第30話 黒龍神アルマゲドンの復活

 地下に続く階段をどれくらい下ったであろうか。松明で灯された階段は、足元が見えにくく慎重に一歩一歩下って行く。一方、ノアールは不気味な雰囲気に興奮して、興味津々に辺りを見渡して嬉しそうだ。

 

 「ドキドキなの〜パパ、何があるのか楽しみなの!」


 幼女姿のノアールはナビゲータとしての機能はなく、逆に冒険を楽しんでいる。


 「まだ、着かないのか?」


 俺はアドミラルに尋ねる。


 「もう少しだけお待ちください」

 「こんな所に皇帝陛下が来ているのか?」


 俺は白く輝く立派な城の側にある木々に覆われた薄気味悪い通路に案内され、挙句の果てには、永遠に続くと思われる暗がりの階段をひたすら下る事になった。こんな怪しげな場所に皇帝陛下がいるとは疑わしい。俺は騙されて危険な場所に案内されているのではないかと勘繰ってしまう。


 「もちろんです。皇帝陛下は1日に1度必ず神の寝床に行くことになっています。今日も30分前に神の寝床に向かったのです」

 「そうか・・・疑って悪かった」


 ここまで来たからには引き返すわけにもいかない。俺はアドミラルの言葉を信じることにした。


 10分後、目を刺激するような眩い光が俺を襲う。俺は瞬時に三面顔兜を装着する。三面顔兜の目のあたりにはサングラスのような黒のフィルムが張られており暗視鏡、サングラス、望遠鏡の役割をはたしている。最初から暗がりの階段を下るなら三面顔兜を付けていればよかったと今更ながらに後悔する。


 「戦士様、あの後光が差し込んでいる扉を開ければ神の寝床に到着します。私は神の寝床に入る事は出来ませんので、ここでお待ちしております」


 3mほどの高さの石の扉は完全に閉まっているが、眩い光は扉から発せられていた。この光は扉の向こう側に神聖な場所である事を警告する神光であるように感じ取れる。

 俺は扉に手をかけると大きな扉は簡単に開き、吸い込まれるように扉の中に入って行く。扉の中は大きな洞穴になっていた。そして、洞穴の中心部から強烈な光が発せられ洞穴内を眩い光で覆っていた。その中心部には赤いマントを纏った男性と20mほどの黒い物体が横たわっている。その黒い物体こそが眩い光の発信源であった。

 俺が神の寝床に入るや否や、黒い物体がブルブル震え出し黒い霧を噴射させて、辺りが一気に真っ暗になる。


 「俺の体を返せ!」


 おぞましく背筋が凍る歪な声が、俺の脳に直接話しかける。


 「絶対にお前を許さない。俺の頭を、俺の右翼を、俺の腹部を、俺の尻尾を奪ったお前を俺は絶対に許さない」


 怨念の叫び声が俺の脳を直撃する。俺は洞穴の中央に横たわっている大きな黒い物体の正体は黒龍神アルマゲドンである事を理解した。


 「俺の体を返せ!そうすれば俺は完全復活する事ができる。7龍神最強の俺が復活すれば、この世は混沌の世界に戻る事が出来るのだ!」


 次第に黒い霧は消えて黒龍神の声も聞こえなくなった。視界が良好になり1人の男が俺の存在に気付く。


 「あぁ・・・遂に私の前にお姿をお見せになってくださったのですね」


 頭には黄金の冠、赤いマントを纏い、金のダブルブレストを着た30代くらいの男性が俺の前に跪く。この男性こそがガイアスティック帝国の皇帝ビルガメス・ウルク・ルガルバンダであり、500年前に人間国を制覇したウルク王国の国王ルガルバンダの末裔になる。


 「皇帝陛下、お顔を上げてください。私は黒龍神の御使いではありません」


 俺は黒龍神を殺した大罪人ギルガメッシュであり黒龍神の宿敵である。


 「そのお姿、そして先ほどの漆黒の霧が、あなた様が黒龍神様の御使い様だと証明しております。私は5年前に夢を見たのです。その夢で黒龍神アルマゲドン様よりお告げを受けたのです。近い将来、黒龍神様の姿に似た人間の戦士が現れ、その戦士が黒龍神様の復活のカギになる事を。あのお告げは間違っておりませんでした。今、私の前にあなた様が姿を現し奇跡を起こしたのです。御使い様、黒龍神様の復活に手を貸してください。お願いします」


 俺は否定しても無駄だと思い、ビルガメスの話しをきちんと聞くことにした。


 「詳しい事情を教えてくれませんか」

 「戦士様には黒龍神様を復活させてもらいたいのです。私達人間族は、大罪人ギルガメッシュが黒龍神アルマゲドン様を殺してから、神様からの寵愛を失いました。500年前までは、黒龍神アルマゲドン様から熱い寵愛を賜り、様々な職業に就く事が出来ました。黒龍神様に緋緋色金(ヒヒイロカネ)を献上致しますと、緋緋色金の鮮度、量などにより、下位職のクラフトマン(職人)、ウイザード(魔法使い)、ウォーリアー(戦士)、クラージー(聖職者)。そして、上位職のパラディン(聖騎士)、ワイズマン(賢者)、グレイトウイザード(大魔法使い)、バーサーカー(狂戦士)になる事ができたのです。ウルク王国の国王ルガルバンダは、莫大な量の緋緋色金を黒龍神様に献上し、人間世界の征服を成し遂げ、その勢いで亜人の国家ウルフグランデルを滅ぼしました。しかし、ギルガメッシュの裏切りにより、人間族は神からの寵愛を受ける事が出来なくなり、最弱種族に成り下がってしまったのです。しかし、黒龍神様は完全には死んではいなかったのです。ギルガメッシュにより三つの頭、胴体の一部、右翼、尻尾を奪われましたが、微かに息をしてたのです。でもそれは死んではいないが生きているとも言えない状態です。それから、黒龍神様は500年の歳月をかけて、生命を保持しつつ回復に努めたのです。しかし、体の半分を失った黒龍神様が完全に復活することはできませんでした。今は私が定期的に献上しいる緋緋色金で生命を保ちつつ、下位職のみ職業に就く事が出来るようになりました。でも、上位職には就く事はできません。もしも黒龍神様が復活をすれば人間族は再び上位職に就く事が出来ます。人間族は他の種族に比べて繁殖力も高く人口数では圧倒的に多いので、国王ルガルバンダが果たせなかった世界征服の夢が実現出来るのです。戦士様お願いします。黒龍神様を復活させてください」


 ビルガメスは神に祈るように俺に懇願した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る