事は難しいと。しかし、ミスリル製の展示品なら入手出来る事が出来る可能性があると。これは想定通りの返答であったのだ。
「わかった」
と俺が返事をした時だった。
「パパ~これが欲しいの~」
いつの間にかノアールは俺の肩から飛び降りていた。そして、馬車屋の中をちょこまかと走り回っていたのである。ノアールは自分が引く馬車をどれにするのか自分で選びたかったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます