第32話 エンペラーワラント
「どうかしたのか?」
俺は少女に問いかける。
「・・・」
俺の姿を見た少女は顔をこわばらせて口を鯉のようにパクパクしている。これが俺の姿を見た者の純粋な反応だろう。俺の姿は神の化身というよりも悪の権化である。
「お・・・とうさんを探してください」
少女は喉から声を絞り出すように声を上げた。そして、細くて小さな白い手で俺の腹を叩く。剣でさえ傷を付ける事ができない頑丈な鎧にか弱い女性の手で叩くのは無謀であり、叩いてる手の方が赤く腫れあがる。それでも少女は必死に俺の腹を叩く。
「ローゼさん・・・」
ルージュは悲し気な表情でローゼに近寄り羽交い絞めにして、俺からローゼを引き離す。
「お父さんを・・・お父さんを・・・」
「あなたのお父さんは・・・」
ルージュは何かを知っているようだがそれを口に出すのを辞めた。
「俺がその少女の依頼を受けてあげよう」
可愛い少女が困っているのを放って置くわけにはいかない。
「戦士様、本当にローゼさんの依頼を受けてくれるのでしょうか?」
「ローゼが望むなら受けるつもりだ」
手を赤く腫らしながらも俺に助けを求めるローゼを見捨てることなど出来ない。
「わかりました。依頼内容の詳細を説明致しますのでギルドの職員室へお入りください」
「わかった」
ローゼの依頼は特殊な事情があるのだろうか?受付でなく、職員室に行くように促される。
「アンジュール、ローゼさんを見ておいて、私は戦士様に事情を説明するわ」
「わかったわ」
俺はルージュに案内されてギルドの職員室に連れて行かれた。
「戦士様、ローゼさんの依頼の説明の前に、昨日の素材の買取金のお渡しと皇帝陛下の勅命により冒険者証の更新をさせていただきます。奥にあるギルドマスターの部屋にお入りください」
「皇帝陛下の勅命?」
「はい。さきほど皇帝陛下の勅命を授かった特使が冒険者ギルドに訪れて、ギルドマスターに戦士様の冒険者証の更新をするように言われたのです。更新の内容はとても重要な事であり、ローゼさんの依頼を達成するカギとなる事でしょう」
「わかった」
もしかすると、冒険者証の更新が少女との出会いの発生条件だったのかもしれない。俺は少女の依頼を受けるべく運命だったのであろう。俺はギルドマスターの部屋の扉を開く。
「お待ちしておりました戦士様、どうぞ、椅子におかけください」
扉を開くと赤のダブルブレストを着た30代くらいの銀髪の男性が出迎えてくれた。
※ギルドマスターの服装 赤のダブルブレストに金のボタン、胸元には赤の徽章を付けている。
ギルドマスターの部屋は20畳ほどの大きさで、中央に木のテーブル、椅子は8席、奥には書斎、側面の壁側には本棚がありたくさんの本が並んでいた。俺が来る事はわかっていたようで、8席のうち2つは大きな椅子と子供用サイズの椅子が用意されている。俺はその大きな椅子に座り、ノアールは小さな椅子には座らずに、俺の肩に座ったままであった。
「私は帝都のギルドマスターを任されているシュテルケと申します。すぐにお飲み物を用意致しますので、その間に冒険者証の更新をさせて頂きます」
「わかった」
俺はシュテルケに冒険者証を渡す。すると、ギルドマスターは書斎の椅子に座り冒険者証に手を加えている。そして、部屋の扉がノックされてルージュが部屋に入り、飲み物とお菓子をテーブルの上に置いて部屋を出て行った。俺は飲み物とお菓子をノアールに渡し一緒に食べる事にした。
「戦士様、お待たせしました。冒険者証の更新が終わりましたので、お返しいたします」
「ありがとう。ところで、どのような事が更新されたのでしょうか?」
「戦士様の冒険者証には、エンペラーワラントの紋章が刻まれました。エンペラーワラントが刻まれた冒険者証にはあらゆる特権が与えられます。まず特権の一つとして、ガイアスティック帝国での全てのお買い物は無料になります。すべてのお支払いは帝国が代わりに支払う事になりますので、戦士様がお支払いをする事はありません。二つ目にガイアスティック帝国内のあらゆる施設に入る許可が許されます。例えば王城にも許可を得ることなく自由に出入りする事が出来ます。その他にもいろんな特権がありますので冒険者証を確認してください」
「わかった」
エンペラーワラントの効力により俺の行ける場所が広がった。それが、ローゼの依頼を達成できる条件になるのであろう。俺はその後、昨日渡した素材の代金を受け取ったが、帝国に居る間はお金を使う必要はほとんどないだろう。
「戦士様、ローゼさんの依頼の内容は私が説明致します」
再びルージュがギルドマスターの部屋に入って来た。
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