第31話 少女の依頼

 ビルガメスの願いを叶える事は、ギルガメッシュがなした行為と逆行している。俺の体はギルガメッシュである。ギルガメッシュがどのような思いで父親を殺し、黒龍神を倒したのかは俺にはわからない。


 「申し訳ございません。私には皇帝陛下の願いを叶えるほどの力を持ち合わせていません」


 俺は遠回しに断る事にした。


 「そんなことはありません。あなた様は黒龍神様のお告げ通りの人物です。黒龍神様の御使い様に間違いありません。どうか!私の願いを叶えてください」


 俺はこのやり取りを10回以上繰り返す事となった。この依頼は避ける事が出来ないのだろうか?いや、強引にこの場から逃げ出せば、依頼を受けずに済んだのかもしれない。だがしかし、ここで逃げ出せば俺の立場が悪くなるだろう。俺は悩んだ挙句、とりあえず依頼を受ける事にした。


 「わかりました。しかし、私の力でどこまで出来るのかわかりませんので、過度な期待はなさらないでください」


 俺は控えめな表現で依頼を受ける。


 「御使い様・・・いえ、戦士様ありがとうございました」


 ビルガメスは大粒の涙を流して喜びを表現した。


 「皇帝陛下、お聞きしたいのですが、奪われた黒龍神の体は何処にあるのでしょうか?」


 俺の装備品は黒龍神の素材で出来ている。それが事実なら黒龍神の奪われた体は存在しないはずだ。


 「ギルガメッシュの手により奪われた黒龍神様のお体は、黒龍神様の復活を阻止すべく6つの国が厳重に保管していると言われています。三つの頭はエルフの国、ドワーフの国、獣人の国、胴体の一部は亜人の国、右翼部は海人の国、尻尾の先端は竜人の国が持っていると言われています。その全てのお体を奪い返し、この【神の寝床】に鎮座する黒龍神様に捧げれる事が出来れば、黒龍神様は必ず復活することでしょう」


 この依頼は人間の国以外の6つの国へ赴き、黒龍神の体を奪い返す事が目的になる。しかし、黒龍神を復活させる事は、他の国は望んではいないのだろう。俺が黒龍神の体を奪いに行く事で、この世界が再び混乱の世のなってしまう可能性もある。依頼を一旦引き受けたが、実際に奪いに行くかどうかは、この世界を冒険しながら考える事にしよう。物語を進めていけば、必ず別の選択肢も現れるだろうと俺は考えた。


 「わかりました。時間はどれくらいかかるかはわかりませんが、皇帝陛下の望みを叶えられるように全力を尽くします」

 「おおぉぉ~それはありがたい。これで私はお役目を果たす事が出来ました。黒龍神様が復活した暁には、私は世界を支配する力を授かる事ができます。これもひとえに戦士様のおかげです」


 ビルガメスは両手を広げて天を仰ぐ。


 「戦士様、冒険者証をお持ちでしょうか?」

 「はい」


 「それならば、帰りに冒険者ギルトによって冒険者証の更新をしてください。私から・・・いえ、国家をあげて戦士様の支援をしたいと思いますので、楽しみにして下さい」

 「皇帝陛下、ありがとうございます」


 俺はありがたく支援を受ける事にした。貰えるモノは貰っておいて損はないだろう。俺はビルガメスとのイベントが終えたので【神の寝床】を去ることにした。


 「ノアール、飯でも食べてから冒険者ギルドに行くか」

 「うん。お腹減ったの」


 ノアールが無邪気に微笑む。面倒な依頼を受けるはめになったが、ノアールの愛くるしい笑顔が俺の心を癒してくれる。俺は食堂で美味しい昼食を食べ終えた後、冒険者ギルドへ向かった。


 


 「お願いします。お父さんを探してください!」


 俺が冒険者ギルドに入ると女性の叫び声が聞こえた。


 「お金はこれだけしかありません。足りない分は何でも致しますからお父さんを探してください」


 大声を上げている女性は、年齢は15歳くらい、ピンク色のロングヘアーの少女だった。綺麗な大きな金色の瞳から大粒の涙を流しながら、必死に受付嬢のルージュに懇願している。しかし、ルージュは困った顔をして依頼を断っていた。


 「ローゼさん、お金の問題ではありません。5年も行方不明になっている人物を探す依頼など受け付ける事は出来ないのです。情報も乏しく探し出すにはかなりの時間と労力が必要になります。このような依頼は出しても誰も受ける事はしませんし、ギルドとしても、依頼としての難易度や報酬の設定が難しくて断っているのです」


 ギルドの依頼は、依頼を達成する事が出来れば報酬がもらえる。なので、明確な内容がわからない依頼や時間がかかり過ぎる依頼を受ける冒険者はほとんどいない。人探しをしても結局見つけることができなければ報酬は0である。


「お願いします。お父さんに会いたいのです」


 少女は崩れるように床に座り込む。ルージュも少女の気持ちを無下にしたいわけではない。でも、ギルドの規則に沿って返答しているのであろう。


 「パパ、女の子が泣いているの!可哀そうなの」


 ノアールも少女につられるように涙目になり俺に訴える。俺はすぐに少女の元へ駆けつけた。

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