第27話 冒険者ランク


 「カウンターの横に備え付けられている大きな台が見えないのか?お前が持っているショボい素材を出すが良い」


 他の帝都市民と違ってビーチックという男は俺に対して崇敬の念は全くない。それどころか俺を見下しているようにも感じ取る事が出来る。ビーチックは身長185㎝、体重は100㎏を超す巨漢で、顎髭を生やしたスキンヘッドのイカツイ顔をした男である。しかし、俺は2m10㎝とビーチックでさえも顔を上げないと俺の顔を見る事が出来ない。そんなはるかに自分を凌駕した存在に対して、横暴な口の利き方を出来るのは、よほど自分の力に自信があるのか、それとも、自分の方が身分・地位が上だと思い、身分差の上に胡坐をかいでるかのどちらかだと思われる。


 「申し訳ない。その台があまりにも小さいので、手持ちの素材を全て出す事が出来ないのだ」

 「ガハハハハハ、ガハハハハ。冗談のセンスは認めてやる。しかし、黒龍神様の仮装をして、みんなからちやほやされて調子に乗るな!うだうだと言ってないで今すぐに素材を出しやがれ」


 これがビーチックの本音のようだ。黒龍神の御使いでない俺が受付嬢にやさしくされて嫉妬をしていた。これ以上会話をしても無駄だと思い、俺は異次元ポケットから全ての素材を台の上に出す事にした。


 「わかった」


 俺の合図とともに台の上に全ての素材が出現する。案の定、台の上には載りきらずにビーチック目掛けて素材が崩れ落ちる


 「キャキャキャ」


 その姿を見たノアールが無邪気に笑う。


 「た・・・助けてくれ~」


 素材の下敷きになったビーチックは助けを求めるが誰も助けに行かない。


 「御使い様に失礼な態度をとるから天罰が下ったぜ」

 「ハハハハハ、いい気味だな」


 中央の食事席でくつろいでいた冒険者達が、ビーチックの無様な姿を見て腹を抱えて笑っている。冒険者の様子からすると、ビーチックはみんなから嫌われているようだ。


 「御使い様、冒険者証の作成が出来ました。どうぞ、お受け取り下さいませ」

 「わざわざ、ありがとう」


 赤毛の受付嬢が嬉しそうな笑みを浮かべる。そして、表情を一変してビーチックの方へ視線を向ける。


 「アンジュール、何があったの!」

 

 赤毛の受付嬢が青毛の受付嬢に聞いた。

 (ちなみに赤毛の女性の名はルージュ)


 「ビーチックが御使い様の忠告を無視して、素材を台に出すように言ったみたいなの」

 「あのバカが!あれほど御使い様に失礼のないように言ったのに・・・」


 ルージュは激しい足音を立ててビーチックに近寄る。


 「ホントにあなたは使い物にならないわね」

 「た・・・助けてくれ~」


 ビーチックは悲痛な叫び声をあげる。


 「ギルドマスターが来るまでそのままで反省してなさい」


 ルージュは戒めとしてビーチックを助けようとはしない。しかし、ビーチックの姿があまりにもみじめに見えたので、俺は素材を戻す事にした


 「素材を元に戻してやる」


 俺は再び素材を異次元ポケットに戻す。


 「キャ~~~スゴイ」


 ルージュが黄色い歓声を上げる。


 「御使い様は収納魔法をお使いになるのですね」

 「ああ」


 厳密には収納魔法ではない。


 「御使い様、カウンターの横の青い扉を開けると解体場になります。解体場でしたらたくさんの素材を出しても問題はありません」

 「わかった」


 ルージュは扉を開けて解体場に通してくれた。俺は解体場に全ての素材を出す。


 「サイレントベア―の素材まであるのですね。それに解体スキルも上級者クラスの綺麗な解体をされています。これは高額の値が付くかもしれません。御使い様、申し訳ございませんが、鑑定には時間がかかりますので、明日まで待ってもらえないでしょうか?」

 「わかった」


 特に急いではいないので、明日再び冒険者ギルドに行くことにした。俺はルージュにお礼を言って冒険者ギルドを後にした。


 「パパ、冒険者証を見せて」

 「ああ」


 俺はノアールに冒険者証を見せる。


 「パパ、すごいの!いきなりSランクからスタートしてるの」

 「え!嘘だろ」


 俺はノアールから冒険者証を取り上げて確認する。


 「あの受付嬢・・・勝手な事をしやがって!」


 俺は小声でぼやいてしまった。


 

 ※【七国物語】の世界では冒険者のランクはA~Fまである。

 Fランク=フリーランクと呼ばれ冒険者登録をすればフリーランクからスタートする。

 Eランクはある程度実績を積めばギルドマスターの采配でEランクに昇格する。中級冒険者、ベテラン冒険者と言われるランクである。

 Dランクはクラフトマン(職人) ウイザード(魔法使い) ウォーリアー(戦士) クラージー(聖職者)と呼ばれる職業を持つ者はDランクからスタートする。Dランクは 聖寵者(せいちょうしゃ)と呼ばれる職業持ちの冒険者しかなる事が出来ず、上級冒険者と呼ばれるランクである。

 Cランクは実績を上げたDランク冒険者がなるランクであり最上級冒険者と呼ばれる。

 Bランクは上位職と呼ばれるパラディン(聖騎士) ワイズマン(賢者) グレイトウイザード(大魔法使い) バーサーカー(狂戦士)の職業に就いたプレイヤーが冒険者としてスタートする時に与えられるランク。現在の人間族は就く事の出来ない職業。そして、エルフ族、ドワーフ族、亜人族、獣人族の種族で冒険者になる場合はBランクからスタートする。

 Aランクは実績を積んだBランク冒険者がなるランクである。

 Sランクは最上職であるブレイブ(勇者) グレイトワイズマン(大賢者)の職業に就いたプレイヤーが冒険者としてスタートする時に与えられるランク。現在の人間族は就く事の出来ない職業。海人族、竜人族で冒険者になる場合はSランクからスタートする。

 このように【七国物語】では、職業、種族によって冒険者ランクが決められ、職業、種族の壁は絶対に超える事ができない領域である。

 


 



 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る