第28話 闇依頼
Sランクは全ての領域を超えた神のような存在に与えられるランクである。神と崇める黒龍神の御使いとなればSランクが妥当だとアンジュールは判断したのだろう。いや、一介の受付嬢が独断で判断できる事ではないはずだ。おそらく、ギルドマスターが判断したのだろう。ギルガメッシュの実力からするとSランクでも低いが、いきなり冒険者としてSランクからスタートするのは違和感を感じる。
冒険者ギルドで冒険者証を発行してもらい素材の買取も終了した。俺は目的を達成したので帝都を探索する事にした。
帝都にある道具屋、武器屋、防具屋などを見て回ったが、最強装備をしている俺には無縁の場所であった。
「ノアール、宿屋に戻ろうか?」
「もっとパパと一緒にお出かけをしたいの」
ノアールが肩の上で足をバタバタを動かして駄々をこねるので、もう少しだけ帝都の中を歩く事にした。俺が歩けばモーゼの海割のように人が避けて道が開かれる。俺が店に入れば人の姿が消えて貸し切り状態になる。黒龍神の御使いと勘違いされるのも悪くないのかもしれない。俺は静かに帝都を探索する事が出来た。
「パパ、真っ白で綺麗な馬車なの~」
ノアールが無邪気に笑いながら馬車を指さした。俺はノアールが指さした方に目をやると、芦毛の馬が引く白くて立派な馬車が見えた。その馬車は白銀のようにキラキラと光っていて、扉には三つ首の龍が描かれている。
「帝都の偉いさんの馬車か?」
三つ首の龍の姿はこの国の紋章なので、この立派な馬車に乗っている人物は、帝都で重要な役職に就いている可能性は高い。
俺が馬車を物珍しそうに眺めていると馬車は静かに止まる。
「あなた様は黒龍神様の御使い様でしょうか?」
馬車から勢いよく飛び出した男は俺の前に跪く。
「違う」
俺はこのやり取りを何度もしているので、さすがにイライラしてきた。
「いえ、絶対にあなた様は黒龍神様の御使い様です。私は黒龍神アルマゲドン様よりクラージー(聖職者)の職業を賜りましたジャッジと申します。皇帝陛下の命により神判所にて神官の職務をしております。皇帝陛下より黒龍神アルマゲドン様の完全復活の日は近いとお聞きしてます。もしかして、御使い様は黒龍神アルマゲドン様の完全復活の手助けに来られたのでしょうか?」
「何度も言わせるな!俺は黒龍神など知らんし御使いでもない。忙しいから俺は・・・」
俺はイライラしていたので、すぐにこの場を立ち去ろうとした。しかし、ジャッジの乗っていた馬車の窓から見覚えのある服装が見えた。
「馬車に乗っているプレイ・・・いや、あの男は何をしたんだ」
キャリッジ(人が乗る場所)の中にぼろ布の服を着た男性の姿が見えた。時間的には俺が出会ったプレイヤーとは違うような気がしたが確認することにした。
「おそらくあの男は、最近流行りの闇バイトに手を出した貧民です」
「闇バイトとはどういうバイトだ」
俺は気になったのでジャッジに聞いてみた。
「闇バイトとは、盗賊の手伝いをする貧民の事を指します。この闇バイトの特徴は、盗賊の手伝いをさせられた後に、襲った行商人の馬車と一緒に捨てられることです。見捨てられた貧民は、盗賊の代わりに罪を背負う事になりますが、人を殺していませんし、騙されて利用されただけなので、重罪に処される事はありません。しかし、襲われた行商人は大きな損害を負っていますので、その損害を補填する代わりに鉱山で強制労働をすることになります」
「強制労働はどれくらいさせられるのだ」
「罪の重さによって決まります。闇バイトをした貧民は1年から3年が妥当の刑期となっています。しかし、人を殺めたり、率先して盗賊に加担したとの証言があれば、刑期はさらに伸びるでしょう」
「そうか・・・あの男はどれくらいの刑期になるのだ」
「積み荷の被害も少なく行商人にはケガもありませんので、あの男の刑期は1年となるでしょう」
やはり、俺が出会ったプレイヤーとは違うようだ。そして、闇バイトとは闇依頼の事であろう。闇依頼とは冒険者ギルドからの依頼ではなく、個人的に依頼を受ける事である。ギルドが仲介しないので報酬額は大きいが、トラブルに巻き込まれる危険性がある。このプレイヤーは闇依頼とは知らずに依頼を受けてしまったのであろう。トラブルに巻き込まれない為には、ギルド以外で依頼を受ける時は、慎重な判断が必要だ。
俺が帝都に入る為に、積荷を運ぶ男性を助けたが、あれも大まかに分けると闇依頼に当たるだろう。男性を助けた判断が正しいのか、それとも間違っていたのか、今はどちらが正解だったのかわからない。しかし、いずれ知る事になるだろう。
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