第34話 緊急依頼


 「わかった。デスガライアル鉱山に行ってキドナップの生存を確認すれば良いのだな」

 「はい。もし生きていれば、デスガライアル鉱山の管理者であるベルクヴェルク伯爵にお会いすれば良いと思います」


 「ベルクヴェルク伯爵に会えばギドナップを返してくれるのか?」

 「はい。しかし、返してくれるという表現は間違っています。買い戻す事になると思います。ベルクヴェルク伯爵は、奴隷商から多額の金額でギドナップを購入したはずです。5年間休まず働かせたとすると利益は得ているはずです。しかし、ベルクヴェルク伯爵は強欲で金にはうるさい人物です。買い戻すには法外な値段をつけてくる可能性があります」


 「それならば、冒険者証を見せれば解決するのではないのか?」


 俺の冒険者証にはエンペラーワラント(帝国御用達)の紋章が刻印されているので、帝国内では無料で買い物が出来るはずだ。


 「それが出来ないのです。帝国では奴隷売買は禁止されています。なので、奴隷を買う時は闇市で購入することになります。それは買い戻す時も同様になりますので、エンペラーワラントの効力は適用されないのです。実費でのお支払いになるでしょう」

 「そ・・・なのか」


 「はい」

 「買い戻すにはいくら必要だ」


 ローゼが多額なお金を持っているとは思えない。しかし、実費で支払うのが嫌だから依頼を断る事はあまりにも恰好が悪い。


 「おそらく50万ルギーは請求してくると思います」

 「パパなら余裕なの」


 ノワールの言葉とは逆に俺の顔は引きつった。

 50万ルギーとは日本円で5千万円にあたる。あまりにも法外な値段だ。帝国にいる間はお金には不自由しないと思っていたが、いきなりお金に困る事になってしまった。俺の手元にはポーターからもらったお金と素材を売ったお金を合計して1万ルギーくらいだ。ノワールの言う余裕にはほど遠い金額である。


 「そんな大金持っていないぞ。どうすれば良いのだ!」


 俺は少し声を荒げてしまった。


 「安心してください!実は戦士様にうってつけの依頼があるのです」


 ルージュは身を乗り出して満面の笑みを浮かべる。


 「依頼だと?」

 「そうです。なんとこの依頼を達成致しますと50万ルギーの報酬があるのです。まさに戦士様の為の依頼となっています」


 あまりにも都合の良い依頼だと感じたが、この依頼を達成すれば50万ルギーが手に入るのでやらないわけにはいかない・・・が、もし、キドナップが死んでいれば無駄になる可能性もある。


 「依頼内容を確認してから決めたい」


 あまりにも無謀な依頼なら断る事にした。


 「戦士様は竜人族の事をご存じでしょうか?」


 竜人族とは【七国物語】の中で最強の種族であり空の覇者と呼ばれている。


 「聞いたことはある」

 「竜人族は神に匹敵する力を持つと言われ、冒険者ランクで表しますとSランクに該当します。すなわち、戦士様と同等のランクになります」


 「そうなのか・・・」


 竜人族は30万円の課金でなれる種族である。しかし、俺は1000万円ガチャでゲットしたキャラだ。同等と呼ばれるのは納得はいかない。


 「竜人族は神の使徒と呼ばれ、地上に発生する魔獣を駆除しつつ地上の世界の平和を管理しています。しかし、500年前のウルク王国の世界侵攻を発端として、時折人間の国へ訪問し、反乱の兆しがないのか調査するようになりました。黒龍神様の復活を望む帝国は、特別に監視が厳しい状態でしたが、今までトラブルもなく、竜人族は人間に手を出す事はなかったのです。

 ところが先日事件が起きたのです。急に二人の竜人族がプティの村に訪れ、村人を1人残らず殺害し死体の山を築き上げたのです。竜人族がこのような残虐な行動をするなんて考えられません。そこで戦士様にプティに赴いてもらって真相を確かめて欲しいのです。先に帝国の騎士団が調査に赴いていますので、詳しい事情は騎士団に聞いてくださるとわかると思います」

 「俺に竜人を退治しろと言いたいのか?」


 「違います。本当に竜人族が犯人であれば、いくら戦士様でも敵う相手ではないでしょう。村人を殺したのが本当に竜人族なのか調べて欲しいのです。そして、本当に犯人が竜人族であったのであれば、村人を殺した理由を聞き出して欲しいのです。とても危険な依頼になります。その為、報酬が破格の値段になっているのです」

 「わかった。その依頼を受ける事にする」


 竜人族の強さがどれくらいかは不明であるが、村一つを滅ぼすような残虐な行為を許すわけにはいかない。それに、どれだけ竜人族が強くても俺のが強いはずだ。


 「戦士様、ちょうどプティはデスガライアル鉱山に向かう途中にあります。プティに寄ってからデスガライアル鉱山に向かうとよろしいかと思います」

 

 俺はローゼの依頼とギルドからの直接の依頼を受ける事になる。俺はギルドマスターの部屋を出てギルドの職員室に戻る。すると、職員室の端にある長椅子にローゼが座っていた。


 「ルージュ、ローゼさんの依頼はどうなったの」


 アンジュールが不安げな表情でルージュに問いかける。


 「戦士様に全てをきちんと説明したわ。ローゼさんの依頼もギルドの緊急依頼も引き受けてくれることになったわ」

 「よかったぁ~」


 アンジュールは安堵の笑みを浮かべすぐにローゼの元に駆け寄る。アンジュールの言葉を聞いてローゼは嬉しさのあまり大声で泣き出した。


 

 

 



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