第29話 神の寝床

 ジャッジは馬車に乗り込み姿を消した。ジャッジとの接触はイベントだったのだろうか?それとも、俺に情報を与えるだけのNPCだったのかは不明である。

 俺は拘束されたプレイヤーを助ける事はしなかった。今は黒龍神の御使いとして敬愛の眼差しで俺を崇める者が多いが、ここでプレイヤーを助ければ状況は一転する可能性もある。どのような選択も出来る【七国物語】では、悪にも正義にもなれるはずだ。序盤から帝都に反逆するような目立つ行動だけは避けたい。それに、あのプレイヤーも自分でなんとか窮地を脱する事が出来るだろうと、俺は冷静に今の状況を冷酷に判断した。

 俺は宿屋に戻り部屋のベットでくつろいでいた。俺が借りた部屋は、5人パーティが泊れる大きな部屋だ。ポーターから大金を貰い、尚且つ素材を売って、そこそこの金額が手に入る予定があるが、贅沢をして大きな部屋にしたのではない。俺の身長が高すぎて、俺のサイズに合うベットがないからだ。正直俺のサイズだと帝都の町を探索するのも大変だった。ゲームの世界なので、どの店も天上は高く2mを超える人間でも入れるようになってはいたが、天井を意識しないと頭をぶつける危険もあった。ベットに関しては、ベットを4つ並べて使用するしか方法はなかった。これから【七国物語】をプレイする方には2mを越えないようにキャラクリをするのをお勧めしたい。戦闘にはデカい方が視界も広く、リーチも長く、筋力も多い、スピードに関しては体の大きいと動きは鈍くなる(ギルガメッシュには関係はない)。大きい方が戦いに有利になるだろう。しかし、暮らしの面では面倒な事が多い。ゲームモードなら関係ないが、リアルモードでプレイするのであれば、身長や体重の設定は気を付けなければいけない。


 次の日。


 俺は昨日に予約しておいた朝食をノアールと一緒に食べ終えてから、ガイアスティック城に向かう。もちろん、城の場所は昨日確認したので問題はない。城の場所は宿屋から歩いて30分以上はかかる。簡単に説明をすると、帝都の大正門を入ると緑豊かな大きな広場がある。この広場から東西北に道が伸びていて北に進むと宿屋などの商店街が立ち並び、東、西に進むと帝都民が暮らしている民家がある。帝都を正方形に例えると外側に市民が暮らす民家があり、中央に向かえば商店やギルドなど施設がある。そして帝都の一番の中心にガイアスティック城が存在する。ガイアスティック城の周りには20mほど堀があり、橋を渡らないと城には辿り着く事は出来ない。


 城に渡る橋にはゲートキーパーが配置されており、許可のない者は絶対に入る事は出来ない。俺はノアールを肩に乗せて橋の前まで辿り着いた。橋の大きさは横に10m縦に20mあり鉄で作られた頑丈な橋だ。橋の左右には計8名の銀のフルプレートアーマーを身に着けた兵士が威嚇をするように仁王立ちしていた。しかし、俺の姿を見ると、急に跪いて頭を地面につける。そして、青のダブルブレストを着た男性が俺の方へ走って来た。


 「失礼ですが、黒龍神様の御使い様でしょうか?私はガイアスティック城のゲートキーパーをしているライラックと申します」

 「違う。俺はただの冒険者だ。ポーターから皇帝陛下に謁見するように言われたので来ただけだ」


 「ポーターから話は聞いております。申し訳ありませんが少しだけお待ちくださいませ。すぐに知らせて参ります」


 ライラックは、衛兵に命令を出し城に向かわせた。10分ほどしたら衛兵は戻って来た。そして、衛兵の後ろには、赤のダブルブレストに金のボタン、肩には金の徽章、黒のタイトズボンを履いた40代くらいの男性が居た。その男性は俺に一礼をしてから喋り出す。


 「御使い様、ようこそガイアスティック城へ。私はガイアスティック帝国の宰相アドミラルと申します」


 俺は御使いではないと否定しても、無駄だとわかっているがそれでも否定をする。


 「俺は御使いではない。ただの冒険者に過ぎない」

 「はい。そのように答える事はわかっています。素性を隠す必要性があるのですね。以後、御使い様とお呼びするのは辞めることに致します」


 「そうしてくれ。それで、今から皇帝陛下に会えば良いのか」

 「はい。私が案内いたします」


 俺はアドミラルの後を追って橋を渡って城内に入って行く。


 「戦士様、本来なら玉座の間で皇帝陛下に会って頂きたいのですが、皇帝陛下より地下にある神の寝床に案内するように言われています。なので、神の寝床へ通じる秘密の抜け道へ案内致します」


 俺は絢爛豪華に飾り付けられた城の内部に進むのでなく、薄気味悪く日差しも当たらない道を進み、暗く不気味な通路を抜けて、地下に通じる階段を下って行った。


 

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